医療を通じて人生を支える
それぞれ特徴が異なる3病院を運営する社会医療法人芳和会。大石史弘理事長が、各病院が得意とする分野と今後の課題を語る。
◎睡眠と女性の「くわみず病院」
くわみず病院(熊本市)は、1981(昭和56)年に開設。当初は、内科、外科、精神科、産婦人科の4診療科で、現在は8診療科、常勤医師がいるのは内科、小児科、婦人科、皮膚科、形成外科で、精神科、乳腺、整形外科は非常勤医師による診療を行っています。病床数は100床です。
くわみず病院では、急性期と亜急性期の患者さんの治療を担っています。職員のフットワークが軽いのが特徴で、地域の診療所と顔の見える連携を構築し、入院が必要な急性疾患から慢性疾患、重症疾患から軽症疾患まで幅広く対応しています。
くわみず病院の特徴の一つは、「睡眠センター」があることです。今年で開設15年目。この地域唯一の睡眠センターです。多い疾患の一つが睡眠時無呼吸症候群。中高年で肥満傾向の男性に多く、睡眠中に呼吸が止まるため眠りが浅くなり、日中、眠気に襲われるなど日常生活に支障をきたしてしまいます。
センターでは、睡眠ポリグラフ(PSG)検査で睡眠中の呼吸状態、脳波、血中酸素濃度などを測定。
睡眠時無呼吸症候群だと診断された人には、持続陽圧呼吸(CPAP)療法をします。
CPAP療法は鼻に着けたマスクから空気を送り込み、圧によって気道を確保します。保険収載されていて、同センターでは現在約1000人の患者さんがCPAP管理のために通院しています。
睡眠時無呼吸症候群のほかにも、日中、突然強い眠気を生じる発作が起きる「ナルコレプシー」や、十分眠っているはずなのに、日中居眠りなどをしてしまう「過眠症」などの治療をしています。
もう一つの特徴は、2003年開設の「女性医療センター」です。医師、看護師などスタッフの多くが女性。乳がん、子宮がんなど女性特有の疾患の検診と診療に力を注いでいます。
◎水俣病患者とともに「水俣協立病院」
水俣協立病院(熊本県水俣市)は、公害病である水俣病の患者支援のため1974(昭和49)年に開設された水俣診療所がはじまりです。
1996年に施行された水俣病総合対策事業により、水俣病にみられる一定の症状を有する方に対して医療手帳が交付されるようになりました。
また2009 年に「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法」が成立。従来の保健手帳を統合した水俣病被害者手帳が交付されました。
水俣協立病院では水俣診療所開設以来、水俣病患者の掘り起こし活動に尽力してきました。その結果、水俣芦北地域では多くの住民が被害者手帳を所持しています。
法人内の一部の医師は「県民会議医師団」に参加し、ノーモア水俣第2次訴訟を支援しています。
この支援で、水俣病被害で苦しむ人々を一人でも多く救済できればと考えています。
30年以上前から1000人規模の水俣病検診を実施しています。その検診データを基に大手全国紙と共同で2004年11月から2016年3月までに水俣病の検診を受けた人1万人分の記録を調査した結果、被害者の救済対象地域から外れた熊本県天草地方や鹿児島県内陸部で暮らした人々と、対象地域の人の症状の現れ方が酷似していることが明らかになりました。
不知火海でとれた魚介類が日常的に流通していたために政府が定めた対象地域や年代を超えて広がったと推測されます。
また被害者救済期限が過ぎた2012年8月以降に水俣病被害の潜在被害を調べる検診を実施した結果、1500人余りに水俣病の典型的な症状である中枢神経系の異常が表れていたことも調査で分かっています。
これらの調査結果は2016年10月3日、10日の大手全国紙の1面トップで大きく報道されました。
今後も国に対し、粘り強く被害者救済の範囲、期限の拡大を訴え続けていきたいと考えています。
◎県内初の精神科スーパー救急「菊陽病院」
菊陽病院(熊本県菊池郡)の前身である熊本保養院は1951(昭和26 )年に、現在、くわみず病院がある熊本市中央区神水で開院。地域の精神科医療を担ってきました。
1976(同51)年に熊本保養院が持っていた精神科の機能を引き継ぐべく、菊池郡菊陽町で「菊陽病院」を100床で開設しました。
患者さんの人権に配慮した医療の提供を心がけ、患者さんが社会復帰するためにはどうしたらよいかを常に考慮。自治会や家族会などと連携し、患者さんを地域にお戻しすることに力を入れています。
現在の病床数は315床。県内で初めて精神科スーパー救急を開設し、精神科救急病棟(44床)で受け入れています。県内全域の救急患者の対応に注力し、2011年には救急医療功労者知事表彰を受賞しました。
統合失調症、うつ病などの治療から、アルコール依存症、ギャンブル依存症の治療まで幅広く提供しています。アルコール依存症やギャンブル依存症を専門的に扱う病院はまだ少ないため、そのため県外からも多くの患者さんが訪れています。
◎医師確保で理念の実現を目指す
当法人は1951(昭和26)年設立。1954(同29)年には全日本民医連に、九州の病院で初めて加盟し、熊本県民医連を設立しました。
3病院のほか、5クリニック、訪問看護ステーション、サービス付き高齢者向け住宅などを運営しています。
2018年2月には、「新くすのきクリニック」(熊本市)を開設予定。工事を進めている最中です。新くすのきクリニックでは患者さんのプライバシーやアメニティーに配慮するほか、デイサービスや多目的交流ホールを設置する予定です。
地域で求められる精神医療を実践していくにはまだまだ精神科の常勤医が不足しています。歴史ある精神科の伝統を守り、発展させるためにも志のある精神科医師の養成が現在の重要課題と考えています。
法人理念である「無差別平等の医療」「人の生涯にかかわる医療」「安心して住み続けられる街づくりの拠点となる」は、私がくわみず病院の院長時代に考えたものです。超高齢化社会の到来と貧困と格差の拡大が進む中、この理念はますます重みを増していると感じます。
- 水俣病の医療手帳・水俣病被害者手帳について
- 医療手帳・水俣病被害者手帳交付対象者が手帳を提示して医療機関で療養を受けた場合、療養に要した費用のうち医療保険適用分の自己負担分については、本人に代わって県が負担する。
- ただ水俣病に明らかに関係のない療養や、医療保険がきかない治療は支給対象にならない。
社会医療法人芳和会
熊本市中央区神水1-14-41
TEL:096-381-5887
http://houwakai.sub.jp/