【10月神戸市】第58回日本母性衛生学会総会・学術集会 予知予防と心の支え
10月6日(金)、7日(土)、神戸国際会議場と神戸国際展示場2号館で「第58回日本母性衛生学会総会・学術集会」が開催される。
大会長を務める神戸大学大学院医学研究科産科婦人科学分野の山田秀人教授に学会について、また教室の特徴について聞いた。
―第58回日本母性衛生学会総会・学術集会について教えてください。
第58回日本母性衛生学会総会・学術集会の一般演題は532題、参加予定人数は5000人強です。
日本母性衛生学会は1959(昭和34)年に発足しました。当時、日本の母体死亡は他国に比べて高く、その改善策を模索する学会として医師、助産師、看護師、保健師など母子保健や女性の健康に関わる職種の人々が参加。現在に至っています。
日本母性衛生学会の会員数は4710人。会員の構成は医師14.90%、助産師71.85%、看護師5.01%、保健師0.85%、その他(栄養士、養護教諭など)が7.39%(2016年3月31日現在)と多職種で構成されている学会です。
「患者と家族への支援」は医療の大事な柱の一つです。医療者、助産師、看護師、保健師および行政が多職種協働で患者さんに関わることが何よりも大切だと感じています。
―メインテーマに込めた思いとは。
メインテーマは「予知予防と心の支え」です。
いわゆる重症、難治性、治療抵抗性と言われる産婦人科領域のガイドライン的治療方法がない疾患があります。そのような疾患に対しては「予知や予防」「カウンセリングや説明」「病気になった後の心の支え」が重要です。あまり焦点があたってこなかった分野をとりあげています。
―プログラムを紹介してください。
五つの教育講演と七つのシンポジウムを企画。母子感染、不育症、性差、性的マイノリティー、虐待と暴力、障害と家族、メンタルヘルス、子育て支援などをテーマにしています。
母子感染に関しては「TORCH症候群 予防とカウンセリング」と題し、TORCH症候群の診断、治療や予防啓発などについて、5人の演者から発表があります。
また不育症については「不育症―体のケアと心のケア」と題し、「不育症とメンタルヘルス」「不育症患者の支援」などについて5人の演者に発表していただく予定です。
実践講座として、日本母体救命システム普及協議会公認の「母体救命ベーシックコース」を4コース開催します。
このほかのプログラムも、疾患の理解を深めることと社会的現状、支援のあり方に焦点を当てています。すぐに役立つプログラムの内容になることを目指しました。
―市民公開講座も企画しているようですね。
6日はシンポジウム形式で「乳がん卵巣がん〜その遺伝性と診断から予防・治療そして乳房を取り戻すまで」。
7日は、若い人や学生などに話を聞いてもらいたいとの思いで、元プロテニスプレーヤー・沢松奈生子さんによる講演「ウィンブルドンの風に誘われて〜世界を転戦するために必要なフィジカルとメンタル」を準備しています。
―今回で58回目と歴史のある学術集会です。
神戸大学産科婦人科学教室は、同学術集会をこれまでに2回開催しています。
最初は1969(昭和44)年、三代目教授の東条伸平教授が第10回学術集会を開催しました。当教室からの発表は「妊娠の成立」「産褥(さんじょく)の性機能」「新生児奇形の実態調査」でした。
次の開催は1990年。四代目教授の望月眞人教授が第31回学術集会を開催しました。会長講演「胎児と母体のコミュニケーション」など、一般演題290題、出席者数は1800人余でした。
歴史ある学術集会の会長を務めることは大変栄誉なことです。その重責を日増しに実感していますね。
―貴教室の臨床面での特徴をお願いします。
私たちの病院は総合周産期母子医療センターに認定されています。
センターにはリアルタイム4D超音波診断装置など最新鋭の医療機器・システムを導入。不育症治療後の妊娠、切迫早産、多胎、妊娠高血圧症候群、内科疾患合併妊娠などのハイリスク妊婦を管理しています。
新生児集中治療室(NICU)では500gに満たない未熟児から外科手術が必要なお子さんまで、さまざまな重症児を治療。
婦人科では、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんなどの女性のがん治療を担っています。また、それぞれの病状に応じて外科手術、放射線治療、抗がん剤治療、ホルモン療法などを実施しています。
―研究面で力を入れていることは。
TORCH(トーチ)症候群の研究に力を入れています。
