患者の絵画クラブを作った独立行政法人 国立病院機構 熊本南病院の植川和利院長
院長に就任したのは平成25年4月1日。専門は神経内科で、パーキンソン病や筋委縮性側索硬化症(ALS)など神経難病の診療に当たっている。また神経難病という過酷な療養生活を少しでも豊かにしたいとの願いで、平成9年4月から職員ボランティアの協力の下、患者、家族を中心に「リハビリ動創生の会」を設立して活動を行なっている。同16年8月から絵画教室を開いて患者との親睦を深め、17年から毎年、不知火美術館で患者の絵画展を開催している
1975 熊本大学医学部卒業、熊本大学医学部附属病院第一内科入局(研修医)、1976 熊本中央病院内科研修医、済生会熊本病院消化器科研修医、熊本大学医学部附属病院第一内科研修医、1977 国立療養所再春荘、1982 熊本大学大学院医学研究科修了、熊本大学保健管理センター助手及び第一内科助手併任、1984 荒尾市民病院内科科長、1986 社会福祉法人玉医会身体障害者療護施設たまきな荘施設長医師、1994 国立療養所再春荘病院内科医師、国立療養所熊本南病院内科医長、2003 同院神経内科医長、2004 同院副院長、独立行政法人国立病院機構熊本南病院に組織改正(副院長)、2013 同院院長。現在にいたる。http://www.hosp.go.jp/~kumanann/index.html
当院は結核を中心に診療する療養施設でしたが、国立病院等再編成計画で旧国立療養所熊本南病院と旧国立療養所三角病院が統合し、国立療養所熊本南病院として開設、その後、中央省庁改革の一環として、独立行政法人国立病院機構熊本南病院となりました。
平成6年10月に当時の院長から診療科目に神経難病を入れたいとの要請を受け、内科医長に就任しました。当初は神経内科の医師が私1人しかおらず、患者さんの数もまだ少なくて自由な時間もありましたので、作業療法的な意味も含め、主にパーキンソン病の患者さんと一緒に院内の庭木をいじったり、土地を耕してチューリップの球根を植えたりしていました。
赴任当初から神経難病患者さんとの交流が密接で、みんなで身体を動かしたり、車いすの患者さんがいれば他の患者さんが手助けするなど、患者さん同士が生活を支えあうという気持ちが強かったです。
平成22年に神経難病拠点病院の指定を受け、同年、神経難病センターを開設しました。熊本県には現在、およそ1万8千人の難病患者がいて、その3割近くが神経難病です。そのうちパーキンソン病の患者さんが約1千800人。当院では約200人の患者さんを診療しています。
もう一つ、筋委縮性側索硬化症(ALS)の県内の患者さんは約180人で、当院では60人ほどの診療に当たり、そのうちの半数くらいの方が人工呼吸器をつけています。
赴任当時はALSの呼吸管理に関しては消極的な時代でしたが、欧米の視察研修のおかげもあり、積極的に人工呼吸器装着や在宅療養を推進しております。今後の課題は患者さんのQOLの向上だと考えています。
上の2枚はともに植川院長の作品。下は田崎由美さんの絵。上から「ベゴニア」、「シャコバサボテン」、「やまふじ」。1 つの作品に3 週間近くかかるそうだ。絵画クラブ作品集「いのちの絆」はオールカラー。2号まで出ている。
―QOL向上の取り組みを教えて下さい。
平成9年に「リハビリ動創生の会」というものを作りました。リハビリには身体的機能の回復だけでなく、精神面の回復、生きがいを作るという意味も含んでいます。
動創生という名前の由来ですが、活動・運動・感動の「動」=dynamic、創作・創造・独創の「創」=creative、生活・人生・生きがいの「生」=life から採りました。
昭和61年(1986)に身体障害者施設で施設長をしていたのですが、そのころから患者さんと一緒に油絵をやっていました。それまでは絵の心得がなかったのですが、描く以上は人に見てもらいたいという思いから独立展に出展し、これまでに3回入選しました。知り合いからは冗談で「医者より絵描きの方が向いていたんじゃないの」と言われます。
当院でも10年ほど前から、毎週日曜日に院内の食堂で、リハビリ動創会の絵画クラブを開き、患者さんたちと絵を描いています。不知火美術館で展示会を7回行なっていますし、「いのちの絆」という作品集も刊行しました。
ALSで在宅治療中の田崎由美さんという方は、車いすで人工呼吸器を付けた状態で、まだわずかに動く足を使い、マッキントッシュで絵を描いています。他の神経難病の患者さんも、ハンディを持ちながらも各人の生きざまをキャンバスにぶつけています。この活動はNHKでも取り上げられ、大きな反響を呼びました。
絵画クラブの活動を通じ、患者さんの過酷な療養生活が少しでも豊かになればいいなと思っています。
熊本南病院=熊本・八代医療圏に挟まれた宇城医療圏にあり、呼吸器疾患、神経難病、がん診療を3本柱に、成人病やリハビリなど地域医療に当たっている。肺がん、消化器がん、血液がんの診断、治療、化学療法、終末ケアまで、住み慣れた地元での療養ができるように努めている。開放型病院として84名の登録があり、MRI(1・5テスラー)と80列CTの共同利用がある。
植川院長によると、パーキンソン病は脳内ドパミン欠乏により、ふるえ、動作緩慢、歩行障害に加えて、うつ、意欲低下などの非運動症状を呈することはよく知られている。補充療法としてのレボドパやアゴニストなどでの治療中に、創作意欲の異常亢進(punding)を呈した症例について、第16回異常運動・パーキンソン病国際会議(2011年=ダブリン)で報告したという。