医療と法律問題㊻

  • はてなブックマークに追加
  • Google Bookmarks に追加
  • Yahoo!ブックマークに登録
  • del.icio.us に登録
  • ライブドアクリップに追加
  • RSS
  • この記事についてTwitterでつぶやく

九州合同法律事務所 弁護士 小林 洋二

 前回と同じく、今回の患者も3歳の子どもです。

 Aさんが、両親に連れられてB地区夜間急患センターを受診したのは、午後8時30分頃のことでした。カルテの記載によれば、現病歴として「昼食時に腹痛が出現し、嘔吐が1回あったこと」、「C病院を受診し制吐剤を使用するも3〜4回嘔吐があったこと」、「夕方から徐々に熱が上がってきたこと」が把握されています。体温は39・1度、血圧は88/40で、四肢末梢の冷感がありました。また、医師の腹部触診中に血性の嘔吐があり、午後8時51分の検査では、2万3700という著明な白血球増多が見られました。

 これに対し、担当医は、ウイルス性の腸炎を疑い、点滴と制吐剤の投与を指示しました。

 日付の変わった午前0時40分頃、Aさんの意識状態は低下し、近くの救急病院に搬送されました。しかし、到着時には既に心肺停止状態、そこで気管内挿管等の蘇生措置を施されつつ、さらに三次救急病院に転送されますが、同日午前4時10分に死亡が確認されました。

 解剖の結果、小腸の軸捻転によると考えられる重度の絞扼性イレウスによる小腸の出血性壊死が認められ、これが死亡原因であることが判明しました。

 解剖にあたった医師は、腸管壊死が小腸に限局して約90センチと比較的短かったこと、小腸軸捻転でも腸回転異常を伴うものではなかったことなどから、早期に正確な診断をして開腹手術をしていれば十分救命の可能性があったとコメントしています。

 嘔吐を主訴として受診する子どもの診療にあたっては、安易なウイルス性腸炎(感冒性嘔吐症)の診断のもとに重要な消化器疾患を見逃さないよう注意すべし、ということは、さまざまな教科書的文献で強調されています。

 本件でいえば、下痢を伴っていないこと、嘔吐が血性であることなど、単なるウイルス性腸炎ではないことを示唆する所見がありました。また、白血球数も、ウイルス性腸炎にしては多すぎますし、四肢末梢の冷感も、ただならぬ重篤感を漂わせています。

 こういった徴候から、担当医が、別の原因を疑って腹部レントゲンだけでも撮影していれば、ニボー像など、イレウスの特徴的所見が得られて、救急搬送されることになっていたのではないでしょうか。

 とはいえ、この担当医がAさんの診療に関わったのはわずか4時間のことであり、それを責めるのはやや酷だという見方もあると思います。実際、担当医は、わたしの質問に対し、「ウイルス性腸炎で下痢を伴わない症例もある」「白血球増多は脱水によるものとも考えられる」と切り返していました。

 しかし、同席していた父親が、「私の娘は、助からない運命だったということでしょうか」と問いかけると、担当医は、しばらく沈黙した後、「救わなければならない命でした」「救えるのは私だけでした」と頭を下げ、腹部レントゲンを撮影すべきだったと謝罪したのです。

 患者側からの損害賠償請求に対する病院側の提示額は、死亡事案にしてはやや少額なものでしたが、私からそれを聞いたご両親は、即座に応諾されました。

 担当医の率直な謝罪により、早期に適切な解決が得られた事件として印象に残っています。

■九州合同法律事務所=福岡市東区馬出1の10の2メディカルセンタービル九大病院前6階
TEL:092-641-2007


九州医事新報社ではライター(編集職)を募集しています

九州初の地下鉄駅直結タワー|Brillia Tower西新 来場予約受付中

九州医事新報社ブログ

読者アンケートにご協力ください

バングラデシュに看護学校を建てるプロジェクト

人体にも環境にも優しい天然素材で作られた枕で快適な眠りを。100%天然素材のラテックス枕NEMCA

暮らし継がれる家|三井ホーム

一般社団法人メディワーククリエイト

日本赤十字社

全国骨髄バンク推進連絡協議会

今月の1冊

編集担当者が毎月オススメの書籍を紹介していくコーナーです。

【今月の1冊, 今月の一冊】
イメージ:今月の1冊 - 88. AI vs. 教科書が読めない 子どもたち

Twitter


ページ上部へ戻る