身分保障制度も準備 県内32施設で総合診療医を育てる
◎地域全体で構築高知家専門プログラム
日本専門医機構に認定された総合診療専門研修プログラムは、各都道府県内に複数のプログラムが存在するところが多いのですが、高知県内には一つしかありません。
総合診療専門研修プログラムを作成するとなった当時、実施したいという病院は県内にたくさんありました。しかし、各病院が独自にプログラムを持っていても専攻する人がいなければ意味がない。 総合診療科を専攻する人はまだそんなに多くないことも予測されたことから、「できるだけ選択肢の広い、統一したプログラムを作りませんか」と、全病院に声掛けをしたのです。
その後、県内の基幹病院で構成し、私が会長を務めている「高知県臨床研究連絡協議会」を中心に、各病院が知恵を出し合い、柔軟性がありながらも統一の「高知家総合診療専門プログラム」を作り上げてきました。県全域で一つになり、総合診療医を育てていこうというわけです。
◎国内最大規模32カ所の研修施設
県内統一プログラムとはいえ、どこかが管理する必要がある。そこで、私が統括責任者となって、高知大学がプログラムを管理・運営することになりました。
研修施設は、専門研修基幹施設である高知大学医学部附属病院と県内の31の専門研修連携施設で構成されており、結果として国内最大規模の研修プログラムとなりました。専攻医には、このプログラム策定当初の狙い通り、幅広い選択肢で研修に臨んでもらえることになります。
大学は研究など学術的な部分を得意としています。一方、地域の病院にもそれぞれ得意分野がある。コモンディジーズが網羅できる、北米型ERを体験できる、ケアミックス型病院の役割を体験できる、産科小児科があり新生児医療にも関わることができる...。県内には、総合診療医を目指す人にとってすばらしい研修先がたくさんあり、情熱を持った指導医が多くいるのです。
同じ総合診療でも、例えば、「将来的にへき地医療をしたい」「個人開業して、住民にとって身近な家庭医になりたい」と考えている人と、「中小病院で総合診療医としての役割を担っていきたい」という人では、当然、身に付けるべきスキルも違ってきます。
そこで、3年間を1・2年次と3年次に分け、最初の2年間は主に総合病院などの中核病院を軸に内科、小児科、救急科などをローテーション。最後の1年間は地域の診療所や地域医療を担う病院などを選択してもらう形になっています。専攻医には個人のニーズに合った研修先を選び、自由に研修を組み立ててもらうことができます。
選択の際、役立ててもらおうと特色を生かした10のモデルコースも用意しました。
①あき総合病院群②幡多けんみん病院群③高知医療センター群④近森病院群⑤NHO高知病院群⑥細木病院群⑦JA高知病院群⑧いずみの病院・高知赤十字病院群⑨土佐市民病院・高知赤十字病院群⑩高知生協病院・高知赤十字病院群です。またモデルコースを参考に、独自の組み合わせも可能です。
また、2〜3カ月に1回、専攻医と指導医間で、ネット会議による事例検討会、学習会も開催します。遠隔であっても、不便なく学べる環境を整えています。
もともと、高知県は初期研修における地域医療研修のシステムが非常に充実していて、県外からの研修医も多く受け入れています。教育のための各医療機関の連携がしっかりと構築できていたからこそ、このプログラムも実現しました。
さらに言えば、地域で、地域に根ざした研修をしっかりとするという意識が、総合診療研修システムを構築する上でも生きている。そういうところではプログラムに自信を持っています。
◎全国でも例のない専攻医の身分保障制度
どこの科においてもそうですが、研修期間の3年間、ずっと同じ病院にいるわけではありません。研修期間中、何度も施設を変わっていくわけですが、そのたびに雇用主が変わり、待遇も変わり、専攻医の身分は不安定になります。
そこで高知県では、一般社団法人「高知医療再生機構」において、専攻医の研修期間中は常勤職員として雇用するという制度を設けました。これによって専攻医は研修病院が変わっても身分は継続される。どこで研修しても同じ待遇ですので、本当に学びたい場所で、安心して研修に集中してもらうことができます。
高知医療再生機構は、国の地域医療再生基金からスタートしたのですが、医師の確保や若手医師のキャリア構築支援にも非常に積極的に取り組んでくれています。このような仕組みがある高知県だからこそ、身分保障制度も実現できたと思います。
◎「広く診る」を忘れずに
医学部に入学したばかりの学生は「総合診療」というキーワードに非常に興味を持ってくれています。広く診ることができる医者になりたい、という希望を持った学生が多くいます。
ところが、先端医療や技術、専門的なことを学んでいくと、次第にそちらに興味が出てくる。特定の専門領域の医療を選択する人が増えていきます。 専門に特化し、追究していくと、だんだんと広くものを見る視野、「病気ではなく人を診る」という意識が損なわれがちです。
たとえ得意の分野を持っているにしても、できるだけ患者さんをひとりの人間として診る姿勢を忘れないでほしい。専門ではなくても「専門外だ」と投げ出さずに受け入れて、治療の方向性や紹介先を決めるところまでは診てほしいと思います。
高知大学医学部総合診療部は1998年に発足しました。私がこちらに赴任したのは、その翌年。医学部生の教育にも力を入れてきました。
総合診療部は「大学病院の窓口」。どの診療科を受診したらよいかわからない患者さんをまず診察して、適切な診療科につなげたり、他医療機関や大学病院内から紹介状を持参して来る患者さんを受け入れたり。予防接種も担当しています。
さらに「禁煙外来」も、われわれの得意とする分野です。呼吸器内科や循環器内科が担当することが多い禁煙外来ですが、高知大学医学部附属病院では総合診療部が、その役割を担っています。
総合診療部を訪れる患者さんの中には、不調があるものの、病名がつかないことで長年悩んできた方も多く訪れます。われわれは漢方薬も治療に活用。患者さんの症状緩和を図っています。さらに、臨床心理士による「こころのケア」にも積極的に取り組んでいます。
◎育てたいのは「断らない医師」
今、社会や地域で総合的に診療できる医師を求める声は非常に多くなっています。「高知家総合診療専門プログラム」を専攻する皆さんには、そんなニーズに応えられる医師になってほしいと思っています。
街の大きな病院と山の中の診療所。役割は違っても「求められることに応える」スタンスはどこでも同じではないかと思います。
私たちのプログラムの理念は「病院、診療所などで活躍する確かな診療能力と、地域包括ケアシステムのリーダーとなる素質を備えた総合診療専門医を養成すること」。求められることに応えられる「断らない医師」を育てていくことが、大きな目標です。
高知大学医学部 総合診療部
高知県南国市岡豊町小蓮185-1
TEL:088-866-5811(代表)
https://www.kochi-ms.ac.jp/~hsptl/ guidance/medical/m_general.html