九州医事新報社編集部
]]>]]>肝硬変をはじめとする慢性肝疾患や肝がんの治療、研究に力を注ぐ岐阜大学大学院消化器病態学分野(第1内科)。近年、肝炎ウイルス感染に起因しない「非B非C型」の肝炎や肝がんの患者が増加するなど、新たな課題も浮かび上がっている。現状と今後について、清水雅仁教授に聞いた。
国内の肝がんの罹患(りかん)者数は減少傾向です。しかし2018年のがん統計予測によると、年間の死亡数はおよそ2万7000人。部位別では5番目と、いまだ高い順位です。
肝がんの主な要因はC型肝炎ウイルス(HCV)とB型肝炎ウイルス(HBV)です。100%近い奏効率が期待できるインターフェロンフリー治療などによって、C型肝炎ウイルスの排除が可能です。
B型肝炎ウイルスに関しては、ウイルスを完全に排除する方法はまだ確立されていません。核酸アナログ製剤の投与などによる抗ウイルス療法によって肝炎を抑制します。2016年10月、B型肝炎ワクチンが定期接種の対象となりました。今後の感染者数の減少に期待しています。
肝疾患の領域において日本が有する診断や治療技術は、世界をリードしていると言えます。さらに、それらを支える医療制度がしっかりと構築されている点も大きな特徴です。 $ウイルス感染に起因する肝がんが減っているとされる中で、ウイルス感染ではない「非B非C型」と呼ばれる肝炎や肝がんの割合が大きくなっていることが指摘されています。C型、B型肝炎ウイルスが関与しない肝がんは、この10年間で2倍程度に増加したとも言われています。
一般的に、非B非C型の半数は、飲酒によるアルコール性肝障害が主因だと考えられてきました。
現在、お酒を少量しか飲まない、あるいはまったく飲まない人であっても発症する肝臓の疾患「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」の増加が注目されています。
NAFLDが進行すると「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)」に至る場合があります。NASHによる肝硬変が肝がんへと至る割合は年率2%ほどだと報告されています。
NAFLD、NASHの患者さんの多くに肥満や糖尿病などが見られます。メタボリックシンドロームと深く関わっており、内臓脂肪型肥満で体内の炎症状態が続くことが発症に関係していると考えられています。
私たちは研究で「内臓脂肪の量が多いほど肝炎の活動が活発化する」ことを突き止めましたが、NAFLDやNASHについてはまだ分からないことが多く、診断そのものが難しいという状況です。
現時点での治療法は、食事療法と運動療法を中心とする減量です。NASHの治療薬の開発が進められていますが、実用化は少々先のことです。
岐阜大学医学部附属病院は、岐阜県で唯一の肝疾患診療連携拠点病院。県内にある15の肝疾患に関する専門医療機関と共に、治療やそのフォローアップに努めています。
私たち第1内科は岐阜県の「消化器がんによる死亡者の撲滅」を目標に掲げています。臨床や研究の成果をより広く発信していくことを大きな目的に、寄附講座「地域腫瘍学講座」を開設しています。
20本のスコープを搭載した「経鼻内視鏡検診車」を導入した岐北厚生病院(岐阜県山県市)と連携して、検査体制が十分でない地域などで検診をサポートしています。大学病院が参画したこのような取り組みは、全国的にも珍しいでしょう。新たな治療や診断のあり方を提案したいと思います。
岐阜大学大学院 医学系研究科 腫瘍制御学講座 消化器病態学分野(第1内科)
岐阜市柳戸1-1
TEL:058-230-6000(代表)
https://hosp.gifu-u.ac.jp/1naika/
肝胆膵領域の現状、そしてこれからの治療のあり方は│。日本肝胆膵外科学会理事で、6月に開かれる「第31回日本肝胆膵外科学会・学術集会」の会長も務める香川大学消化器外科学の鈴木康之教授に、治療で心掛けるべきポイントや学会の見どころを聞いた。
肝胆膵の手術は高い技術が求められ、感染症など術後のトラブルも少なくありません。減少傾向にありますが、それでも高難度手術に分類される肝胆膵手術では2~3%の患者さんが周術期に亡くなるのが現状です。
2008年、日本肝胆膵外科学会は「高難度の手術をより安全かつ確実に行うことができる外科医師を育てる」を趣旨として「高度技能専門医制度」をスタートさせました。
審査において重視しているのは、手術実績表、教育プログラムの単位数。そして、専門医の取得を目指す医師が術者として担当した 「高難度肝胆膵外科手術のビデオ」です。私を含む複数の審議員が技術はもちろん、安全性への配慮も含めて厳しくチェックします。
ですから取得は容易ではありません。制度を開始して10年ほどが経ち、その成果は手術成績の底上げという形で現れ始めています。
香川県で唯一、年間50例以上の高難度肝胆膵手術を行う「修練施設(A)」の認定を受けています。
すい臓がんの治療は力を入れている領域の一つです。すい臓がんと診断された患者さんのうち、手術が可能な人の割合は約4人に1人。生存率が低いことで知られ、治療が難しい種類のがんと言うことができます。
2000年以降に登場した抗がん剤によって予後の改善が見られるようになりました。
まず、術前化学療法で再発率の低下と予後の改善が得られています。さらに手術できないケースであっても、抗がん剤や放射線治療を駆使することで腫瘍マーカーである「CA19-9」が正常の値になるなど、患者さんによっては非常に効果が現れる方もいます。
当初は「手術不可能」と診断されていた患者さんが手術可能」となった香川大学の症例はこれまでに13例。そのすべてが、当初から手術可能だった方と成績は変わりません。ただ、効果や副作用を事前に予測するのは難しいのです。
また、香川大学は四国でただ1カ所の「すい臓移植実施施設」でもあります。これまでに6例のすい臓移植を実施しました。血液透析やインスリン自己注射などが欠かせない糖尿病の患者さんにとって、すい臓移植(腎臓同時移植)は透析やインスリンから解放されるため「QOLの向上」に直結し、さらに生命予後も大きく改善します。
四国での開催は20年ぶりです。
