外科的に治るてんかんには早期対応を
■てんかんセンターについて
「てんかん」は、日本に約100万人の患者さんが存在する、発生頻度の高い疾患です。一方、症状や年齢層が多様で精神症状を合併することもあるため、担当する診療科は小児科・神経内科・神経精神科・脳神経外科と多岐にわたります。当てんかんセンターは、これらの診療科と薬剤部・看護部・検査部・ソーシャルワーカーなどが協力して、2013年3月に設立しました。
センターができたことで、てんかんの患者さんを受け入れる窓口が一本化されました。各科との連携も取りやすくなり、スムーズな診療が行えるようになりました。
てんかんの発作ですぐに命にかかわることはありません。治療を始めるときは、確かな根拠を持って始めることが大切です。いろいろな地域に講演に出向く機会も増えました。「こんな症状もてんかんだったのか」「こんなことに気を付けないといけなかったのか」など、病院の先生方にも知っていただくことができます。連絡を取りやすくなったことで紹介件数も増えました。
現在、年間紹介件数は百数十件で、毎年増えています。鹿児島県の規模からすれば、まずまずの数字だと思います。
また、地域には、「周囲に知られると暮らしづらくなるから、地元の病院にはかかりたくない」という方がまだいらっしゃいます。しかし、てんかんは脳の病気であり、差別や偏見の対象となるものではないのです。ですから、近所で診てもらえるならそれが一番いいということを、もっと普及していきたいですね。
■医療現場が抱える問題
全国的に問題になっているのは、小児科医が、成人になった患者を担当し続けていることです。中には、担当している患者の約半分が成人という小児科のてんかん専門医もいます。
成人になると、てんかん以外の病気を発症する可能性があります。そうなったとき、小児科医だけでは対応ができません。それ以上に、小児のスペシャリストが成人を診ている状況は、人的資源の使い方として非常にもったいないですね。
自立した日常生活を送ることができる人であれば、時々発作があったとしても比較的簡単に成人科へ移行できます。しかし、発達障害を伴っている方の成人科への移行はなかなか難しく、さらに内臓を含め、他にも病気を持っている方をまとめて引き受けられる成人科は今のところないのです。
例えば、結節性硬化症という病気があります。皮膚、頭の中、内臓などにできる硬い腫瘍のようなもので、頭の中にできると、それが原因でてんかんを起こします。小児で発症することが多く、発達障害を伴うことも多いため、このような患者は診察中もじっとしていることができません。薬で鎮静しないと検査ができないこともしばしばです。重度の発達障害を専門とする診療科もありません。また、疾患が複数の臓器にわたっていても、子どものうちは、子どもの総合医として小児科医が何とか対応してくれますが、大人になると、診療は基本的に臓器・疾患別に分かれてきます。紹介を受けた医師だけで複数の臓器にわたるマネジメントを行うことは大変困難です。
さらに、患者側もこれまでずっと対応してくれた小児科医に続けて治療してもらうことを希望することもしばしばです。これらが重なって、患者が40〜50代になっても小児科医が抱えざるをえない状況となっています。
今はまだ具体的な解決策はありません。この状況を改善することが、行政の関与も含めて今後の大きな課題です。
■てんかんの外科治療
乳幼児期に発症したてんかん発作が止まらないで頻回にくりかえすと、精神発達に遅れが出てくることもあります。この点からも、できるだけ早期に対応することが必要です。薬で治らなくても、外科的治療によって改善する場合があります。
最近では、外科治療の認知度が高まっていて、小児科医の間でも注目されています。幸い、当センターには外科的治療に詳しい小児科医がいます。生後3カ月くらいの乳児でも外科治療ができると判断すれば手術することができる。すべてに適応できるわけではありませんが、手術で治るてんかんもあり、発作を止めることで、精神発育にも好影響を与えます。
難治性のてんかんのために社会への適応が難しくならないよう、患者さんが社会に出る前に、症状をコントロールできるものはコントロールしていくことが大事です。外科治療についても、50歳を過ぎても治療適応はありますが、外科的に治るてんかんは早い段階で治すことが基本です。
■今後のてんかん医療に必要なもの
てんかんの専門医がすべての症例をフィルターにかけることは不可能です。地域全体でてんかんへの認識を高めていくこと、共有することが必要だと思います。
例えば、「1回目の発作で脳波も画像も問題なければ治療はしない、という共通認識を持って最初のフィルターにかける」、「2〜3回目の発作で治療を始める」、「3〜6カ月たっても発作が治まらない場合には専門医に相談する」など、段階ごとにベースとなる考え方を地域として共有しておくことも必要です。
てんかん治療は継続的なものです。機能が突出した施設だけあっても何もならない。それよりも、段階を追って患者さんを診られる医療体制を作ることが必要なのです。
鹿児島大学では、てんかんについての授業時間をかなり設けてもらっています。てんかんに関する知識があるとないとでは、将来、医師になったときの感覚が違うと思いますし、若い人たちにとってもいい影響があるのではないでしょうか
もっと多くの人に、てんかんという病気のことを知ってほしいですね。
鹿児島大学附属病院 てんかんセンター(代表受付:脳神経外科外来)
鹿児島市桜ヶ丘8丁目35・1☎099・275・5828
http://www.kufm.kagoshima-u.ac.jp/~ns/epilepsy/