一致団結して臨む周産期の現場
宮崎県県北地域の周産期医療を支える県立延岡病院。産科医不足にどう向き合うのか。広いエリアを支える2次医療機関として、課題解決のために何をするのか。第一線にいる山内綾周産期センター長の思いとは。
―県立延岡病院と地域の周産期医療を取り巻く環境は。
県立延岡病院は、「県北」と呼ばれる宮崎北部地区で2次医療機関としての役割を担っています。この地区では、8割ほどの分娩を1次医療機関が担当。残り2割のリスクの高い出産またはNICU(新生児集中治療室)でのケアが必要な新生児の受け入れを2次医療機関である当院で担っています。
宮崎県の面積は九州で2番目に広い7735㎢。2市5町2村で構成される県北地域は、そのおよそ3分の1を占め、住民は23万776人( 10月1日現在)です。このエリア内で分娩を取り扱っている産科の医療機関は当院以外に6カ所だけ。産科医不足は、この地域の長年の課題です。
地域の産婦人科医の連携強化と技術向上を目指して、「二八会(にはちかい)」という勉強会が組織されています。毎月28日に開催していたことからその名前が付けられ、昭和の時代からこれまで、欠かさず続けられてきました。
現在も月に1度、夜の時間帯に、県北地域の1次医療機関の産科医7人と婦人科医2人、さらに当院の産婦人科医が参加して開催しています。
勉強会では、外部講師を招いて講演会を開いたり、技術や情報を共有したりします。勉強会の後の親睦会では、通常業務では伝えきれなかった救急搬送された患者さんの経過をフォローアップしたり、医師や病院施設の特性を把握し合ったり。医師同士の連携を強めるだけでなく、地域の課題に一体となって取り組むためにも、大事な会となっています。
―県立延岡病院産婦人科の課題とその対応策は。
この病院の周産期センターには、NICUが3床、GCU(継続保育室)が6床あります。2年前に比べるとGCUが2床増床されたものの、病床とマンパワーの不足は大きな課題です。
そこで2004年、当病院では、新生児のバックトランス(逆搬送)システムを導入しました。オーバーベッド状態が続き、メディカルスタッフの負荷も大きくなっていたからです。
「状態が落ち着いている」「週生で36週以上の新生児」「哺乳ができている」「体重が2000㌘になるまで成長している」など、独自に策定した基準を満たした新生児は、出産した施設または、出産を予定していた施設にバックトランスしています。
また、メディカルスタッフにも積極的に現場に入ってもらうことで、少ない医師の人数でも高い医療の質を保てるよう工夫しています。
例えば、当病院の看護師や助産師は、新生児蘇生の講習会に参加し、その技術を習得しています。それにより、通常は複数の医師で対応する必要がある新生児の蘇生に対しても、看護師や助産師が補助することで医師1人で対応できています。
さらに、看護師や助産師は自主的な勉強会を月に2度程度開催。私たち医師も参加します。質問や意見交換もあり、母体・新生児を守っていく医療を維持するための情報共有の場にもなっています。
当病院の産婦人科医は、副院長を含め4人です。産科だけでなく、NICUの当直もあり人員的には厳しいものがあります。ただ、当直ローテーションは小児科の先生方と連携することで7人の医師で回すことができています。負荷の軽減は医療の質の維持や向上にもつながっていると思います。
2012年、宮崎大学への県ドクターヘリ導入は、県北地区の医療格差解消に向けた大きな一歩となりました。以前は、当病院から3次医療機関である宮崎大学までの緊急搬送に、陸路で少なくとも2時間かかっていました。ドクターヘリを利用すると搬送時間は30分。大幅な時間短縮で、母子の負担はかなり軽減されました。
―周産期医療のやりがいを教えてください。
ありきたりかもしれませんが、病室で「おめでとうございます」と言えることに、大きな喜びを感じています。出産の神秘と赤ちゃんの命の息吹(いぶき)から放たれるエネルギーには毎回感動を覚えます。
私たちが受け入れるハイリスクの妊婦さんから生まれた新生児の中には、障害があり、命さえ危うい状態の子もいます。しかし、その障害を補おうと他の臓器が急速に発達することもあります。「赤ちゃんは生きようとしているのだ」と感じさせてくれるのです。赤ちゃんたちの生命力は、NICUで働く私たち医療スタッフにとっても、大きなパワーとなっています。
ただ、歳を重ねるにつれ、「体力」への自信を失いつつあります。それは、私だけではなく、救急医療現場スタッフに共通する悩みかもしれません。「この仕事を続けていけるのだろうか」と不安になることさえあります。
でも、だからこそ、私たちの職場では、お互いに協力し合い、休暇を取得することを大切にしています。現場にいるときには常に力が発揮できるように、「休むときはきちんと休もう」という雰囲気ができています。
マンパワーが十分でないからこそ、そして、個々の責任が大きいからこそ、チームとして協力して働き続けられる環境、常に良いパフォーマンスができる体制を作っていかなければならない。現在の職場で、お互いを思いやりながら力を合わせ、より良い医療を目指していけていることに魅力を感じています。
宮崎県立延岡病院 周産期センター
宮崎県延岡市新小路2-1-10
TEL:0982-32-6181(代表)
http://nobeoka-kenbyo.jp/