日本肝胆膵外科学会は、国際化を見据えて「英語での発表」を推進してきました。2017 年の第29回大会が、「第6回アジア・太平洋肝胆膵学会」との合同開催だったことを機に、全面的な英語化に踏み切りました。今回も一部を除いて英語です。
海外から35人ほどのゲストが来日します。国境を越えて、多様な視点から活発なディスカッションが繰り広げられるでしょう。
テーマは肝胆膵外科の原点とも言える「Humanity and Professionalism」としました。肝胆膵領域はリスクとどう向き合うかが大切です。患者さんの状態に応じて安全性には最大限の配慮をしながらも、「どれだけ治せるか」「そのために何ができるか」を積極的に考えるプロの姿勢を忘れてはなりません。
最新の話題を中心に、3日間にわたって充実のプログラムを用意しました。ぜひ多くの方に参加していただきたいですね。
香川大学 医学部外科学講座 消化器外科学
香川県木田郡三木町池戸1750-1
TEL:087-898-5111(代表)
http://www.med.kagawa-u.ac.jp/~surgeryg/
抗がん剤曝(ばく)露対策協議会(垣添忠生理事長)理事で同志社女子大学薬学部臨床薬学教育研究センターの中西弘和教授が、ウェブサイト「抗がん剤治療と曝露対策」の公開準備を進めている。薬剤師や看護師などを主な対象とする専門的な情報が中心で、患者への説明をサポートする情報ツールなども盛り込む。公開は2月末を予定。中西教授は「医療者がすぐに活用できる内容にしたい」と語る。
米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は「ハザーダスドラッグ(危険薬剤)」の定義として「発がん性」「低用量での臓器毒性」「遺伝毒性」などを挙げており、リストには抗がん剤も含まれている。
国内でも、これまで日本病院薬剤師会(1991年「抗悪性腫瘍剤の院内取扱い指針」など)や日本看護協会(2004年「看護の職場における労働安全衛生ガイドライン」など)がガイドラインを策定。医療者のばく露対策が推進されてきた。2014年には、厚労省が関係団体に向けて「発がん性等を有する化学物質を含有する抗がん剤等に対するばく露防止対策について」を通知するなど、国としてもばく露対策を促進しているところだ。
しかし、ばく露に対する理解や対策の実践については、医療施設によって温度差があるのが現状だ。
中西教授はウェブサイト「抗がん剤治療と曝露対策」を通じて正しい知識の普及や、医療従事者が行動するための後押しを目指す。重視したのは「現場ですぐに役立つ」情報だ。
ウェブサイトでは、ばく露防止に効果的だとされる医療器機の使用方法といった「実務」や、抗がん剤ばく露の対策がどのように発展してきたのかを学ぶことができる「教育」、最新の研究成果などを知らせる「研究」などの、カテゴリ別に情報を整理した。動画コンテンツなども盛り込むことで、視覚的にも分かりやすく「危険性を認識して適切に対処する」ためのポイントを伝える。
ウェブサイトは公開後、順次、コンテンツを充実させていく計画だという。例えば、がん治療に関する海外の論文を翻訳して掲載する「。忙しくてじっくりと読む時間がない」「英語の論文はハードルが高い」といった医療従事者がアクセスしやすく、海外の動きをリアルタイムで共有できる機会を提供するためだ。中西教授がこれまでの講演などで使用した資料も公開。「講師を招くのが難しい地域の医療機関もある。スライドを役立ててもらえたらうれしい」。また、医療従事者の業務を支援するツールを配布。患者に対する啓発効果も期待している。抗がん剤ばく露とは何か、治療中の副作用にはどのようなものがあるのか。説明用の文書や、副作用のチェックリストといったファイルのデータをダウンロードできるようにする。
学会や医療団体、企業など、医療に関わるさまざまな職種が参画して医療安全対策の普及を目指すプロジェクト「医療安全全国共同行動〝いのちをまもる パートナーズ〞」。その行動目標の一つである「医療従事者を健康被害からまもる」の中で「抗がん剤ばく露のない職場環境の実現」を掲げるなど、ばく露対策は医療界全体を巻き込んだ動きへと発展しつつある。中西教授は医療機関の評価項目として、今後、ばく露対策が重視されていくと見ている。「安全に働ける病院として人材の確保にもつながるのではないか。ぜひウェブサイトの情報を活用してほしい」。
日本に内視鏡外科が普及し、発展していく過程を最前線で体感してきた渡部祐司教授。ロボットに代表される新たなテクノロジーの登場などによって、外科医に求められる技術水準や安全性への配慮も変化している。「トレーニングのための環境をさらに整備していく必要がある」。挑戦は続く。
日本国内では1990年代初めに内視鏡外科手術が広がり、四国でも数施設が内視鏡外科手術を開始しました。
手術の質の向上を目的に1993年、香川県立中央病院の前院長である塩田邦彦先生を中心に「香川県内視鏡下談話会」が設立。
一方、全国組織「日本内視鏡外科学会(JSES)」が誕生し、愛媛県をはじめ各県の研究会は、その活動の軸足をJSESに一本化していきました。そのような中、「香川県内視鏡下談話会」は1996年、名称を「四国内視鏡外科研究会」に変更しました。
塩田先生がそろそろ臨床を離れるという時期に差し掛かった頃、「今後の四国内視鏡外科研究会をどう運営していくか」についてお話しする機会がありました。この歴史ある研究会をさらに発展させ、全国学会にはない四国独自の特色ある研究会として充実させたい。そう考えて私が代表を引き受けることになったのです。
2018年4月の診療報酬改定で、ロボット支援下内視鏡手術による胃がんや直腸がんなどの治治療が保険適用となりました。
ロボット支援下内視鏡手術のような新たな技術が広がっていくときに注意しなければならないのは「安全性の確保」です。
そこで、関係する学会による、医師の技量を認定するプロクター制度の確立が進んでいます。私もJSESのプロクターに選ばれ光栄であるとともに責任も感じています。
プロクターは自身の技術を磨くだけでなく、地域の医師の技術向上を後押しする役割もありますので、トレーニング指導にも関わります。
