九州大学大学院医学研究院整形外科 岩本 幸英 教授

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将来を見越して、意味ある仕事を

【略歴】1978 年久留米大学医学部卒、1985 年九州大学大学院医学研究科博士課程修了。米国NIH(国立衛生研究所)留学、九州大学整形外科助教授などを経て、1996 年より現職。2009 年日本整形外科学会学術総会会長。アジア・太平洋整形外科学会日本代表。2011 年~2015 年日本整形外科学会理事長。2015年より運動器の10 年・日本協会理事長

―九州大学の整形外科について聞かせてください。

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 講座開設は、1909(明治42)年。国内の整形外科教室としては、1906年開設の東京大学と京都大学に次ぐ、3番目に長い歴史があります。

 でも、その歴史以上に大きな意味があるのは、この講座が「手術で患者を治し、復帰させる」という現在の整形外科のあり方を広めたパイオニアだということでしょう。

 それまでの整形外科は、小児の変形疾患などの矯正が主でした。しかし、第一次世界大戦(1914〜1918)での戦傷兵の治療から、外傷へと領域が広がり、さらにその後、変形性関節症、変形性脊椎症などの外来患者、手術件数も大きく増加しました。

 欧米の整形外科医は手術のみを行います。ヨーロッパには外傷専門の医師がいます。わが国の整形外科医は、手術はもちろん、リウマチ、骨粗しょう症の薬物治療もしますし、リハビリにも関わる。運動器全般に対して、内科と外科を合わせた治療をするのが日本の整形外科医であり、今後もそうありたいと思っています。

 九大整形外科の第2代・神中正一教授は、1932年(昭和7)年に「整形外科では外科との適応の差があることを認識し、第一次世界大戦時に整形外科学と外傷学を区別することは不合理となり、外傷を含め義肢学の必要性、平和時産業構造の変化で労働災害が発生すればこれに対処しなければならず、肢体不自由者を救済することが必須となり、スポーツ活動の増大とともに、整形外科が関与しなければならない」と予見されました。

 現在の整形外科は、まさにその通りとなっているのです。神中教授の著書「神中整形外科学」は何度も改訂を重ね、今も日本の多くの整形外科医が、これを使って勉強しています。

―教室として、今後、目指す姿は。

 この教室は、その長い歴史の中で、世界的な研究業績を上げ、評価を受けてきました。これからはこの九大整形外科を充実させるというよりも、日本の、そして世界の整形外科をリードすべきだと考えています。

 そのためには、ALLJAPANで優れた臨床研究をする必要があります。個々の小さなグループで臨床研究をしても、次の時代の医療につながるような有用なエビデンスは得られません。ALL JAPAN体系の中で、しっかりと役割を果たし、次の医療につなげる。それが私たちの役目だと思うのです。

 骨・軟部腫瘍については、化学療法で使う薬の組み合わせを変え、より効果的な治療を見極める臨床研究を多施設で実施してきました。

 また、膠原病患者へのステロイド投与によって発生しやすいとされる大腿骨頭壊死(えし)については、ステロイドと大腿骨頭壊死の予防薬を併せて使う臨床研究を内科と組んで行っています。

 大腿骨頭壊死の手術の研究もしていますが、手術をしないで済むのなら、患者さんにとってはそのほうがいいでしょう。教室員には「将来を見越して、意味ある仕事をしなさい」と常々言っています。

̶超高齢社会で果たす役割は大きいですね。

 日本人の平均寿命は男性が80・50歳、女性が86・83歳(2014年)。その伸びは、ここ60年でおよそ30歳と驚異的です。

 そんな中で、日本の疾病構造は完全に変わりました。人生50年を過ぎて出てくる病気が増えてきたのです。人生が80年となったことで、直立二足歩行の影響が運動器に出るようになり、変形性腰椎症、変形性膝関節症や骨粗しょう症と付随する骨折も問題に。さらに複数の疾患を合併する患者さんも、とても多くなってきました。

 そこで2007年、日本整形外科学会はこれらの疾患を全体的にとらえる必要があるだろうと「ロコモティブシンドローム(運動器症候群、通称ロコモ)」の概念を提唱しました。

 運動器の障害で、要介護または要介護になる危険性の高い状態のことで、原因は①加齢による筋力低下②加齢によるバランス能力低下③運動器疾患。このロコモの認知度を上げ、①②についてはトレーニング、③は早期受診という予防法を広げることで、健康寿命の延伸、心身ともに自立した生活ができる期間を、寿命により近づけたいという考えです。

 2015年5月までは学会の理事長として先頭に立って普及に取り組んできました。国も後押しをしてくれています。

 北部九州でも、九大が中心となって、骨粗しょう症患者の二次骨折を防ぐ地域ネットワークを作り、取り組みを始めています。

̶そのほか、力を入れていることは。

 私が専門とする骨軟部腫瘍のうち、骨肉腫やユーイング肉腫の患者さんは、10歳代の子どもさんが多いんです。かつては、ほとんどの方が亡くなっていましたが、今は骨肉腫では4 分の3、ユーイング肉腫でも6割以上の人が助かるようになってきました。小児の分野も、非常に大切にしている部分です。

 今、小学生は、スポーツクラブで野球、サッカー、ラグビーなどに熱心に取り組み、やり過ぎによって障害を起こしてしまう子がいる一方で、まったく運動しない子もいて、二極化しています。やり過ぎの子の手術や治療もしますが、発生を予防しなければなりません。運動しない子の体力や運動能力低下も懸念されます。

 2016年度からは、小学校での運動器の検診が始まります。問題のある子を早い段階で見つけ出すことができれば、早めに対処することが可能です。学校と一緒になって、取り組んでいく必要があるでしょう。


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