公益財団法人昭和会 今給黎総合病院 理事長 今給黎 尚典(いまきいれ たかのり)
1970 鹿児島大学医学部助手(整形外科) 1971 鹿児島県立大島病院整形外科部長 1973 国立鹿児島大学付属病院整形外科医長
1975 財団法人昭和会今給黎病院整形外科部長就任 1999 同理事長就任 現在に至る。
■学会 西日本整形・災害外科学会会員 日本脊椎外科学会会員 西日本脊椎外科学会会員 日本整形外科学会認定医
今給黎総合病院は450床を有し、鹿児島市内では大学病院、市立病院に次ぐ規模の総合病院。理事長の父である先代が昭和13年にこの地で開院して70年余り、地域の方々に安心、安全な医療を提供している。それは数字にも表れていて年間約7万人の外来患者が来院、県下約900病院からの紹介を受け入れているという。
■常に最新鋭機器を
開院以来「病院の質を維持するために大切なのは麻酔と病理、画像である」という考えをずっと持ち続けています。常に6、7名の麻酔科医が在籍し、病理システムも可能な限り最新・最良のものを導入しています。画像診断装置も常に最先端・最新鋭機器を利用することを先代のころから第一義としており、例をあげれば、現在のCTはすでに8台目、MRIは1998年当時、最先端を行く高度医療機器で非常に高価でしたが、診断機器として有益性が高いと考え、鹿児島で3番目に導入しました。今は4台目です。今後はダ・ヴィンチの導入も視野に入れています。
現在83名の常勤医師がいて、在院日数は15〜17日です。より多くの新患入院を確保し、在院日数を10日前後にするためには常勤医が120〜130名必要ですが、現状ではむつかしいと言わざるを得ません。病院が移転し機器を充実することで魅力が増し、優秀な医師を数多く招くことができればと考えています。
■救急医療に力を注ぐ
先代の理事長時代から、「どんな患者さんも診る」という方針を貫いてきています。特に4疾病(がん、脳卒中、糖尿病、急性心筋梗塞)5事業(救急医療、小児医療、周産期医療、へき地医療、災害時医療)に力を入れているのが特徴です。中でも救急医療に力を入れ、昨年は2637台の救急車を受け入れました。
救急医療とは、「24時間いつでも診察が受けられる病院」のことであり、設立当初から掲げてきた「24時間いつでも手術が可能な病院」の考え方と合致します。
当院では時間外でも医師とコメディカルが一緒に働ける体制を整え、時間外診療の充実を図ってきて、現在、1か月に20〜30件の全身麻酔を必要とする手術(外傷、帝王切開、急性腹膜炎など)を午後6時以降の時間外に行なっています。(年間手術症例数4478例)
小児医療にも長い間積極的に取り組んできました。鹿児島の周産期医療は鹿児島市立病院が中心ですが、そこだけではカバーしきれない部分を当院が引き受けています。
■ヘリポートも併設予定
鹿児島県は長崎県に次いで離島が多くあり、当院は錦江湾から近く、アクセスも良いので離島診療にも積極的に取り組んでいます。
現在、新病院建設の計画が進んでおり、港の近くに移転する予定です。市内や周辺の郡部から通院される患者さんはもちろん、離島から船で来院する患者さんの利便性もさらに良くなります。
今の病院立地は、道路を隔てて本館、別館、クリニックと分かれ、そのすべてを合わせても約2000坪と狭く、病院の周囲に看護師寮や男子寮などが点在していて使い勝手が悪い状況です。新病院の敷地面積は8000坪で、新型救命救急センターを設置、3次救急及び周産期医療をさらに充実し、ヘリポートも併設予定です。
ここから30分ほどの山手に吉田という地区があり、1万5千坪の敷地が確保可能で、そちらに移転する案もありましたが、年間2500台の救急車の受け入れがむつかしく、患者さんや職員のアクセスも良くないので港の近くに移転することにしました。
■常に学びの姿勢で
病院理念は、「協力=全職員の協力体制」、「貢献=地域社会への貢献」、「向上=自己研鑽と向上心」です。職員にはこの3つの理念を守ってもらいたいと考えています。看護師さんにはより良い看護、優しい看護を心がけ、勉強を忘れないでほしい、医師にも絶えず勉強してほしいので、国内留学も積極的に行なっています。
研修医が当院で感じるのは各診療科での壁がないことだそうです。24時間救急をしていて当直医の専門外の患者さんが搬送された時、オンコールで呼び出すので壁があってはなりません。救急医療に対して病院全員で当たるという考え方をもとに、全員参加型の救急体制を展開しており、これが全員のモチベーションを高める要因になっています。
■自己犠牲をいとわず
私の父で先代の理事長は30歳で開業して、87歳まで現役でした。いつも言っていたことが「自分が苦手に感じる患者さんにこそ積極的に話しかけなさい」、「患者さんを診るのが嫌なら医者は辞めなさい」でした。医師には人間力が求められます。人が好きでコミュニケーション能力に長けていないといけません。医療事故なども患者さんとの心が通じ合っていない、信頼関係が無いところから来ています。誰とでもフランクに話ができる人が医師に向いていると思います。
医師は自己犠牲の精神が求められる職業です。役者がお客さんのために親の死に目に会えないことがあると言いますが、医師も同じです。担当の患者さんの具合が悪い時はプライベートよりも患者さんを優先しなさいといつも言っています。
百田尚紀の「永遠の0」と「海賊になった男」が最近読んだ本で面白かったです。58歳で理事長になった時に先代から新聞を読むように言われ、それ以来日本経済新聞に掲載されている小説と「私の履歴書」を愛読しています。昔はミステリー小説が好きで、出張の時は常に一冊持っていったものです。一度、東京から飛行機で帰る時に小説を夢中になって読んでいて、「着いたぞ」と思ったら天候不良で飛行機が東京に引き返していたこともあります。