愛媛大学は2007年にできた「低侵襲手術トレーニング施設」を有しています。四国管内であれば日帰りも可能です。今後は四国内視鏡外科研究会を軸に地域全体の手術のトレーニング体制をより充実させたいと考えています。手術の技術に地域差があってはならないと思います。
カダバーサージガルトレーニングの趣旨に同意され、ご提供いただいたカダバーを使って、外科手術のトレーニングセミナーを開いています。
従来、カダバーが提供される目的は「解剖実習」が一般的とされてきました。ただ、国の制度として明確な指針などが定められておらず、研修の内容によっては法に抵触するのではないかと言われてきました。また、日本では遺体にメスを入れることに対する抵抗感なども根強く、なかなか実現できませんでした。
海外ではカダバーを用いた手術の研修が普及しています。私たちはしばしば国外でトレーニングを重ねてきたのです。外科手術の高度化に対応するため、外科系の学会が連携してカダバートレーニングが可能な環境の整備を国に提言。厚労省は6カ所の「カダバーサージカルトレーニング施設」を選定し、愛媛大学は2013年に認定されました。
例えば、胃がんの手術でリンパ節郭清をするケース。膵臓を傷つけないように鉗子を使わなければならないのですが、膵臓の形状や位置は、人と豚では全く異なります。
より臨床に近い研修を可能にするカダバーでのトレーニングは、こうした差を補ってくれるものです。技術と安全性の向上を担保するためには、カダバーサージカルトレーニングのさらなる環境整備が不可欠です。
愛媛大学大学院医学系研究科 病態制御部門外科学講座 消化管・腫瘍外科学
愛媛県東温市志津川
TEL:089-964-5111(代表)
https://www.m.ehime-u.ac. jp/school/surgery3/
時代に即したアップデートを続けている静岡県立総合病院。2017年に先端医学棟を新築し、リサーチサポートセンターを開設。翌年には産婦人科病棟をリニューアルと、次々に改革を打ち出す。
静岡県は、男女共に健康寿命が全国トップクラスの健康長寿県だ。同県は〝健康寿命日本一〞を目指し、病気にならない健康づくりのために「ふじのくに健康長寿プロジェクト」などを展開している。静岡県立総合病院でも、健康寿命を延ばす取り組みの一環として、先端医学棟にリサーチサポートセンターを開設。臨床や疫学研究に特化し、遺伝子解析、統計解析、検体の収集・保存・解析などを行っている。
2018年4月、同センター長に就任したのが宮地良樹京大名誉教授だ。「京大で社会健康医学専攻科設立に携わったこと、静岡出身であること、そして本庶佑先生からの拝命を受け、着任しました。臨床研究には統計や疫学の知識が不可欠なので、そういった意味でも貢献できると思います。また先端医学棟のワンフロアをすべて研究に使っていますが、このような病院はあまり類を見ません。資金や人材も潤沢で、とても有意義な研究ができるでしょう」と熱意をのぞかせる。
もう一つ、新プロジェクトとして「社会健康」を学ぶ大学院大学の開設準備も進んでいる。「開校は2年後を予定しています。主にビッグデータ、疫学、ゲノムコホートの三つを柱とし、主に医療専門職に入学してもらう構想です」
2018年月には、産婦人科病棟もリニューアルした。手術室の移設で空いたスペースを改装。約1200平方メートルだった産婦人科エリアを約2000平方メートルに拡張し、「マタニティーセンター」と改称した。
陣痛から分娩、回復まで一部屋で過ごすことができるLDRは全4室。2室はベッド、もう2室は畳で、すべての部屋にソファーと浴槽を完備。「助産院での出産スタイルを望まれる方も多いので、畳の部屋をつくりました。近い将来、フリースタイル分娩も可能になります。もちろん状況次第では促進剤も使いますが、患者さんと相談しながら、できるだけ自然に近いお産を、と考えています」(小阪謙三産婦人科部長)。
バックヤードもスタッフの動線が考慮された。各部屋は後方でつながっており、中央に手術室を備える。病室も大幅に手を入れた。4人用の大部屋は8室から5室に減らし、個室を5室から室に増やした。ミニキッチンなどを備えた特別室もあり、新病棟のオープン後は、分娩数も増加傾向にあるという。
産婦人科医不足が叫ばれ、産婦人科の閉鎖が増える中、産婦人科病棟の充実へかじを切ったのは、将来の産科集約化を見越してのことだ。「静岡県の分娩数は減少傾向にあり、静岡市では年間5千件を割りました。妊婦さんやご家族が安心感の高いお産ができるよう、ハード面ソフト面共に一層充実させていくことが、産婦人科を継続する医療機関には求められていると思います」と、小阪部長は意欲的だ。
現在、静岡県には産科婦人科専門研修プログラムの基幹施設が2カ所しかない。県人口に対して、医師も施設も少ないのが現状だ。そこで、同院では基幹施設になる準備を進めている。今は、常勤医師9人が時間365日体制で勤務。医師は半数が女性だ。また、J│CIMELS(日本母体救命システム普及協議会)のベーシックインストラクターも4人在籍している。「今後はより多くの出産を受け入れ、優秀な産婦人科医の育成にも貢献したいですね」
地方独立行政法人静岡県立病院機構 静岡県立総合病院
静岡市葵区北安東4-27-1
TEL:054-247-6111(代表)
http://www.shizuoka-pho.jp/sogo/
未知の研究テーマに取り組み、「苦しいときもあった」と語りながら、どこか楽しげだ。年ほど前から研究を続けてきた「人工膵臓(すいぞう)」を用いた周術期の血糖管理が保険収載されるなど、さまざまな挑戦の成果が見えてきている。
ずっと大切にしてきたのは、研究マインドを持ち、常に考えることができる手術が上手な外科医「アカデミックサージャン」の育成です。
そのための具体的な目標として三つを掲げています。一つ目は、良好な手術成績。「良好な手術成績は、良好な人間関係から」をモットーに、良い人間関係の構築を基本としています。手術は、チームで行います。いくら高い技術を持った外科医が1人いたとしても、円滑なコミュニケーション、意識の共有などによってチームがまとまっていないと、質の高い医療はできません。
