産婦人科医が働きやすい環境づくりに尽力
九州大学病院産科婦人科の加藤聖子教授に、産婦人科医療を支える人材育成への取り組みについて聞いた。
◎重点化プロジェクトを進めるために
産婦人科医は全体数で見るとあまり減少していないのですが、高齢化が進んでいます。このため分娩を担う医師が減っていることが大きな問題です。今後も、将来を見据えて若い産婦人科の医師を増やしていく必要があります。
産婦人科医は女性医師の比率が高まっているのも特徴です。若い世代では7割が女性。ですから女性医師が働き続けられる環境作りが課題です。
特に、産婦人科医の場合、分娩に関わっていくための働き方についてさまざまな方策を考えなければいけません。
分娩はいつ起こるかわかりませんし、途中で止めるわけにはいきません。当然、夜中に働く必要も出てきますし、産婦人科医の勤務環境の厳しさにつながっています。
そこで考えられているのが、地域の中心となる分娩施設を決め、そこに人材を集中させて、ある程度重点化していこうという「重点化プロジェクト」です。日本産科婦人科学会が日本産婦人科医会と合同で2015年から推進しており、労働環境の改善策の一つとしてはより現実的な案だと考えられています。
一つの病院に医師が集中して多数集められることで、休みが取得しやすくなりますし、交代勤務なども可能になります。特に、子育て中の女性医師などにとっては家庭との両立がしやすくなると思います。
ただ、お産を扱う地域の産婦人科や診療所の医師に誤解されている面もまだあります。重点化することで、「患者さんがその施設に集められてしまうのではないか」という懸念を持たれているようです。
しかし、プロジェクトの考え方は、1次診療は地域の医療施設でしていただき、合併症のある妊産婦や難しいケース、高度な技術が必要な手術などを扱う2次病院を重点化して対応していこうというものです。
「重点化プロジェクト」は具体的にはまだ実行されていません。早くこのようなシステムを制度化し、構築していくことが重要ですし、実行も可能だと思います。
福岡県の場合は、日本産科婦人科学会から地域の医師の先生方にプロジェクトについて説明する機会をつくりました。
また、私が福岡産科婦人科学会の学会長を務めていた2015年から2016年の2年間の間に福岡県地方学会にワーキンググループを作り、患者さんが分娩施設に行くまでの時間などを調査。それをもとに、県内の分娩施設の分散の状況、格差などを落とし込んだ地図を作りました。分娩施設に行くまで時間がかかる地域と基幹病院との連携が必要な医療機関が可視化され、これによって「重点化プロジェクト」の必要性もより明らかになりました。
2018年度に開始する医療計画に盛り込んでいただくためにも、県内の実態を伝えながら福岡県に進言していきたいと考えています。
◎屋根瓦方式でチーム医療を実践
「重点化プロジェクト」が地域の視点で考えた解決策であるとすれば、一つの病院の中で考えた解決策が「チーム医療」だと思います。
当直の当番制や緊急時の協力体制...。加えて、2013年から当院の産婦人科病棟で取り入れているのが、1人の患者さんを3人の主治医、そしてそれを指導するユニットリーダーなども含めてチーム全体で診ていこうという考え方です。われわれは「屋根瓦方式」と呼んでいます。
主治医の1人が家庭の事情で急に休んでも、別の主治医が診ますので患者さんにとっては特に問題はありません。むしろ複数で診てもらえるという安心感もあるようです。
主治医自身も自分だけで診ているわけではありませんのでこれまでよりも休みが取りやすくなります。
現在、病棟には、「主任」をトップに「副主任」「ユニットリーダー」「スーパーバイザー」「主治医」、そしてこれに研修医も加わったチームが三つあります。
屋根瓦方式は責任者が全体を教育するシステムでもあります。特にベテラン医師である「スーパーバイザー」がチーム全体の動きを把握していることがポイント。1週間に1回は情報共有の会議をチームで実施しますし一緒に回診もします。主治医の忙しさは変わりませんが、休む際に緊急の体制があるので安心感があるようです。
◎将来のロールモデルを提示していく
女性医師だけでなく、若い医師に将来像を提示することも彼らが仕事を続けていくモチベーションにつながると思います。今は、関連病院に行っても、女性の医長、部長がほとんどいないのが実情です。各病院に女性管理職が就くことで、そこを目指したいと考えるようになるでしょう。
現在、当講座には160人が所属しています。私は教授着任以来、毎年8月から10月にかけて全員に面談をしています。一人ひとりとコミュニケーションしながら、それぞれのキャリアプランを考えていくためです。
われわれ産婦人科医は周産期、生殖、腫瘍といった専門医の取得を目指します。それらを取得するためには、どのような期間で、具体的にどのような病院で何をしなければいけないのか。その方法について面談を通して一緒に考えます。
女性医師も男性医師も、自分が決めたことであれば続けていけると思います。焦らなくて良いから目標を持って、それぞれの仕事を「置かれた場所で」しっかり続けてほしいと思います。私自身も、生き生きと元気に仕事を続けている姿を後進に見せていきたいですね。
◎来年3月、日本産婦人科乳腺医学会開催
最近では、「女性のヘルスケア」という考え方が必要だとされています。「産婦人科医が女性の一生をかかりつけ医のような立場でトータルで診ていこう」という流れになっていく。そのためには臓器の枠を超えた女性の体全体に対する知識が必要です。
2018年3月11日(日)に本学医学部百年講堂(福岡市)で開催する「第24回日本産婦人科乳腺医学会学術集会」の会長を務めることになりました。
日本産婦人科乳腺医学会(旧:産婦人科乳癌学会)は、産婦人科医が乳がん検診や超音波検査などの知識や技術を持って、乳腺ケアに関わろうという考えに基づいて10年ほど前にできた学会です。会員は1000人を超え、定期的に研修会なども開いています。
乳がんはがんの中でも女性の罹患(りかん)率がトップです。このため、女性の健康を考える上でも乳房管理は大切です。
産婦人科医が乳房検査の技術や知識を身に付けることで、何か疑いがあれば乳腺外科へとつなぐことができます。そのような道筋ができれば患者さんにとっても大きなメリットになります。
九州大学病院 産科婦人科
福岡市東区馬出3-1-1
TEL:092-641-1151(代表)
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