総合的な知識、技能を持つ集中治療専門医に
救急医療を支えるプロフェッショナルを養成する香川大学医学部・医学系研究科救急災害医学講座。講座を率いる黒田泰弘教授は、2017年2月、日本集中治療医学会の「第1回中国四国支部学術集会」の会長を務めた。集中治療専門医の魅力などについて聞いた。
―集中治療専門医について教えてください。
集中治療専門医は、集中治療室(ICU・IntensiveCare Unit)での集中治療を中心に担う専門医です。救命救急センターなどで、救急医たちと一緒に、外傷、脳卒中や心疾患などで搬送された重症患者を診ています。
集中治療医は数がまだ少なく、医療関係者であっても、その存在を知らない人もいます。「何科の先生ですか」「何をしているのかよくわからない」などと残念ですが言われます。
一般の方は、ICUに入る機会がなかなかないということもありますが、具体的なイメージがわかないのかもしれません。
特定の病気を診療するというよりは、人工呼吸器、血液浄化装置などを使って、心臓、肝臓、腎臓などの重要臓器を治療することが大切な役割となります。
また、さまざまな疾患がある患者さんが、救急で運ばれてくるケースがほとんどですので多臓器障害に対する総合的な知識も必要です。多くは一刻を争う状況ですので、自分で十分な知識技能を持っている必要があります。
香川県は讃岐うどんが有名で、消費量も全国トップクラスです。麺は小麦粉のほかに、塩と水でできているため、気付かないうちに塩分を摂取しがちで、だしにも塩分が多く含まれます。
このような食文化の背景もあり、高齢者には、腎臓病や糖尿病などの生活習慣病があるケースが多くみられます。日頃からさまざまな薬を飲んでいる患者さんも少なくありません。多臓器に対する知識を生かせるのが、やりがいでもあります。
―課題はありますか。
集中治療について、もっと一般の方が理解できるように情報を伝えていかなければならないと思います。
国内にあるICUで、集中治療専門医が治療に当たった場合と、そうでない場合の社会復帰率、死亡率、入院日数などをきちんと示していく必要があり、現在、学会として力を入れている項目です。
ICUの費用は高額ですので、患者さんや家族に理解をしてもらうためにも重要なデータです。
国内の集中治療専門医が少ないことも課題です。全国各地の病院に、立派なICUが設置されていますが、そこに集中治療専門医がすべて配置されているかというとそうではないのです。
集中治療加算では看護師の配置基準は夜間患者2人に対して1人などと定められていますが、医師に関しては、「専任の医師」とあるのみで、集中治療専門医はほとんど専従していません。
当学会の認定施設には集中治療専門医がいますが、集中治療加算が認可された施設が、認定施設と必ずしも一致しているわけではないのです。ICUの質を保つためにも、専門医を増やすことは必要なことだと思います。
―初開催となった日本集中治療医学会中国四国支部学術集会で会長を務められました。
日本集中治療医学会は、会員数が1万人を超える学会です。医師を中心に、近年は、看護師、薬剤師、臨床工学技士、理学療法士なども数多く参加しています。ICUでは、多職種が共同で治療にあたることが、その背景にあります。
もともと、中四国など七つの地方会がありましたが2016年12月末日で、発展的に解散し、全国組織の日本集中治療医学会として統合されました。そのうちの一つが中国四国支部です。
2017年1月発足ですので、同学会の支部学術集会としては、われわれの会が初めてでした。中国四国の地方会は、日本の集中治療を引っ張ってきた歴史と伝統がありましたので、プレッシャーも不安もありましたが、盛況のうちに終了しました。
会員はさまざまな職種にわたり、若い方も増えていますので、学会テーマを「若いパワーの結集」と決めました。看護師など、地元の医療職も多数来てくれたことも特にうれしかったです。
今回は、「発表するだけではなく具体的に勉強したい」という声に応えてセミナーを企画しました。
私が講師を務めて、神経集中治療のハンズオンセミナーを開催しました。神経集中治療のハンズオンセミナーは、全国初であったため中国四国地方以外からも参加があり、好評でした。地方での学会でも、内容によって、人が集まってくれるということがわかりました。
国立大学法人 香川大学医学部・医学系研究科 救急災害医学講座
香川県木田郡三木町池戸1750-1
TEL:087-898-5111(代表)
http://www.med.kagawa-u.ac.jp/~emd/