二つ目は、すべての研究を英語論文にすることです。経験が大事にされてきた医学界ですが、今は科学化の時代。エビデンスを世界中で共有していくことが大切です。優れた研究を、高知から世界に発信したいと思っています。
三つ目は、医学教育の充実です。特に、学生がこの大学に誇りを持てる「母校愛」を培うことができる教育を目指しています。
「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」という連合艦隊司令長官、山本五十六の有名な言葉があります。
私も、手術や研究を継続して「やってみせる」こと、改善点や修正点を指摘するだけでなく「ほめる」ことを意識しています。
2000年に米国ベイラー医科大学に留学した際、外科のチェアマンであったブラニカルディ先生と、「人工臓器の父」と言われた能勢之彦先生の指導の下で始めたものです。
人工膵臓装置を使った動物実験からスタートし、帰国後もメーカーと共同で研究を続けました。高知大学に赴任した2006年の8月には、侵襲の大きな手術をする際に発生する外科的糖尿病のコントロールのための臨床研究を開始しました。
周術期には、炎症性サイトカインが上昇し、高血糖状態が出現します。術中から術後の高血糖期間が長くなると、創部感染症の発生率や術後合併症率や死亡率が高くなります。
私たちは、消化器外科手術の術中から術後、ベッドサイド型人工膵臓を使い、正常値に近い目標血糖域80~110mg/dℓで血糖管理を行うことで、創部感染症の発生頻度を抑制することなどを明らかにしました。人工膵臓活用は入院期間短縮、看護師の負担軽減などにも貢献します。
長い時間はかかりましたが、2016年に人工膵臓療法として保険適用となりました。私たちの研究の成果を広く国民に還元できたことは、大きな喜びです。
漢方薬は、いまだに、与した量のうちどのぐらいが作用部位にたどりつくのか、またどのように分解されて、排出されるのかがわかっていません。
私たちは、神経症や不眠症などで使われている「抑肝散」、機能性胃腸症や胃食道逆流症などに利用される「六君子湯」などの成分に関する薬物動態試験を実施・検討し、国際ジャーナルに発表しました。すでに、漢方薬は臨床の場で広く使用されています。これまでの東洋医学の概念で漠然としていたことも、西洋医学と同じように科学化していくことを目指しています。
現在、漢方薬に使う薬用作物の栽培が、県内の越知町で行われています。将来的にはメードイン高知の質の高い漢方を世界に届けたい。われわれのこの研究が地域の発展にもつながればと思っています。
高知大学医学部外科学講座外科1
高知県南国市岡豊町小蓮185-1
TEL:088-866-5811(代表)
http://www.kochi-ms.ac.jp/~fm_srgr1/
3月に定年を迎える奥野清隆主任教授。入局して年、大腸がんの研究・治療に向き合う間に医療技術は劇的に進化し、現場環境も大きな変貌を遂げた。若手にバトンを託す今、胸に去来する思いとは。
年100万人に上る日本のがん新規罹患者のうち、最も多いのが大腸がん。この大腸外科に注力してきました。
初代教授の陣内傳之助先生は1973年に「大腸癌(がん)研究会」を立ち上げ、初代会長として活躍された方です。胃がんの研究会会長もされましたし、いわば消化器外科のスーパースター。そのお弟子さんで、3代目会長を務められたのが安富正幸・近畿大名誉教授。私の師匠です。手術バイブルである「大腸癌取扱い規約」を作成するなど、ここは伝統的に大腸がん治療の中心的な教室の一つだったと言えます。
私が医師になった当時の手術は、大きく切り、徹底してリンパ節郭清を行うという方法。「偉大な外科医ほど大きく切る」と教えられたものです。それが今は逆。腹腔鏡が主体ですし、ロボット手術も積極的に実施しています。
こうなると、若い世代の出番です。上田和毅准教授と川村純一郎准教授、1994年、年卒の2人が名コンビとなって、意欲的に取り組んでくれています。かじ取りは任せました。あとは彼らのサポートに徹し、バトンを渡すだけです。
急激に腹腔鏡手術が拡大したことですね。サージカルデバイスの進化で、名人芸を持たなくても良い手術ができるようになった。私が医者になった時分は結紮(けっさつ)第一で、先輩に「こんなことしなくてすむ手術ってできませんかね」と冗談で言っていたのが現実になったのだから驚きです。
医療の均てん化は大腸癌研究会でも目標の一つですし、その意味でもメリットは大きい。腹腔鏡は画面を見ながら教えやすく、学びやすいので、教育面でも優れています。
それにしても時代は変わりました。昔は徒弟制度が根強くて「教えてもらうなんて年早い、自分で盗め」だの、術野をのぞこうとすると「邪魔や。心眼で見よ」だの(笑)。今は、教育制度にしても、教わる人が学びやすいような仕組みに変化しています。
ここは南大阪で唯一の医学部。ワンランク上の手術を行うことが大学病院としての存在意義です。
例えば、aTME(経肛門的全直腸間膜切除術)と言って、腹腔側のみでなく肛門側からも内視鏡を用いる手術がありますが、これは人数も必要ですし一般の病院では難しい。大学でないとできない治療を完遂している自負はあります。今後もっと伸ばしてほしいと願っています。
教育面では、底辺の拡大ですね。近いうちに教授に昇格する予定の准教授コンビは手術がすごく上手ですが、技術認定医はまだこの2人だけ。今、何人か申請していて来春合格発表があります。うちの規模だったら5〜6人はほしいところ。期待しています。
今の若い人は、ある意味冷静に医師という職業を評価しています。コストパフォーマンスやQOLを大事にする。話を聞くと、よく理解できます。そういう思考が主流になれば、職場環境も少しずつ変わるかもしれませんね。
家は留守にしっぱなし、趣味も持たずにきました。「よく何十年もやりましたねえ」と同情されることもありますが、それでも生まれ変わったら、また外科医になりたい。環境が整った今なら、もっとうまい外科医になる自信がありますし、それだけやりがいのある仕事です。
手術は、一見乱暴な手法に思われがちですが、確実に治せる可能性が高く、効率の良い、患者に優しい方法だと言える。若い人にも、精一杯追究してほしいと願います。
