充実のセンターから地域のコンダクターへ
1977年鳥取大学医学部卒業。聖隷浜松病院産婦人科医師、米テキサス大学MDアンダーソンがんセンターリサーチフェロー、鳥取大学医学部がんセンター教授を経て、2013年から現職。
松江医療圏の高度急性期および急性期病院として、中核的な役割を果たしている松江市立病院。特にがん治療においては2017年春に「がんセンター」を開設したことで、ハードとソフトの両面で充実度が飛躍的に増している。
―がんセンターの特徴は。
現在、日本人の2人に1人が「がん」になる時代になっており、社会の関心も以前にも増して高くなっています。がん対策基本法も改正され、放射線治療や緩和医療を推進するようになるなど、がん治療の環境は変化し続けています。
がんセンターを開設するにあたり、私がこれまでに培ってきた経験に加えて、新しい知見も生かしたいと考えました。日本はがん治療というと手術をイメージしますし、実際に手術数が多い傾向にありますが、欧米では6割が放射線治療だと言われています。
当がんセンターの大きな特徴は、その放射線治療に力を入れていることです。最先端の機器を整備し、専門スタッフもそろえています。また、外来の化学療法を推進しています。そのために個室を含めた十分なスペースを確保しました。
患者さんのQOL(生活の質)やADL(日常生活動作)向上を最重要事項に据えていることも、特徴だと言えるでしょう。口腔ケアやスキンケア、リンパ浮腫などの専門外来を用意し、専門スタッフを配置しています。
少し前から、がん治療に運動を取り入れるメリットが語られるようになってきました。そこで、がん患者専門のフィットネスルームを設置しました。機材を置くだけでなく、専門の指導員が個別のプログラムで指導することで、患者さんのQOLを高めることに努めています。
―スタッフの声は。
「建物が新しいだけでなく清潔感がある」「工夫された動線で使いやすい」という声をよく耳にします。「患者さんだけでなく、付き添いの家族の方も、居心地よさそうに過ごされていますよ」と聞いたときにはうれしかったですね。
設備を最新鋭のものにすること自体は、そこまで難しいことではありません。ただ、その設備を自在に扱える質の高いスタッフを確保するのは大変なことです。だからこそ、スタッフには、できるだけ良い環境を整えたいと思うのです。
がん化学療法の進歩に伴い、医療者が扱う抗がん剤の数や種類も増加しています。抗がん剤は治療に必要で、適切な使用によって効果が期待できる反面、医療者の健康に影響を及ぼすものもある。それが、今、取りざたされている「抗がん剤ばく露」の問題です。
私たちは、中四国で初めて「抗がん剤調製ロボット」を導入しました。今は、全体の4割程度の抗がん剤の調製をロボットに任せています。薬剤師の健康への悪影響を避けるだけでなく、作業負担の軽減にも大きく貢献しています。
―今後、目指しているのは。
がん相談支援センターにはがん専門相談員、栄養相談室には管理栄養士といった具合に、適材適所を心がけて人材を置いていますが、遺伝子検査などを行うラボのバイオバンクにおけるカウンセラーは、養成中です。島根県では初の試みではないでしょうか。
ハードを整備・更新しながら、専門知識を持った人材もしっかりと育成していく。これは車の両輪のようなものですね。
調剤ロボットやサイバーナイフ、トゥルー・ビームなどの最先端の機材は、近隣で当院にしかありません。長年、がん治療に取り組んできた私から見ても、当センターには治療に必要なあらゆるものがそろってきました。
がんセンター開設からまもなく3年。基盤は、整いました。あとは、私たちがコンダクターになって、地域の方々とどう連携し、どう運営して、地域の健康をどう守っていくのか。そこが焦点になると思います。
松江市立病院
松江市乃白町32-1
TEL:0852-60-8000(代表)
http://www.matsue-cityhospital.jp/