医療・福祉にFUJISAN の精神で
1988(昭和63)年に開設した新富士病院は、高齢者医療を中心に運営を進め、介護老人保健施設や在宅医療の機能も加わった。同院の立ち上げから診療に携わり、2015年に理事長に就任した川上正人理事長に話を聞いた。
■地域での役割
法人の理念の「富士山の恵みに感謝し、地域の皆様と共に歩む」という考えをもとに、地域に根差した医療を行っています。現在は、病院と二つの老人保健施設を合わせると505床です。
在宅医療においても、通所、訪問看護、訪問リハビリなども行っていて、富士市内にこれだけの規模、しかも一つの場所で、高齢者の医療や福祉の事業を手掛けているところは他にはあまりないと思います。
今年9月に、サービス付き高齢者向け住宅を開設。そして来春には、看護小規模多機能型居宅介護を計画しています。2025年をピークに高齢者の数は減少する見込みですので、それ以降の見通しも必要ですが、今は地域のニーズに沿って必要なものを提供し、役立つことが大事だと考えています。
■医師としての力量が試される場
慢性期の医療の現場は比較的おだやかだというイメージがあるようですが、案外そうでもありません。
高齢者の場合、さまざまな病気を抱えていることが多く、症状が急変することも多々あるため、救急病院のような対応が必要な場合もたびたびあります。
このため、特に医師にはてきぱきとした動きが求められるなど、臨床力が問われる最前線の場だと思います。
医療の現場で求められる専門性が高まり、医学教育の現場も、専門化、細分化されています。これにともなってものの見方も部分的になりがちのような気がしています。
ことに、高齢者の病態や機能障害は教科書通りにとらえると見誤ることが多々あります。経済状況や人間関係といった家庭環境、治療経過、薬物の副作用などに関して広い視野からアプローチすることが肝要だと思います。
患者さんの家族とのコミュニケーションも重要で、特に近親者が最期を迎えようとしているとなおさらです。私は、宗教家ではありませんが、死とは何か、医療とはどういうものなのかを、家族としっかり対話するようにしています。まさに、「人間力」が試されるようです。そのような医療に興味がある医療職には、当院にぜひ来てほしいと思います。
■職員へのメッセージ
昨年、理事長に就任して、当院の理念を改めて考え、言葉にしました。富士山のおひざ元ですから、語呂合わせで「FUJISAN」になるようにいろいろと工夫しました。職員全員、名札にこの理念を入れて常に携帯していますよ。
患者さん、利用者さんは、高齢の方が中心で身体的、精神的に弱っていますので、つい職員は上の立場で行動をしがちです。しかし、皆さん人生経験も豊富な一人の人間。職員には「患者さんたちは自分たちより立派な人なのだ」と言いますし、常に尊敬の念を持って接するように伝えています。たとえ、認知症で言葉が理解できない人でも、相手の接し方によって「この人は敵だ」「味方だ」と感じています。
ですから、言葉で表現しなくとも、表情、情動、気分などで患者さんの発信する情報を読み取れるようになってほしいと思います。
■医学と文学
学生時代から、詩や短歌、童謡などを書き続けています。診察のため静岡と東京を週2回行き来しているので、新幹線の中で詩想を練っています。
作品発表の場は、もっぱら沖縄の同人誌。年4回は発表しています。2年前には、詩集「与那覇湾―ふたたびの海よ―」が、第37回山之口貘賞を受賞しました。
医学は科学で、文学は抽象的なものととらえる方も多いと思いますが、医学も臨床も実は文学と同様大変不安定なものです。エビデンスですら常に揺れ動いています。
そんななかで医師はかじをとらなければならない。私は不安定な現実を受け入れるために詩を書くのかもしれません。文学もすべてをとらえきれるわけではありませんが、医学と文学は、互いを補完しあうのかもしれませんね。
これからも、残しておかなければならないことをわかりやすい言葉で、作品にしていきたいと思っています。
新富士病院の理念「FUJISAN」
■Future
未来に向かって地域の皆さまとともに歩みます
■Understanding
共感し意思の疎通を図ります
■Justice
公平で正当な医療と福祉を提供します
■Informed consent
丁寧な説明と納得のできる医療と介護を提供します
■Support
地域の関連機関と連携し、適切に支援します
■Accountability
責任ある行動をとり、職務をまっとうします
■Nature
素晴らしい自然環境の保全に努めます