患者と家族から頼られる外科医に
第53 回九州外科学会ホームページアドレス http://www.congre.co.jp/kyu-53/index.html
―教授に就任して4年が過ぎた。改めて、医学部第二外科の若い世代への教育についての考えを聞いた。
外科医にとって大事なものは、知識と並んで、その技術です。われわれの世代は先輩の背中を見て覚えたり、自分で勉強したり、徒弟制度のようなところもありました。学ぶ側が主体的に学ぶという考え方が主で、それが出来ない場合、ドロップアウトしたり外科以外に活路を見出したりすることもありました。それでも多数の学生が入局していました。
しかし現在では、外科志望の研修医が昔より減少する中で、外科医の志望者を増やすために教育の方法を再考せずにはいられませんでした。
まず、ローテーションやシステムなど、教育全体を示しておく必要があります。教える側も教育への姿勢や技術、そして情熱を持っておかなければなりません。さらには教育のやり方やティーチングを学んでおく必要があります。
もちろん教えられる側も、情熱のあることが重要で、つまり、お互いがレベルを上げたいと思わなければうまくいかない啐啄同時(そったくどうじ)の時代になってきたのだと思います。
―外科医志望が減少する理由をどう考えますか。
まず、価値観の多様化が根本にあると思います。職業を選択する際にいろんな理由があると思いますが、「やりがい」「収入」そして「家庭」などの個人的な楽しみを大切にしたい人もいます。これまでのように外科医の仕事のやりがいだけを伝えるのでは十分ではないのだと思います。
しかし、どんな職業もそうだと思いますが、仕事の幹(みき)を形成する時期は、自己犠牲を強いられることもあります。これを身に付けたいという強い意志が必要な時期。その時間を共有しないと教えられないこともたくさんありますので、乗り越えて頑張ってほしいです。
―外科医にとって大事な能力は何でしょう。
外科医の場合、技術や知識以外に、がん、移植、心臓など、非常に命(いのち)の近くにいるため、患者さんやその家族との信頼関係を作ることがとても大事です。人は、信頼出来る人に任せたいのだと思います。そのためには、コミュニケーション能力が必要ですし、自分から人と接する努力をすることは大事だと思います。手術の腕が良いだけではなく、それが見えることも大事です。
―長崎の大学病院として臨床面で力を入れたいことは。
外科教室として、がん、移植はベースとしてありますが、プラスアルファとして、肥満外科として胃を切る治療、移植の分野では、肝臓移植に加えて膵臓移植にも注力したいと考えています。そして再生医療として細胞を使った治療など、これまでは一般的でなかったものも次の時代には一般的になるように、大学病院として手続き・ステップを踏みながらチャレンジしていきたいと考えています。
―日ごろ教室員に伝えていることは。
大学病院の意義を常に忘れないようにということは常に言っています。大学病院では臨床に加えて、論文・学会発表などの情報発信や、学生・大学院生の教育、そして研究をすることが存在意義だと思います。楽しみながらプライドを持って仕事をしてほしいと思っています
―対外的な活動にも力を入れていますね。
子どもたちに外科の模擬体験をしてもらう「ブラックジャックセミナー」を10年前に国内で初めて実施したのが第二外科で、その時参加した中学生が、医学部に入学したといううれしいニュースもありました。さらに平成28年5月13、14日に、私が会長として、第53回九州外科学会を長崎県佐世保市のハウステンボスで開催させていただく予定です。ぜひ参加されて楽しんでいただきたいと思います。
―若い読者にひとこと。
「You' ve got to findwhat you love」
第二外科のホームページにも掲載していますが、2005年のスタンフォード大学卒業式でのスティーブ・ジョブスの祝辞の一節です。「Stayhungry, stay foolish」の締めの言葉が有名ですが、私はこの妥協せず自分のやりたいことを探そうという言葉に大きな共感を覚えます。教室員と楽しんで、この楽しい一生の仕事を探求していこうと思います。