近畿大学医学部外科学(下部消化管部門)
大阪府大阪狭山市大野東377-2
TEL:072-366-0221(代表)
http://www.kindai-geka.jp/
遺伝子レベルの解析に基づき個々の患者に最適な治療法を探るオーダーメード医療(個別化医療)の研究が加速している。国が推進する「がんゲノム医療」の普及の見通しは。最前線を知る一人、徳島大学の高山哲治教授を訪ねた。
2018年5月、私たちは「がん遺伝子パネル検査」を開始しました。がんに関連する数百の遺伝子を網羅的に調べ、がんの原因となっている遺伝子を特定します。その結果を基に効果が高いと考えられる薬剤を選択し、治療方針を組み立てるのです。
標準治療が「ない」と診断された方、あるいは標準治療を終えた患者さんなどが対象です。これまでに15人ほどの方が徳島大学病院で検査を受けました。
国は2018年2月、がんゲノム医療の普及を促進するために、けん引役として全国に11の「がんゲノム医療中核拠点病院」を指定しました。当院は中核拠点病院と連携して検査などを実施する「がんゲノム医療連携病院」です。
連携病院の拡充など段階的に提供体制の整備が進む中、今春、先進医療として提供してきたがん遺伝子パネル検査が保険適用となる見込みです。
現状、検査によって原因となる遺伝子変異が見つかり、薬剤が治療につながるケースは1~2割だと言われています。
保険適用によって検査数が増加し、情報の集積が進むことで、より精度の高い診断、治療に結びつくことが期待されます。
実際の臓器に近い構造をもつ「ミニ臓器」とも呼ばれるオルガノイド。その作製技術に関する研究が注目されています。
各臓器や組織に特有の機能を担う細胞を「分化細胞」と言います。分化細胞の寿命は数週間。臓器の機能を維持するために、幹細胞が新たな分化細胞を生み出し続けています。
採取されたヒトの正常な細胞や腫瘍は、一般的に1カ月程度で死滅してしまいます。従来の培養方法では「幹細胞が分化細胞を供給し続ける」環境の再現が困難だったためです。体外でヒトの細胞を長期に培養し、薬剤試験などを可能にする手法の確立が求められていました。
慶應義塾大学の佐藤俊朗オルガノイド医学教授らのグループは、腸管上皮幹細胞培養技術(腸管オルガノイド培養)を開発しました。幹細胞の増殖に必要な増殖因子として「EGF」「R-spondin」「Wnt」「Noggin」などを用いることで、永続的な培養が可能となったのです。
ここ数年、私たちもこのオルガノイド培養技術を導入し、大腸がんの薬剤耐性機序の解析や、薬剤の効果の検討、予防法の開発などに取り組んでいます。がん患者の腫瘍を再現できるようになったことで、研究の幅は大きく広がりました。
遺伝子変異特定後、スムーズに最適な治療へ移行する。オーダーメード医療の発展に貢献できるでしょう。オルガノイド培養技術を活用した研究領域において、徳島大学が四国エリアをリードできるよう、努めていきたいと思っています。
研究から臨床への応用には、「情報の周知」と「確実に運用されるシステム」の整備が重要です。
近年、がんゲノム医療に対する関心の高まりなどを背景に、患者やご家族からのさまざまな問い合わせが増加しています。
ただ、高齢化が進み、情報リテラシーの格差はさらに拡大していくと思われます。また、新たな技術に対する医療者の理解度についても、やや開きがあることが指摘されています。
市民公開講座や院内での講習会などを通じて正確な知識の共有、適切な対応を図りたいと思います。
徳島大学大学院医歯薬学研究部 消化器内科学分野・腫瘍内科学分野
徳島市蔵本町3-18-15
TEL:088-633-9116(代表)
http://tokudai-shoukaki.jp/
膵がん撲滅プロジェクトセンター、膵臓疾患特殊外来の立ち上げに携わるなど、難治がんの一つ「膵がん」の治療に長年取り組んできた。島根大学医学部消化器・総合外科学講座の田島義証教授は、次の一手をどう考えているのか。
2014年4月に、臨床系と基礎系の関連講座が集まって「膵がん撲滅プロジェクトセンター」が設立されました。具体的な狙いは、膵がんが多い島根県内の疫学調査をすること、臨床病理学的データの整理、そして膵がんに有効な薬剤の創薬です。
疫学調査では、県内で膵がんによって亡くなる人が多い地域が明らかとなり、膵がん発症に地域差があることが示されました。データ整理でもこれまで当医学部の附属病院で治療を行った膵がん患者の治療経過と病理所見のデータベースを作成することができました。
創薬に関しても、進展が見られています。炎症と発がんの関係について、少量の血液から炎症性サイトカインの一種、IL―1βの活性型を測定する方法が膵がん撲滅プロジェクトセンターで確立されました。IL―1βの値が低い膵がん患者のほうが、高い患者よりも予後が良い傾向も見られています。今後、症例数を増やすことで関係性を明らかにしていきたいと考えています。
さらに2016年10月には、膵臓疾患特殊外来を開設しました。多岐にわたる職種で構成されるチームで、横断的な診療を行っています。かつては1人の外科医が手術から化学療法、血糖コントロール、栄養管理に至るまで、すべてを担当していました。
ところが、さまざまな領域で専門性が高まってくると、従来のやり方では立ち行かなくなる。そこで肝胆膵外科が窓口となって、例えば化学療法については腫瘍内科、血糖コントロールは糖尿病内科、といった具合に専門家が携わる仕組みを整備しました。
膵臓にのう胞性の腫瘍ができる「膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)」の場合、必ずしもすぐに手術をするわけではなく経過観察のケースも多いのですが、その間にIPMNと別の部分に膵がんを発症したり、胃、大腸など他の臓器にがんを合併したりする頻度が高いことが知られています。経過観察であっても、専門の医師による綿密な連携が重要であり、膵臓疾患特殊外来の意義は大きいと考えます。
さらに2018年5月には、当医学部の附属病院に「がんゲノム医療センター」が設立されました。がん医療連携病院として、複数の中核拠点病院と連携しながら、がんゲノム医療を実施しています。
