医療と法律問題|九州合同法律事務所 弁護士 小林 洋二

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医療事故と法律(4)

 医師法二一条の「異状」とは、「法医学的な異状である」というのが前回までの議論でしたが、最近、これとはやや異なったニュアンスの意見が主張されています。私の理解が正しければ、どうやら、「死亡に至る過程が異状であっても、死体の外表に異状がなければ届出義務は発生しない」という見解のようです。「法医学的異状説」に対して「外表的異状説」あるいは「肉眼的異状説」とでもいいましょうか。

 これは、都立広尾病院事件控訴審判決が、もともと「検案」という言葉には「医師が死因を判定するために行う死体の外表検査」という意味しかないという理由で「消極説」(自分が診療中の患者を含まないという説)を否定し、最高裁もこれを支持したことを根拠にしています。この事件では、医師が死体の右腕に沿って赤い色素沈着を認めたことを、「異状があると認めた」とし、届出義務の発生を認定したのでした。

 この「外表的異状説」を強く主張する東京保険医協会のホームページは、昨年一〇月二六日の第八回医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会で、当時の田原克志医政局医事課長が、「死体外表に異状なければ警察への届出義務はない」との解釈を表明したと報じ、これまで誤った拡大解釈を認めてきた厚労省の不作為を質す公開質問状を送付したとしています。

 私は田原課長の正確な発言も把握していませんし、この公開質問状に対して厚労省がどう対応したのかも知りません。しかし、そもそも、このような「外表的異状説」が、医師法二一条の解釈として成立し得るか疑問ですし、田原課長の発言からその解釈を導けるとも思えません。

 例えば、屋外で意識不明の状態で倒れていた人が医療機関に搬入され、そのまま死亡したような場合、外表の肉眼的な異状の有無に関わらず、異状死届出義務は発生するはずです。つまり、屋外で倒れていたという死亡に至る過程が「異状」と見なされるわけです。逆に、外表的に普通でない状態であっても、それが治療中の疾病によるものとして説明できるのであれば、それは「異状」とはいえないでしょう。肉眼的にいかなる所見がみられたら「異状」と評価するのか、それ自体も、死亡に至る過程によって違ってくるはずです。それがつまり、「法医学的異状」という考え方なのではないでしょうか。

 都立広尾病院事件最高裁判決が、このような「法医学的異状説」を否定して、「外表的異状説」の立場を採用したものと考えるのは、判例解釈としてあまり一般的なものとは思えません。福島県立大野病院事件判決は、この最高裁判決後のものですが、「法医学的異状説」の立場を明らかにしています。

 東京保険医協会の真意は、医療事故死を警察へ届出させる現在の制度はおかしい、というところにあるはずです。医療事故調査制度の議論の発端になった二〇〇四年の一九学会共同声明「診療行為に関連した患者死亡の届出について〜中立的専門機関の創設に向けて〜」の問題意識もそこにありました。

 実は私も、ほぼ同じ問題意識を持っています。そして、その問題が、「外表的異状説」によって解決したと考えるとすれば、それは正しい認識とはいえないというのが私の見方です。

■九州合同法律事務所=福岡市東区馬出1丁目10―2メディカルセンタービル九大病院前6階TEL:092(641)2007


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