医療と法律問題59

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九州合同法律事務所 弁護士 小林 洋二

 4回にわたって、小児先天性心疾患の手術に関連する医療事故紛争を紹介してきました。

 手術に関連する医療事故紛争では、「術前説明(インフォームド・コンセント)」、「手術適応あるいは術式選択」、「手技」、「術後管理」といったことが問題になります。手術に不可欠な麻酔を巡る医療事故紛争も少なくありません。

 こういった手術に関連する医療事故紛争の中で、わたしたち弁護士が最も苦慮するのが、手技ミスが問題になる事案です。

 患者の中には、手術はうまくいって当たり前であり、失敗はすなわち医師の責任であると思っている人がたくさんいます。もちろん、そうではありません。医師は、結果にではなく過程に責任を負います。結果的に失敗したかどうかではなく、失敗しないように最善を尽くしたかどうかが問題なのであり、失敗したからといって責任があることにはなりません。

 そして多くの場合、失敗しないように最善を尽くしたかどうかは、その手術に関係した医療者以外にはわかりません。だから、こういった事案では、その関係した医療者の誠実さだけが頼りだということになりがちです。ごまかそうと思えばいくらでもごまかせると言えば語弊がありますが、患者側からは、どうしてもそのように見えてしまいます。

 患者は、ご主人と2人で小さな呉服屋を営んでいた60歳代の女性です。脳底動脈分岐部に径2cm弱の未破裂脳動脈瘤(りゅう)が発見され、予防的にクリッピング手術を行ったところ、術後、なかなか意識が戻りませんでした。

 約2カ月後にやっと呼びかけに反応するようになりますが、高次脳機能障害と四肢の不全まひが残りました。わたしたちが受任した当時、ご主人は既に呉服屋を閉じ、奥さんの介護に専念されていました。

 術後の頭部CTからは、あちこちに出血や低吸収域があること、脳浮腫があることはわかるのですが、なぜそんなことになったのかはわかりませんでした。調査段階で執刀医に事情をきいたところ、その説明はほとんど意味不明でした。一方、助手をつとめていた大学病院の勤務医は、さまざまな可能性を挙げて、こういう合併症は脳外科手術にはつきものなのだと理路整然と説明しました。

 正直なところ、あまり自信がないままに訴訟提起にいたりました。

 ところが、訴訟での助手の証言は、調査段階とはまったく異なるものでした。脳底動脈をクリッピングするには、周囲の脳を脳ベラで圧排して術野を確保する必要がありますが、その証言によれば、脳ベラによる圧排が強すぎて、あちこちに脳挫傷が起こってしまったのだ、術後CTに写っているのは、その脳挫傷と、それによって後発的に起こった脳内血腫なのだとのことでした。

 過失の特定に苦しんでいた原告側にとっては、たいへんありがたい証言でした。裁判所は、この証言の後、ほぼ請求額通りの和解案を提示し、当事者双方がそれを受け入れてこの事件は解決しました。

 助手の説明が、調査段階と訴訟段階とで大きく変わった理由を、わたしたちは知りません。何かがその心を動かして、率直な説明に踏み切らせることになったのだとは思いますが、どんな状況においても、非は非として認めるという誠実さを、医療関係者には望みたいと思います。

九州合同法律事務所
福岡市東区馬出1-10-2 メディカルセンタービル 九大病院前6階
TEL:092-641-2007


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