てんかんへの偏見をなくし支えあえる地域づくりを
■病院の特徴
このあたりは緑豊かな土地ですが、実は40年前に大洪水があって、大きな池のような状態になったのです。当時、この病院は重症心身障害と結核の患者を診る病院でした。病院をなくしてしまおうという話にもなったのですが、そのとき厚生省(現・厚生労働省)から、てんかんの病院をつくるように言われて、1975年に、てんかん病床を創設しました。
少しずつ病床を増やしていって、現在、神経難病病床が50床、重症心身障害病床は160床、てんかん病床は200床あります。
当院には小児科・神経内科・脳外科・精神科の医師がいて、専門医が20人、若い専修医も入れると30数人になります。
てんかんという病気は単に発作を止めればいいというものではありません。併存症があったり、心理社会的な悩みを抱えている人は多く、学校生活や就職などで苦労している人も少なくないのです。そのため、さまざまな分野のメディカルスタッフと一緒にチーム医療を行うことは、すでに40年前から方針として持っています。
子どもから高齢者まで診ていて、外科診療やリハビリテーションも行っています。静岡・神奈川・名古屋・東京など近隣からの患者さんがもっとも多いですが、北海道から沖縄まで、また海外からも来られていて、40年で4万2千人くらいになります。カルテはすべて保管していますので、たとえ35年ぶりの来院であっても安心です。
東日本大震災の時、被災地では病院が壊れたりカルテが流されたりして、これまでの病歴が一切分からなくなるという事態が起きました。てんかんは長くつき合う病気でもありますし、当院では、患者さんが自分自身で病歴をつくることを指導しています。
■医療連携について
医療は病院だけでは完結しないため、近くの福祉施設、教育現場、雇用に関わる行政や民間と、うまくネットワークをつくることに取り組んでいます。
今年から国の「てんかん地域診療連携体制事業」が始まります。今年はまだ予算が少ないため、全国5カ所くらいかと思いますが、今後広がっていけば、認知症のネットワークのように、てんかんのネットワークが公的に作られることになります。総合病院や開業医院との密なつながりができることを期待しています。
全国レベルでは、てんかんセンターが集まった「全国てんかんセンター協議会」があり、連携してセンターの質を高める努力をしています。現在、27施設が参加し、当院が代表を務めています。
もうひとつ力を入れているのは教育です。1997年から外部の医師、看護師、検査技師、ソーシャルワーカー、福祉施設の職員、学校の先生を対象とした研修セミナーを行っています。
海外、特に東南アジアからも医師、看護師、検査技師を受け入れて、これまで100人以上に数カ月〜2年間の研修を行いました。その後、彼らは自国でてんかん医療の中心となって活躍しています。モンゴルや中国では、てんかん学会や協会が作られた折、当院で研修したスタッフが積極的に携わっていました。
■ベーテル麻機(あさばた)部会
この地域は、県立こども病院、特別支援学校、障害者施設、老人保健施設が集まった医療福祉エリアです。対岸には流通センターという大きな商業区域もあり、駅から10kmの都市近郊で、そばに新東名高速道路もできました。
遊水地の自然にも恵まれたこの立地を活用し、医療と福祉に重点を置いたユニークな場所にしようと、地域住民と県で創設したグループが「ベーテル麻機(あさばた)部会」です。ドイツの福祉共同体「ベーテル」から名付けられました。地元企業もこころよく参加してくれて、まずは水田や畑ができました。
今後は自然を残しつつ、カフェや運動ができるスペース、福祉・健康に関する設備などを造って、もっともっと地域の人や障害のある人が集まり交流できる場所になっていけばと願っています。
■偏見をなくすには
てんかんには、昔から偏見があります。発作で倒れて痙攣(けいれん)すると、周囲の人は「こわい」「うつるんじゃないか」と思ってしまう。対処法を知らないから、てんかんのある人に問題があるのではないか、と思われてしまうのです。
偏見をなくすには、対処の仕方を教育することだと思います。カナダでは、数年前から小学5年生にてんかんの授業を行い、発作で倒れた人の介助法を教えています。日本でも同じようなことができれば、若い人から少しずつ変わっていくのではないでしょうか。