勤労者医療、地域医療支援、がん診療、災害医療をさらに強化
地域と勤労者を満足させる病院に
今年4月に就任した、九州労災病院の岩本幸英病院長。3月までは、20年にわたり、九州大学整形外科の教授を務めてきた。日本整形外科学会理事長の経験もある岩本病院長に、新天地で目指すことなどを聞いた。
■気持ちは「里帰り」
ー病院長就任の思いは。
「新たに病院長としてきた」というよりも、気持ちは「里帰り」。この病院に、若いころ勤務したことがあるのです。
当時も活発な病院でした。手術件数が多く、メディカルスタッフの一体感も見事。みんな協力的で、素晴らしい研修ができた思い出があります。
今回、36年ぶりに戻ってきて「相変わらず、一体感と活気がある病院だな」と、うれしく思っています。
■全国初の労災病院基幹病院の役割も
ー病院の役割を聞かせてください。
当院は、1949(昭和24)年に設立された全国初の労災病院です。戦後の復興期、産業活動が活発化したのに伴い、労働事故が増えました。その被災労働者を救うために開設されたのが、九州労災病院だったのです。
同時に、被災労働者の職場復帰を目指した、リハビリテーションセンターも全国で初めて開設しました。当時病院があった小倉南区葛原高松は、日本の〝リハビリテーション発祥の地〞とされています。
時代の変遷とともに、労務管理が充実し、労災事故は減ってきました。けがや障害に陥る人は激減しています。そのぶん、大きくなっているのが、総合病院、基幹病院としての役割。地域医療支援の機能です。
■頼られ役立つ病院に5分野の強化を計画
ー抱負を。
教授時代のモットーは整形外科全般の強化。私自身の専門である骨・軟部腫瘍だけでなく、関節外科、脊椎外科、手外科、リウマチなど各分野にリーダーを置き、充実をはかってきました。
さらにそのうちの6年間は、九州大学病院の経営担当副病院長も務め、すべての分野で患者さんが満足できる医療を目指し、努力してきました。
今後は院長として、全領域をアクティブに活性化させ、地域の方々や勤労者の役に立つ病院としてこの病院をさらに成長させられるよう、経験を生かし全力を尽くしたいと思っています。
ー具体的には。
かかりつけ医の先生方との連携をより緊密にし、患者さんが満足できる医療をいっそう目指していきたい。救急医療の分野も、強化していきたいと思っています。
また、今回の就任と同時に、骨・軟部腫瘍外科を整形外科内に立ち上げました。近隣だけでなく県外からの患者さんも増えてきています。これまでの外科や内科、泌尿器科、耳鼻咽喉科、産婦人科などでのがん診療も、これからさらに充実させていく考えです。
4月1日、災害拠点病院の認可も受けました。ほどなくして熊本地震が発生。当院からもDMATを熊本県に派遣するなど、災害医療活動を開始しています。
大規模災害は予測不能です。遠方での発生時だけでなく、地元で起きてしまった場合にも、地域の期待に応えられるよう、活動していくつもりです。
ただ、勤労者医療も欠かすことはできません。外傷やアスベスト関連疾患、じん肺、振動障害などは、当院が最後の砦(とりで)です。ストレスチェック制度の導入などで対策がすすむメンタルヘルスのケア、健診、生活習慣病の予防・治療、脳卒中などの患者さんの職場復帰支援にも力を入れていますし、今後もそれは継続していきます。
■コミュニケーション重視で
ー日ごろ、職員に伝えていることは。
よく話をするのは「コミュニケーションを大切に」ということ。医療者の力量は、知識、技術だけでは測れません。患者さんとのコミュニケーション、スタッフ同士のコミュニケーションが重要です。
基幹病院とかかりつけ医の役割分担でも、チーム医療での多職種連携でも、これは欠かせない。良い医療のために、必須なのです。
この病院に来て、職員間の声掛けが活発なことに感心しています。「おはよう」「おつかれさまでした」などと頻繁に声を掛け合う。これは会話のきっかけを作ることになります。長年トレーニングされてきたのでしょうね。
現在、私は公益財団法人 「運動器の10年・日本協会」の理事長や、日本医学会幹事、日本医学会連合理事などを務めています。また日本整形外科学会理事長の経験もあります。
私自身が中央で仕事をする様子や、これまでの経験を伝えることで、将来、当院の医師、看護師などの中から日本の指導的立場になる人が出てきてくれたら、と願っていますし、有望な人が活躍できるよう、お手伝いしたいとも思っています。
独立行政法人労働者健康安全機構
九州労災病院
北九州市小倉南区曽根北町1番1号
☎093・471・1121(代表)
http://www.kyushuh.johas.go.jp