早期からの関わりで重症化予防と早い社会復帰を
1978年久留米大学医学部卒業、九州大学整形外科入局。1985年同大学大学院医学研究科卒業。米NIH(国立衛生研究所)留学、九州大学大学院医学研究院整形外科教授、日本整形外科学会理事長を経て、2016年から現職。
急性期病院として地域住民及び被災労働者の治療、職場復帰の支援を続けてきた労働者健康安全機構 九州労災病院。リハビリテーション部門の役割や、今、問題となっているロコモティブシンドロームの現状、予防方法について、岩本幸英病院長に話を聞いた。
―九州労災病院のリハビリテーション部門で大切にしていることは何でしょうか。
治療では早期介入を基本方針に掲げています。対象疾患は脳卒中をはじめ、パーキンソン病や筋ジストロフィーなどの神経筋疾患、廃用症候群など多岐にわたります。また疾患に付随する「体が動かせない」「話せない」「ものが飲み込めない」などの障害にも対応しています。
たとえば骨折に対する接合術、人工関節置換術は原則として手術の翌日からリハビリを開始します。関節が固まることなく、筋肉が落ちていくのを防げるので、早く社会復帰できるのです。
また、脳卒中の患者さんに対しては、遅くても入院後3日以内にリハビリを開始します。集中治療を要する外科手術後の患者さんも同様です。
当院は院内に「治療就労両立支援センター」を設置し、主に脳卒中の患者さんの両立支援に取り組んでいます。急性期のリハビリを終えた脳卒中の患者さんが、回復期のリハビリを経て、かかりつけ医のもとに戻るまでサポートをしているのです。場合によっては、担当医が回復期リハの病院に患者さんの様子を見にいくこともあります。
―骨粗しょう症の現状を。
骨粗しょう症は、骨折を起こさない限り、大きな支障はありません。ところが、骨折した途端に動けなくなってしまうのです。寝たきりになり、肺炎を起こして死に至る危険性もあります。
手術後はリハビリが必要になります。再発を予防するために、骨粗しょう症の治療薬を服用しながら、回復期リハの病院でリハビリをした後、かかりつけ医のもとに戻ります。手術、リハビリ、その後のケアなど、医療機関同士の連携が欠かせません。同時に、整形外科医、理学療法士、看護師、薬剤師などの多職種連携も重要なのです。
一度骨折した骨粗しょう症患者は、高確率で再骨折します。ところが、再発防止のために薬を飲まなければいけないのに服用しない人が多い。今の日本の骨粗しょう症の問題は、薬物治療で骨折予防をしている患者さんの比率が低いということです。病院側が、患者さんに対して継続的に治療薬を飲むよう促す必要があります。
―ロコモを予防するために必要なことは。
ロコモの原因は加齢による筋力低下、バランス能力低下、運動器疾患の三つです。筋量は加齢で年に0.5%ずつ、筋力は1%ずつ低下しています。 筋力とバランス能力の低下はトレーニングで防止できるため、私たちはスクワットや片脚立ち、ストレッチなどを推奨しています。
しかし、これらの訓練は病院内で実施することではありません。方法を教えるのは病院側ですが、自宅で実践すべきものなので「自分で防止するものだ」という意識を持っていただかなくてはいけないのです。
ロコモは高齢者のみの問題だと思われがちですが、若いうちからの予防が不可欠です。もっと言えば、子どものときから予防が始まります。
最近の子どもは二極化しています。一方は野球やサッカーなど本格的にスポーツに打ち込み、もう一方は家に閉じこもりゲームばかり。後者は運動体験がなく、非常に危険です。なぜなら、人間の神経系は12歳までに100%できあがる。それまでに運動をしていないとバランス感覚が養えず、将来的に転びやすい人になるわけです。子育て中の世代に対する啓発活動が欠かせないと思います。
独立行政法人労働者健康安全機構 九州労災病院
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