次世代シーケンサーを使って160種類ものがん遺伝子を解析、がん治療に役立つ情報を得るための「がん遺伝子パネル検査」を行います。この結果をもとに会議を開いて治療方針を決定。設立以来、膵がんを含む40例以上の解析が進められ、治療につなげているところです。
2018年4月には、腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術・腹腔鏡下膵腫瘍核出術の施設認定を取得。6月には日本肝胆膵外科学会認定の高度技能専門医修練施設(A)に認定されました。
私たちは消化器、肝胆膵、乳腺内分泌、小児の四つのグループに分かれています。患者さん第一という考え方でこれまで臨床、教育、研究に携わってきましたし、今後もそれは変わりません。
近年、優秀な大学院生が育ってきており、研究に本腰を入れられるようになりつつあります。臨床と教育に追われ、途切れ途切れになりがちだった研究を、今後は継続的にできるようにしていきたいですね。
直近ではがん免疫や腸内細菌の研究を進めています。この研究、もしくは派生した研究で一定の成果を出すことができれば、次の研究の端緒となります。研究の流れをつくり、良いサイクルをつくっていきたいと強く思っています。
島根大学医学部 消化器・総合外科学講座
島根県出雲市塩冶町89-1
TEL:0853-23-2111(代表)
https://www.shimane-u-dgs.jp/
九州大学医学部 婦人科学産科学教室
加藤 聖子 教授
1986年九州大学医学部卒業。同生体防御医学研究所、順天堂大学大学院医学研究科産婦人科講座などを経て、2015年から現職。
九州大学病院 精神科神経科 子どものこころの診療部
山下 洋 特任准教授
1985年九州大学医学部卒業。九州大学病院精神科神経科などを経て2010年から現職。
加藤聖子教授(以下、加藤) 妊産婦のメンタルヘルスケアは「古くて新しい問題」。半世紀以上も前から存在するテーマですが、日本ではなかなか関心が高まらず、イギリスなどと比較すると対策が遅れていると言われています。まず、みなさんはどのような方にリスクを感じていますか。
山下洋特任准教授(以下、山下) 精神科で治療を受けていた時期があり、いったんは改善した。そんな方は周産期、特に産後の再発の可能性が高まるようです。治療を継続中の方は妊娠を契機に自身で「治療薬は使用しない方がよい」と判断し、治療を中断するケースが少なくありません。産後では孤立した育児の最中で受診をためらうことも多く、その結果、症状が悪化して自殺などのリスクが高まるのです。
甲斐翔太朗医員(以下、甲斐) 大変な不妊治療を経て高齢出産に至った方、十代での妊娠がトラウマとなっている方などに精神的なケアが必要になることがあります。産後の1カ月健診以降も含めて、いかに精神科や小児科、地域の保健所などと連携するかが課題だと思います。
山下 相談できる人がいない、望まない妊娠や予期しない妊娠ー。社会的なサポートが得られず孤立した状態で妊娠、出産を経験することで心にキズを負う。若い世代を中心に多く見られる例です。
加藤 核家族化などを背景に「身近な人が妊産婦さんを支える」という環境が整いづらくなった。一人きりで過ごす時間が増え、不安を抱えやすくなっているのですね。
深川良二理事長(以下、深川) そうした個々の環境的なもの、あるいは遺伝的なもの。さまざまな要因が関係していると思いますし、時代とともに、近年は貧困との関係も注目されるようになりました。「地域性の違い」などもメンタルヘルスに影響するのではないでしょうか。
九州大学医学部 婦人科学産科学教室
甲斐 翔太朗 医員
2011年大分大学医学部卒業。北九州市立医療センターなどを経て2016年から現職。
医療法人 深川レディスクリニック
深川 良二 理事長
1977年久留米大学医学部卒業。同産婦人科、久留米大学大学院などを経て1988年から現職。
加藤 2000年、当教室第8代教授の中野仁雄先生が「妊産褥婦および乳幼児のメンタルヘルスシステム作りに関する研究」を開始するなど、九州大学は早くから妊産婦のメンタルヘルスケアと向き合ってきました。これまでの研究成果などを踏まえて、さまざまな「気づく」ための仕組みが広がっています。
深川 診療の指針は日本産婦人科医会「妊産婦メンタルヘルスケアマニュアル」(2017年3月)です。妊娠が判明した段階で支援が必要な方をスクリーニングする「育児支援チェックリスト」を活用し、助産師がサポートしつつ、個室でゆっくりと分ほどかけて記入してもらいます。記入後のスタッフによるヒアリング内容などを合わせて、データベースとして蓄積していくのです。
山下 多職種での連携も年々緊密化しています。産科や精神科の医師だけでなく、医療ソーシャルワーカーや臨床心理士などもカンファレンスに加わることが多くなりました。甲斐先生が先ほど指摘した通り、産後1カ月以降のフォローは多職種が協力しなければ難しいのです。ただ、体制が充実していくほど多様なリスクが見つかる。支援の範囲は広がっています。
甲斐 妊娠週〜週ごろに、妊産婦メンタルヘルスケアマニュアルでも推奨されている「エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)」を用いたスクリーニングを実施します。点数が高い (10項目30点、9点以上をうつ病としてスクリーニング)方の情報をカンファレンスで検討し、精神科の受診や社会的なサポートの必要性を話し合います。
加藤 親の不安定な精神状態が子どもの発達過程に影響し、ネグレクトや虐待が「世代間連鎖」することも問題視されていますが。
山下 産後うつで大きなウエートを占める悩みの一つは「子育てがうまくできない」。自分を責めて悪循環に陥ることがあります。強調しておきたいのは「うつが必ず虐待に結び付く」わけではないことです。
深川 悩む人を見逃さない。そのための仕組みを地域の実情に合わせてつくっていくことが必要です。例えば当クリニックでは、助産師が乳房ケアをしながら意識的に話を聞くようにしています。
甲斐 限られた時間の中で、うまく聞き出すコツはありますか?
