地域で連携しながら町の健康を維持していく
山陰を代表する商都、鳥取県米子市の南に広がる南部町。高田照男・西伯病院院長は1990年から同院に勤務し、この春、院長となった。「町民の健康を維持したい」と語る。
―地域の特徴は。
南部町は典型的な中山間地と言えます。高齢化が進み、人口は減少している。現在の人口はおよそ1万1千人ですが、2040年には7800人を切ると言われています。私が当院に勤務して約30年、店も人も少しずつ減ってきている印象があります。
南部町では私たちの病院、複数のクリニック、社会福祉法人が運営する特別養護老人ホームがそれぞれの役割を果たしながら、地域住民のケアに取り組んでいます。
町は全域を七つの振興区に分け、住民の力も借りながら医療・福祉・介護を取りまとめています。振興区の集会所を拠点に心身の状態を相談できる「まちの保健室」を開設するなど、町を挙げて予防に力を入れているところです。
私たちも「この地域をいかに維持していくのか」という大きな問いの中で、早期治療や啓発活動が重要であると認識しています。同時に、さまざまな機関と連携、協働し、限りある医療資源を有効に使いながら、切れ目のない医療とケアを心がけています。
―最近の取り組みなどを。
連携はまだまだ十分とは言えません。そこで、行政や近隣の医療機関、社会福祉協議会などに呼び掛けて、今年4月、「実務者連絡会」を始めました。年4回開催する計画です。顔が見える仕組みをつくることで地域全体の「連携」への意識が高まればと期待しています。
これまでも、ある程度スムーズに情報共有ができていると思っていましたが、実際にお会いして話をすることで、お互いがどんな思いでいるのか、どんなことをしているのかなど、知らないことが多いものだと驚きました。色々な気付きを、強固なつながりづくりに生かしていくつもりです。
国立長寿医療研究センターが開発した認知症予防運動プログラム「コグニサイズ」の導入も予定しています。認知症は患者さんや家族にとってだけでなく、地域の課題でもあります。認知トレーニングと運動を組み合わせたこのプログラムを当院の認知症予防教室で実施したい。住民の皆さんに予防のための行動を、うながしていきたいと考えています。
―精神科医として外来も担当。精神科医、院長、それぞれの抱負を。
当院精神科は、鳥取県西部エリアの精神科医療の「核」とならなければなりません。全198床のうち、精神科病床が99床。県指定の認知症疾患医療センターでもあり、認知症を含む高齢者の精神的支援を続けていきます。
「病を治す」という視点ももちろん大事なのですが、「応援する」「寄り添う」という姿勢、患者さんに対する温かいまなざしを貫いていきたいと思います。
当院では特にスタッフの確保が大きな課題です。現在は、11の診療科があり経験豊富な先生がそろっていて、高度で専門的な医療が提供できている。地域の皆さんの体と心をサポートできているという自負があります。
ただ、それを今後も継続できるかどうかは予断を許しません。次代を担う医師をどう確保するのか。大学病院や基幹病院からの派遣はもちろん、環境の良さや住み心地をアピールして首都圏の医師を招くことができないかと思案することもあります。
南部町のような少子高齢化が進む小さな町では、「医療が確実にある」ということが、活力を維持する上で大きな土台となります。医療の高度化に対応しながら、質の高いスタッフを確保できる仕組みを整え、健康の町づくりに今後も貢献したいと思っています。
南部町国民健康保険西伯病院
鳥取県西伯郡南部町倭397
TEL:0859-66-2211(代表)
http://www.saihaku-hospital.com/