もっとも大切なのは医療を受ける人
沖縄本島の中部、紺碧の海を見下ろす高台にある琉球病院。1949年発足と、沖縄県内で最も長い歴史を持ち、本島の中北部では唯一の公的な精神科病院として期待されている役割とは。
―クロザピン治療における「沖縄モデル」とは。
司法精神医学からアディクション(依存症)、こども心療、包括的地域精神医療、重度心身障害、認知症など幅広く対応しています。その中で、最も当院が認知されているのが統合失調症に対してのクロザピン治療です。2017年12月の時点で223例、これは全国でも2番目に多い症例数です。
クロザピン治療に関しては2014年9月から地域の医療機関と連携する「沖縄モデル」をスタートさせ、これは国のモデル事業にも指定されています。
この治療は、無顆粒球症の副作用があり、きめ細かなモニタリングが必要です。さらには糖尿病などのリスクも高く、血液内科との連携も欠かせません。そこで当院がコア病院となって総合病院である沖縄県立中部病院の血液内科と連携をとりつつ、治療を実施。症状が安定した患者は近隣の医療機関での通院へと切り替えフォローしていく連携体制を整えることに成功しました。
また2015年7月に完成した東2病棟内に、日本初の「クロザピン治療専門病棟」を56床設け、強化を図っています。
―アルコール依存症やこども心療科の取り組みは。
沖縄はアルコール性肝疾患が全国平均の約2倍、飲酒運転の検挙率も常にトップクラスという課題を抱えています。
そこで「早期介入」の観点で取り組みを行っています。行政や保健所等とタイアップし、検診においてAUDIT(飲酒習慣スクーリングテスト)を実施。スコアリングで依存症未満である10〜20点の方に介入します。
しかし、アルコール依存傾向の方は、医療とつながりにくいという問題があります。そこで沖縄県立中部病院内に「アルコール相談室」をつくり、2週間に1回当院のスタッフが出向いて相談を受け付け。この秋からは救急部との連携も計画しています。
「こども心療科」に関しては、実は沖縄では子どもの心を専門に診ることができる病院が少なく、拠点病院として、ネットワークづくりや機能分化を進める役割があります。
離島との連携も課題です。子どもの診療に限ってではありますが、当院のスタッフが宮古・八重山地域の離島にも出向いて現地の医師などを対象に研修を担当しています。
―災害医療も含め、連携やチーム医療を大切にされている印象です。
本院はDPAT(災害派遣精神医療チーム)の沖縄県から任命された先遣隊第1陣になっています。
東日本大震災の際にも岩手県宮古市に1年半ほど継続して支援に入りました。ただ、当時は初動で思うようにケアできないという苦い経験もしました。その反省もあってか、2015年のDPAT結成にあたっては20人のスタッフが手を挙げ、翌年の熊本地震では先遣隊として現地入りできました。
「この病院で最も大切なひとは医療を受ける人」という理念があります。専門医療、チーム医療、心を一つにしながら連携を進めることが大切だと感じています。災害の現場でも、医療を受ける方が何を求めているか、そのニーズにしっかり応えていくことが大切です。
また病院内の連携のための人材育成や教育にも力を入れています。専門医療、チーム医療をもっと質的に深めるためにも、お互いが連携することが重要だと考えています。
教育に関しては、2012年に臨床研究部を立ち上げました。400床という恵まれたフィールドの中で、現場感覚をもってしっかりとエビデンスを発信していきたいと思っています。
独立行政法人国立病院機構琉球病院
沖縄県国頭郡金武町金武7958-1
TEL:098-968-2133(代表)
http://www.ryu-ryukyu.jp/