同症候群は、母親が感染することで胎児や赤ちゃんにも重篤な感染症を引き起こす恐れがある疾患の総称です。その中の一つにサイトメガロウイルス感染症があります。
私は2011年度から厚生労働省の「先天性サイトメガロウイルス感染症対策のための妊婦教育の効果の検討、妊婦・新生児スクリーニング体制の構築及び感染新生児の発症リスク同定に関する研究」で班長を務めています。
これまで一貫して母子感染、その中でも特にサイトメガロウイルスとトキソプラズマのスクリーニング法、診断、治療方法について研究を続けています。
昨年は出生前に胎児の先天性サイトメガロウイルス感染の有無を検査する新手法を世界で初めて発見しました。
この研究成果は、米国の科学雑誌Clinical InfectiousDiseases (クリニカル インフェクシャス ディジーズ)に掲載されました。
胎児・母体ともに体への負担がない検査ですので、今後の普及を期待しています。
不育症にも力を入れています。
1993年、北海道大学在籍時に、世界で初めて原因不明 難治性の習慣流産に免疫グロブリンを投与する治療法を実施しました。当大学に来てからも継続していて、現在までに70例を超えました。
治療成績は良好で、成功率は約9割。2014年からはPmda(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)の指導を受け、臨床治験を実施しています。有効性が認められれば、保険適用となります。私が代表となり、その全国的な臨床治験を実施しているところです。
―そのほかに特徴的なことは。
抗リン脂質抗体症候群の病態解明と妊娠管理をしています。抗リン脂質抗体症候群の人は血栓を起こしたり、死産・流産を繰り返したりします。
2015年に大阪大学微生物病研究所免疫化学分野の荒瀬尚教授と当教室の谷村憲司講師らの研究グループが、抗リン脂質抗体症候群の原因となる自己抗体の標的分子と発症の仕組みを解明しました。
世界初の発見なので、不育症や血栓症・自己免疫疾患の新薬開発につながるものとして、とても注目されています。
これら3領域の研究は私たちが世界に誇れるものです。TORCH症候群、不育症、抗リン脂質抗体症候群で、困っている患者さんのために治療法を見つけ、エビデンスをつくることが私たちの使命なのです。
事務局 神戸大学医学部産科婦人科学教室
〒650-0017 神戸市中央区楠町7-5-1
TEL:078-382-6000
メールアドレス:jsmh58@med.kobe‐u.ac.jp
運営事務局 株式会社日本旅行 ECP営業部
〒105-0001 東京都港区虎ノ門3-18-19 虎の門マリンビル11階
TEL:03-5402-6401
メールアドレス:jsmh_58@nta.co.jp
MEMO
【TORCH症候群とは】
妊婦が感染すると流産や死産のリスク増加や胎児に先天異常を起こす可能性がある感染症の総称。「TORCH」は感染するウイルスの頭文字から名付けられており、このうちサイトメガロウイルスとトキソプラズマの感染者数が多く、サイトメガロウイルスは年間約1000例、トキソプラズマは約200例が報告されている。
Toxoplasma gondii(トキソプラズマ)
Others(その他多く:梅毒トレポネーマ、B型肝炎ウイルス、コクサッキーウイルス、EBウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルスなど)
Rubella virus(風疹ウイルス)
Cytomegalovirus(サイトメガロウイルス)
Herpes simplex virus(単純ヘルペスウイルス)
【不育症とは】
妊娠はするが流産を繰り返したり、死産を繰り返したりして、結果として子どもを得られない状態。妊娠した女性のうち不育症は16人に1人の割合でいることが、厚生労働省研究班による実態調査(2009年)で分かっている。
第58回日本母性衛生学会総会・学術集会「予知予防と心の支え」
会期:2017年10月6日(金)、7日(土)
会場:神戸国際会議場、神戸国際展示場2号館
会長:山田 秀人(神戸大学大学院医学研究科産科婦人科学分
プログラム:一部抜粋
10月6日(金)
【会長講演】「母子感染を予防しよう」
座長:新潟大学医歯学総合病院総合周産期母子医療センター教授 高桑 好一
演者:神戸大学大学院医学研究科産科婦人科学分野教授 山田 秀人
10月7日(土)
【招聘講演】「近代化のなかの出産と女性―明治大正期のメディアにみる『母性』」
座長:国立大学法人宮崎大学学長 池ノ上 克
演者:同志社大学大学院社会学研究科教授 佐伯 順子