深川 問診票などを見ると、みなさんぎっしりと書いている。以前と比べて真面目な方が増えたのかなという印象です。自分の思いを誰かに打ち明けるだけで悩みが解消されることがあるでしょう。医師でなくても、受け付けの職員や清掃のスタッフも聞き役になれると思います。「見守られている」という気持ちになってもらうことが大切ではないでしょうか。
山下 医学的なアドバイスよりも、何でも素直に話せるといった、情緒的なサポートが求められていることは感じています。
加藤 聞き役としての助産師の役割は大きいと思います。でも「傷つけてしまうのではないか」「どう話しかけたらいいのか」と、なかなか踏み込めないでいるのも事実。トレーニングを受けられる環境の整備、人材の育成が重要でしょう。では最後に、今後の予定などをお願いします。
山下 精神科としては周産期のメンタルヘルスケアの受け皿となり、早期発見の充実に力を入れていきたいですね。米国などでは「産後ドゥーラ」(ギリシャ語で「他の女性を応援する経験豊かな女性」の意)の現代版とも言える家庭訪問プログラム「ナース・ファミリー・パートナーシップ」で助産師、保健師の方々が活躍しています。かつての日本の社会にもあった、こうした仕組みの構築も呼びかけたいと思っています。
甲斐 まだ構想の段階ですが、EPDSのデータから産後うつのリスクファクターを見極めるための研究をスタートさせたいと思っています。
深川 日本産婦人科医会では2015年から毎年「母と子のメンタルヘルスフォーラム」を開いています。医師、看護師、行政など多職種が集い、ワークショップなどを通じて、メンタルヘルスケアへの対応力を高めています。今年は6月に岡山、2020年は福岡で開催します。
加藤 九州大学の各診療科、地域の先生方、行政などと連携して、みんなで妊産婦をバックアップできるシステムを実現したいと思います。本日はありがとうございました。
九州大学医学部婦人科学産科学教室
https://www.med.kyushu-u.ac.jp/gynob/
九州大学病院子どものこころの診療部
http://www.kodomo-kokoro.hosp.kyushu-u.ac.jp/
福岡市東区馬出3-1-1
TEL:092-641-1151(代表)
医療法人 深川レディスクリニック
http://fukagawa-ladies.com/
福岡県久留米市田主丸町田主丸1-28
TEL:0943-72-1122
消化器・腎臓疾患を担当する鳥取大学の機能病態内科学分野(第二内科)。年以上続く教室を受け継ぎ、さらに発展させる磯本一主任教授に、教室の特徴や今後の展望、6月に会長を務める日本消化器病学会中国支部例会の概要を聞いた。
機能病態内科学分野では消化管疾患、胆道疾患、膵疾患、肝臓疾患、腎臓疾患の臨床および基礎研究を行っています。同門の先生が多く、医局旅行などのレクリエーションを通してアットホームな雰囲気やチームワークの良さが培われているように思います。
臨床経験をたくさん積めることもあって、入局を志望する若い人も多く、山陰・中国地方の地域医療を担う医療人を育成してきた伝統があります。プライマリ・ケアと救急疾患に関しては主に関連病院で症例を積み重ね、大学では先進医療を実践するというように、関連医療機関と協調して教室を運営したいと考えています。
消化器内科医は上部消化管内視鏡検査や内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査などを実施するため、高度な技術が求められ、手技を磨くこともできます。内科でありながらダイナミズムが感じられる部分です。
同時に、薬物療法において全身管理の視点で治療の戦略を緻密に立てていく必要もあります。最新の技術と知識を学び続けなければならないのは言うまでもありません。メディカルスタッフの方たちとの緊密な連携が必須ですので、コミュニケーション能力も求められます。
大学改革新専門医制制度、働き方改革...流動的な時代だからこそ、翻弄されないことが大事なのではないでしょうか。
私は、「和敬清寂(わけいせいじゃく)」という茶道の心得を示す言葉が、医療にも当てはまると考えています。チームワークを高め、先輩や患者さんを敬い、純粋な気持ちで研究し、救急でも落ち着いて対応する。この「和敬清寂」という心構えで仕事をしていきたいと思います。
今後、力を入れたいのは産学連携、医工連携です。これまで、レーザー光による食道がん治療の研究を積極的に進めてきました。化学放射線療法後、残ったがん細胞に光感受性物質レザフィリンを投与し、さらにレーザー照射することでがん細胞を壊死させる治療法です。この効果をさらに高めたいと考えています。
また、レーザー光によってがん細胞を光らせ、胃がんを診断する光線力学診断(PDD)の臨床研究にも取り組んでいます。がんは早期発見できるかどうかにかかっています。早期の発見をより確実かつ客観的に可能にする方法を確立すべく、尽力していきたいと思います。
6月15日(土)、16日(日)、米子コンベンションセンターで、第111回日本消化器病学会中国支部例会と教育講演会を開催します。国内のエキスパートの先生方を招き、消化器がんの克服に向けたワークショップや講演を行います。
「コンパニオン診断」や「ゲノム医療」が、ここ数年、大きな話題になっています。急速に進歩している分野のため、現在の情報をきちんと共有し、知識のアップデートを図る場にしたいと思っています。
専門医部会では高齢者のがんのマネジメント事例を共有したいと考えています。これは高齢化が進行する山陰らしいテーマと言えるかもしれません。教育講演会では、食道がんのトータルマネジメントや大腸がんの内視鏡治療、肝胆膵がんなどのお話をしていただきます。
漢方診療、消化管アレルギー疾患、女性医師の会主催のセミナーも開く予定です。6月に向けてしっかり準備をしていきたいと考えています。
鳥取大学 医学部統合内科医学講座 機能病態内科学分野
鳥取県米子市西町36-1
TEL:0859-33-1111(代表)
http://intmed2.med.tottori-u.ac.jp/
2005年に開講した熊本大学大学院生命科学研究部消化器外科学。馬場秀夫教授に、現在取り組んでいる人材育成や研究について、また日本外科学会の外科医労働環境改善委員長として、外科医の働き方について尋ねた。
外科医になる人が減ってきています。確かに労働時間が長く、リスクもありますが、外科を経験すればその魅力に気づいてもらえるはずです。
必要とされるのは、患者さんの心情に共感できる人間性、ヒューマニティーです。もちろん技術といったアートとサイエンスを含め、バランスのとれた医師であることが求められていると思います。
