川名 隆司 宮崎市郡医師会病院長/公益社団法人宮崎市郡医師会会長
宮崎市郡医師会病院は1984年4月に150床で開設。1997年には災害拠点病院の指定を受け、2012年に公益社団法人に移行、昨年創立30周年を迎えた。
新築移転を5年後に控える同病院の川名隆司病院長に今後の展望などを聞いた。
◆5年後に新築移転
今年度で開院31年。この間、宮崎東諸県医療圏の基幹病院として、24時間365日の救急医療体制を整備し、急性期疾患を中心に医療を提供してきました。
しかし施設・設備の老朽化で、抜本的な対策を講じる必要が生じています。狭い病室や通路、複雑で非効率な動線が患者サービスや部門間の連携の妨げになっていることもあり、今後の医療機能の増強・拡張に対応することが困難な状態です。
また当院は県の災害拠点病院に指定されていますが、現在の建物は海岸から約600m、標高3.5mに位置しており南海トラフ地震では津波で浸水するおそれがあります。
新たな病院では、これまで以上に官(宮崎市、県)、民(医師会)、学(宮崎大学医学部)の連携を強め、患者満足度日本一の医師会病院を目指して地域医療に貢献しなければなりません。
そのために「質の高い地域医療の展開」、「チーム医療の推進」、「病院機能評価の更新」が必要だと考えています。
また新病院建設に向けてすべての職員が新病院に関する基本計画を共有し、経営健全化計画の確実な実施、組織の再編と業務の見直しをする予定です。
新病院の目玉は北米のER型救急の導入です。宮崎大学救命救急センターの落合秀信教授にも協力いただき、青写真を描いている最中です。
宮崎市内を見ると北部には古賀総合病院、南部には宮崎大学病院、東部には当院と宮崎善仁会病院がありますが、西部には大きな救急拠点病院がないのが現状です。
新病院は宮崎市西部の宮崎西インター近くに移転するので、県の救急医療のバランスが整います。インターチェンジが近いので、へき地を含めた全県の急患を受け入れることも可能になります。
◆地域の救急を担う
現在、宮崎市の委託を受けて、初期救急を担う宮崎市夜間急病センターを併設しています。同センターには年間2万人以上の急患搬送があります。そのほかの夜間の要入院患者に対しては、宮崎市郡の救急告示医療機関でつくっている内科輪番制、吐血・下血輪番制に協力し、地域住民の安心・安全に寄与しています。
◆これからの医師会病院の役割
宮崎市の人口は減少傾向ですが、高齢者は増加しています。
宮崎市郡周辺の医療圏の救急体制が急激に充実するとは考えにくいので、今後、患者さんがこの地域に集まってくることが予想されます。増加する高齢の患者さんへの対応と、周辺地域の急患への柔軟な対応がこれまで以上に求められます。
また、当院は医師会会員の病院ですので、会員の先生方からの紹介、逆紹介ともスムーズにやれています。しかし一般内科の疾患は、医師不足で十分に受け入れられていないのが現状です。地域の民間病院とも連携し、地域ぐるみで相互に補完しあうことが重要です。
今後も地域の中核病院として、救急医療・災害医療・周産期医療に貢献したいと考えています。そのために宮崎市郡医師会は将来構想計画に沿って、医師会病院をはじめとする本会諸施設の新築集約移転事業を推進します。そして新病院においても病院の理念を継承し、全県からの患者の受け入れ、宮崎県医療計画への協力、夜間急病センターのバックアップに努めていく所存です。
◆職員に求めること
朝礼でいつも言っていることは、「職員全員が情報を共有しましょう」です。
月1回の朝礼では前月の診療統計や病床稼働率など具体的な数字を挙げています。患者さんを救うのが最も大事なのは言うまでもないことですが、そのためには病院の運営が軌道に乗っていなければなりません。病院の収益を職員に具体的に示すことで医療従事者であっても経営状況を把握できます。
新病院建設のための十分な資金を捻出するには病床稼働率を90%以上にすることが必要です。退院調整を医師ではなく病棟師長が行うことで、よりきめ細やかな入退院の調整が可能になり稼働率が格段に上がりました。
◆医師を志したきっかけ
母が乳がんにかかったこともあり、高校2年の時に「人の役にたつ仕事がしたい」と、医師になる決意を固めました。
外科に進んだのは、結果がはっきりと出て、自分の性分に合っていると感じたからですね。
これから医師を目指す人には地位、お金、名誉を得ることを優先してほしくはありません。医師は困っている人、弱っている人を助けることが最優先で、自分のことは二の次でいいんですよ。
◆高校生対象「ブラックジャックセミナー」
毎年、宮崎市内の高校生を対象に「ブラックジャックセミナー」を開催しています。実際の手技を体験してもらい、講演をしています。
このセミナーで多くの若者が医学に興味をもってくれたらと願っています。そして、そのなかの1人でもいいので、医学を志してくれたら、これほどうれしいことはありませんね。