サイエンスとパッションを融合させて
―産婦人科医として昨今をどう見ていますか。
日本全体に少子高齢化という問題があって、出生率は確実に下がっていて、それは宮崎も同じで、県北地区でも同様です。でも一人ひとりを助けるということでは、多かろうが少なかろうが、われわれの職務としては何ら変わりはありません。
くしくも今、産科婦人科学会のバックアップで「コウノドリ」という産科医を主人公にしたテレビドラマが、金曜日の夜10時から放映されていて、視聴者に好評だそうです。周産期医療に携わる医療者がどんなことをしているのかということを、より多くの人に知ってもらいたいという意図もあるようですね。
出産について一般の人は「普通に生まれて当たり前!」と思っていますから、そこにピットホール(落とし穴)があるんです。それが日本全体で産科医の減少につながっているわけです。国も産科医を増やそうという試みはしているようですが、需要に追いついていないと私は思っています。
さらに、ある調査で、50歳になった時点で一度も結婚をしたことがない人の割合=生涯未婚率は、2035年に男性は29%、女性は19%になると予測されています。子どもは減り、産婦人科の医師も減るという悪循環になっていますね。やりがいはあると私は思っていますので、そのような状況下であっても、なんとか研修医に魅力を感じてもらえるように努めているところです。
―産婦人科医を続けている活力の源は。
私なりの医療論というのがあって、医師たるもの生涯勉強し続けて知識を身につけ、技術を学ぶ。それをサイエンス、医師の追究する科学だとすれば、医療は人間が対象ですから、そこに温かみが必要なのではないか。それを、情熱、パッションという言葉で私は表現します。必要条件のサイエンスと、十分条件のパッションが融合して医療というものが成り立っているのだと、常々研修医に話しています。
そして、サイエンスを発揮してパッションを得るには、生命の誕生に立ち会うことが一番です。困難なこともありますが、やり遂げた時のときめき、達成感は大きいです。周囲の人にわかってもらえなくても、サイエンスを提供することで、情熱に包まれる瞬間に立ち会える診療科だよと、すでに産婦人科医になっている人にまで語って、「学生や研修医に言ってください」とあきれられることがたまにあります。
―県北の現状は。
どれほど堅牢なシステムをつくっても、そこから漏れてしまう人たちが必ずいてうまくいかないものです。
県北地区で分娩を取り扱う開業医は、延岡に4軒、日向に2軒、合わせて6軒しかないんです。そこに60年の歴史のある会(県北産婦人科医会―通称二八会)があって、システムづくりに合わせてフェース・トゥ・フェースの関係を保っています。出身大学はそれぞれ違うのに、ほぼ全員が月に1回集まり、情報交換と飲みニケーションで親交を深め、ホットラインの電話も別につくるなどしてシステムを活用する基礎をつくっています。
県北の人口は20数万人で、分娩数は年間およそ2千件。そのうちリスクの高い300件くらいを当院で引き受けています。そして、ハイリスクの妊婦さんや赤ちゃんを当院で診て、よくなったら各開業医に戻します。
この「逆搬送システム」が、どこでもやれそうでやれないんです。特に赤ちゃんの逆搬送は!そこが県北の場合はうまく循環しています。そうすることで開業医施設の新生児医療のレベルも上がるんです。様子を見て家に帰すまで面倒を見なければなりませんからね。まさしくサイエンスとパッションの融合です。だから県北の周産期医療はレベルが高いのだと自負しています。