第58回日本母性衛生学会・学術集会
第58回日本母性衛生学会・学術集会が、10月6・7日、神戸国際会議場、神戸国際展示場(神戸市中央区)で開かれた。母子保健や女性の健康に携わる医師、助産師、看護師など約2千人が参加した。
同学術集会のテーマは「予知予防と心の支え」。
会長の山田秀人・神戸大学大学院医学研究科産婦人科学分野教授は開会あいさつで「長年、産婦人科医療に携わる中で、妊娠前に予知や予防ができたはずだと思う患者さんもいた。心のケアや支えが必要な患者さんも多い」とテーマ設定の背景を語った。
カテゴリーは、母子感染、不育症、虐待と暴力、メンタルヘルスなど八つ。口演やポスターを含めて一般演題526題が集まった。
会長講演「母子感染を予防しよう」
山田会長は6日の会長講演で「母子感染を予防しよう」というテーマで話した。専門である「TORCH(トーチ)症候群」を取り上げ、母子感染を防ぐ対策法を提示した。
トーチ症候群は、妊婦が感染することで胎児や生まれてきた赤ちゃんに重篤な障害を引き起こす恐れがある疾患の総称。
病原体となるのは、トキソプラズマ、風疹ウイルス、梅毒トレポネーマ、サイトメガロウイルスなどで、流産や死産を招いたり、生まれてくる子に水頭症や難聴などをもたらしたりする。
山田会長によると、2013年には風疹が流行し、難聴、眼症状、先天性心疾患などの症状がある先天性風疹症候群が増加した。
一方、妊娠・出産の中心世代である15歳~39歳で、梅毒にかかっている女性の数も大幅に増加。中でも、20歳から24歳で見ると、2013年から2016年の3年間で40人から429人と10倍超。「流早産や子宮内胎児死亡などの重篤な症状や、骨軟骨炎、皮疹などの症状が新生児に出る可能性が高まっている」(山田会長)という。
さらに、2016年の全国の梅毒感染者、男女4518人のうち14人が、胎児期に感染し、生後数週で発症する「早発性先天梅毒」だったという。
山田会長は「胎児の段階で亡くなっているケースもあるので、実際の梅毒の母子感染数はもっと多いと考えられる」と警鐘を鳴らした。
母子感染による子どもの障害を減らすためには、風疹の場合はワクチン接種、梅毒に対してはスクリーニングが有効だと説明した山田会長。「母子感染による胎児への感染について、妊婦への教育と啓発、対象となる感染症が流行しているときの情報発信が重要」と述べた。