もう一つは「グローカル」に活躍できる人材。世界に目を向けたグローバルな視点を持ちつつも、ローカルに活躍できる力をつける必要があります。そのために熊大はアメリカ、ヨーロッパ、シンガポール、韓国といった海外の国々や、がん研有明病院、静岡がんセンターなど国内のトップレベルの施設へ、多くの医師を留学させています。
これは将来のための投資です。大学に残った医師も、限られた人員の中で効率よく働くように努力しますし、留学した人は新しい考え方を組織に還元するので、ともに成長することができます。若い医師たちのために、多様に学べるチャンスを与え、本人たちの満足度を上げる教育システムが必要だと思います。
まずは、これまでの主治医制からチーム制へ変えて、一人一人に負担がかかりすぎないようにしていこうと思っています。また、厚労省と連携して特定看護師のような医師とナースの間の中間職種を増やすことでタスクシフトを推進し、業務改善につなげていきたいですね。社会全体の意識改革も必要でしょう。時間外にコンビニ受診するような今の状況を改善するために、国も取り組みを始めています。これらが実現すれば、外科医の精神的な負担、労働時間の負担などを減らすことができ、若手の獲得にもつながっていくと思います。
2022年に熊大外科開講100年を迎えます。大きな節目ですので、今から何か記念に残るイベントができないかと考えています。私個人としては、それが今の最大の目標です。研究面では、がんの研究が中心になります。スキルス性胃がん、膵臓がんなど治りにくいがんに対して、がんの進展に関わる分子の解明と新たな治療法の開発を目指しています。
また最近注目しているのが腸内細菌です。どこで育ったか、母乳かミルクか、運動習慣があるか、肉食なのか菜食主義なのか...といったことが腸内細菌に影響を与え、それががん、炎症性腸疾患、精神疾患、うつなどの疾患に関わることが分かってきています。私たちは食道がんの発生に、口腔内の常在菌フソバクテリウムが関わっていることを、世界で初めて見つけて報告しました。いろいろな腸内細菌が発がん、進行にどのような影響を及ぼすのか研究を続けたいと思っています。
他にも免疫チェックポイント阻害剤がどういう場合に効きやすいか、最も効果が期待できる人はどういう人たちなのか、絞り込む研究も進めています。
臨床面では2018年に食道・胃・直腸がんの一部でロボット支援手術が保険適用になったことから、熊大でもロボット支援手術の症例数を増やしています。さらに今、臨床の現場にも、AIが登場しています。今後は内視鏡の画像解析をAIが判断する、また治療面では、患者情報をもとに最適の治療法を精査するといったイノベーションがもっと進んでくると確信しています。
熊本大学大学院生命科学研究部消化器外科学
熊本市中央区本荘1-1-1
TEL:096-344-2111(代表)
http://kumamoto-gesurg.com/
2015年に難病に指定された「ウィルソン病」。薬物で治療できる、まれな遺伝性疾患であり、早期に的確な診断と治療を行うことが重要である。ウィルソン病の治療に取り組む産業医科大学の原田大教授に、疾患の概要と治療について話を聞いた。
ウィルソン病の原因は、銅がさまざまな臓器に蓄積することです。銅は身体に必須の微量元素ですが、過剰に存在すると活性酸素を生じて細胞の働きを妨げます。過剰な銅は肝細胞から胆汁中へ分泌されて身体から排泄されますが、遺伝子変異によって銅輸送タンパクであるATP7Bの機能が低下すると、銅が身体に蓄積してさまざまな臓器障害を引き起こします。
まず肝細胞障害、さらに銅が蓄積すると神経障害が起き、次第に身体のあらゆる臓器に障害が起きます。発症年齢もしくは診断される年齢は10代が最も多い一方で、40歳以降に見つかる患者さんもいます。
主な症状は全身倦怠感や黄疸、偶然の肝機能障害、神経障害の中でも錐体外路障害です。手指振戦や歩行障害、構音障害、性格変化、よだれ(流涎)やうつ症状が出ることがあり、腎障害や心不全、不整脈、関節障害もあり得ます。500以上の変異型があるので症状や発症年齢は多様です。
患者数は約3万人から4万人に1人と考えられていますが、異常遺伝子保有者は約80~100人に1人と考えられており、決して少なくはありません。
ガイドラインに従って、診断・治療を行っています。血清セルロプラスミン値の測定や尿中銅の検査、入院しての蓄尿検査、肝生検などを実施して総合的に診断し、患者さんにとって最適な治療法を考えます。
患者さんの大部分は、小児科、消化器内科、神経内科の先生からの紹介です。原因不明の肝障害で紹介されて、ここでウィルソン病と診断した患者さんもいらっしゃいます。きょうだいがウィルソン病と診断されたため検査をして診断される例もあります。
治療では、主にD―ペニシラミンやトリエンチンなどの薬物を使用しますが、怠薬をさせないことが極めて重要です。怠薬すると、それまで調子が良かった患者さんの容態が治療再開後に悪化することがあります。
急性肝不全などの場合は肝移植を行う場合もあります。また原因不明の特発性銅中毒症という病態があり、非常に重篤になることがあるので注意しています。
内科医の間ではウィルソン病の認識が以前より高まっており、原因の分からない肝障害の患者さんの血清セルロプラスミンを測定して、紹介してくださる医師も増えてきました。
早期発見のポイントは、慢性肝障害の患者さんを診た場合にはウイルス性肝炎、脂肪肝、アルコール性肝障害、自己免疫性肝疾患とともにウィルソン病の可能性を考えることです。特に神経障害を伴っていれば、必ず本症を疑うこと。とにかく本症を思いつき、血清セルロプラスミンを測定することが重要です。
長く治療を続ける中で、患者さんが進学などで親元を離れて怠薬するケースがあるので注意が必要です。
妊娠・出産については、産科の多くの先生はウィルソン病の治療薬は催奇形性は少ないことを認識しておられますので問題ありません。治療を支える仕組みとしては、患者さんを中心とした「ウイルソン病友の会」という全国組織があり、さまざまな患者さんの相談に乗ってくれています。
本学では、少しでも肝移植を減らすために、補助療法として過剰な銅の細胞障害機序と対策の解明、銅とオートファジーの関連などの研究を進めています。いかにウィルソン病を周知し、患者さんの負担を軽減するか。それが今後の課題です。
産業医科大学医学部第3内科学
福岡県北九州市八幡西区医生ケ丘1-1
TEL:093-603-1611(代表)
https://www.uoeh-u.ac.jp/kouza/3nai/