松江市立病院 紀川 純三 病院長
― 松江市立病院について。
当院の特徴として第一にあげられるのは、日本屈指の緩和ケア病棟を有するということです。さらに、島根県では唯一、全国でも数少ない緩和ケア専門医を中心に、緩和ケアチームが活動しています。そのほか、3名の放射線治療専門医が在籍し、IMRTも装備しています。
また、市内の医療機関と連携し、婦人科のがん検診の判定を5月から行ないます。婦人科に細胞診専門医が4名も勤務しているからこそ可能なことでしょう。
島根県は、いわゆる「医療過疎地」ですが、幸い当院の医師数は比較的充足しており、余裕のある診療体制が整っています。
これからは、総合病院であっても機能分化が必要になります。かつては、弱い部分を強化して、すべての科を平均化していました。今後は得意部分を強化し、独自の強みを持つことが必要になってくると考えています。
2017年3月にオープン予定のがんセンター内には、がんのリハビリやフィットネスクラブの設置を予定しています。たとえば乳がんの患者さんはフィットネスを行なう事で生活の質が向上すると言われています。
緩和ケアもリハビリ・フィットネスも採算面ではマイナスかもしれませんが、市民のニーズがあります。それを引き受けるのが、公立病院である当院の役目です。
松江市は高齢者が非常に多い地域です。たとえば、80歳をすぎた患者さんに手術を勧めるよりも、放射線治療や緩和ケアを行なうなど、患者さんにあった治療を選択できるのも我々の強みですね。
― 医師確保について。
医師にとって魅力ある環境が整っていることで多くの医師に来ていただけます。
医師不足が叫ばれて久しい昨今、当院が医師に選ばれているのは、最新医療機器が整備されていることと無縁ではないでしょう。3テスラMRIがあるのは、この地域で当院だけであり、IMRTが実稼働しているのもこの地域では当院のみです。最新のPET―CTも導入予定です。
最新の機械があると病院の魅力が高まります。結局、医師を確保するために必要なことは先行投資ができるかということでしょう。いくら待遇だけを良くしても、職場環境に魅力がなければ、高い志を持つ医師は集まりません。
― 知床の診療所へ看護師を派遣しています。
昨年秋、当院の看護局長が、自治体病院の研修会で「らうす診療所」の師長と知り合いました。それがきっかけで、今月から知床にある、らうす国保診療所に看護師を派遣しています。
当院にとっては、へき地医療の現状を学ぶことで人材育成につながりますし、相手方も診療所の看護師不足を補うことができる。双方にとって有意義な取り組みになることでしょう。
― 専門の産婦人科について。
りたいと思っていましたが、迷った末に医学部に入学しました。
最初に勤務した聖隷浜松病院の先生の影響で婦人科がんに興味を持ちました。4年ほど勤めた後、研究のためにアメリカへ留学、帰国後、手術手技の勉強のため、今度はイタリアへ渡りました。
その後、遺伝子治療の勉強で、再度アメリカへ。若いころの海外での経験は私の血肉となっています。
昨年は、日本婦人科分子標的研究会の会長を務めました。今年、6月12〜14日に開催される日本臨床細胞学会総会の会長も務めます。来年は日本婦人科腫瘍学会を担当する予定です。
― 病院の今後の展望は。
がん診療を中心において、必要な人材、優秀な人材を確保していきます。人材は医師だけとは限りません。メディカル・スタッフや事務職など、病院に関わるすべての職種が対象です。
当院を、全国どこの病院にも負けない病院にしたい。そのために、これまで以上に質の高い医療を提供し、魅力ある病院にしていきます。