地域包括ケアを担うのは、一も二もなく人なのです
「人づくりが最大のテーマ」だと、社会医療法人芳和会の大石史弘理事長は言う。水俣病と、その患者に向き合ってきた歴史を持つ芳和会。地域包括ケアでも、地域の一人ひとりに寄り添う姿勢を崩さない。
―「地域包括ケア」を芳和会としてどう担っていきますか。
当法人は三つの病院と五つのクリニック、それに訪問看護ステーション、サービス付き高齢者向け住宅などを手掛けています。精神科の拠点である「菊陽病院」が菊陽町、一般病院の「くわみず病院」が熊本市内にあり、南の水俣市に「水俣協立病院」があります。
三つの病院はそれぞれに役割を持っています。くわみず病院は、総合診療が中心です。急性期医療が必要な患者さんの受け入れにも力を注いでいますし、定期的な診療を要する糖尿病や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者さんも多い。また、地域には睡眠時無呼吸症候群の患者さんも少なくないので睡眠センターを設け、一貫して診療できるようにしています。
近年、特に充実させているのが地域連携です。地域の開業医の先生方とのつながりを強め、在宅の患者さんの訪問診療を担う先生方とのネットワークを構築。当院は、その先生方をバックアップできるようにしています。
菊陽病院は精神科の基幹病院です。数年前にリニューアルを図りました。精神科スーパー救急を開設し、県下全域から患者さんを受け入れています。ギャンブル依存やアルコール依存の患者さんは、九州一円からお見えになります。
また、認知症の方が増えていますので、これからの課題として取り組んでいくことにしています。ただ、精神科の医師のなり手が少ないのが残念なところです。志をもった医師を育てるのが喫緊の課題です。
ドクターを支えるスタッフは看護師や作業療法士、心理療法士など実力がある人材がそろっており、強みだと自負しています。
―先生の初任地は水俣協立病院ですね。
水俣病については、今、何をしていくのか大きな課題だと思っています。水俣に限らず、県内の他の地域や山間部にも慢性症状がある患者さんがいらっしゃいます。医療の面でも社会的、経済的なサポートの面でも、終わることはない。ただ、今は興味がある医師や医療者が減っているのが難しいところです。
水俣協立病院に併設しているクリニックには精神疾患を合併した患者さんが多くお見えになります。最近はパーソナリティー障害やPTSD(心的外傷後ストレス障害)も増えていて、精神科の知識がないと対応できません。
天草には在宅療養支援診療所「天草ふれあいクリニック」があります。医師1人で在宅の患者さんを100人以上診ています。地域の開業医の先生方と連携をとって協力いただいたり、薬局とのコミュニケーションを図って薬を届けていただいたり、その際の様子をお聞きしたり...。訪問看護ステーションとも連携するなどして対応しています。
―これからの課題だと考えられていることは。
深刻な問題になってきているのが貧困格差の問題です。われわれは経済的な問題で受診できない方のために、無料低額診療も行っています。
熊本地震の直後には全国の医師約100人、医療スタッフ延べ1000人の支援を受け診療を維持。翌年からは、「復興カフェ」を各所で開き、地域の絆を強めることができました。仮設やみなし仮設に入居している方の医療費免除はなくなりましたが、復活させられないかと動いています。地域包括ケアはこうしたことの積み重ねです。それを担うのは一にも二にも人です。今後の医療を考えたとき、「人づくり」が最大のテーマなのです。
社会医療法人芳和会
熊本市中央区神水1-14-41
TEL:096-381-5887(代表)
http://houwakai.sub.jp/