公立病院だからできる治療で市民に還元を
約70年の伝統を持つ松江市立病院。2005年に現在地に移転。乃白町の保健・医療・福祉ゾーンの中心となる施設として地域に貢献してきた。
3月下旬に、がんの最新治療を提供するがんセンターを開設。紀川純三病院長にセンターの狙いなどを聞いた。
―3月下旬にがんセンターを開設しました。
がんセンターは本院に隣接。地下1階、地上3階建てで延床面積は約5000㎡。放射線治療室、外来化学療法室、専門外来などがあり、2階が本院とつながっています。屋上には新たにヘリポートも設置しました。
現在、2人に1人ががんになる時代と言われています。島根県でも、最新のがん治療が受けられるようなセンターが必要だと考え、3年前から開設準備を進めてきました。
内装には木をふんだんに使い、自然光も取り入れるような採光に気を配りました。病院らしくない柔らかな雰囲気で、気軽に来ることができるような建物づくりを目指しました。さっそく開業医の方や、患者さんから、ここで治療を受けられないか、といった問い合わせも来ています。
放射線治療機器なども最新のものをそろえています。ただ、一部の機器などは準備中で、本格的な運用は4月からです。
―狙いは。
島根県は高齢化率が31.8%(2014年)と、全国平均の26.7%を大きく上回っています。がんの患者さんも高齢者が多く、年齢の若い50〜60代のがん患者さんとは、状況が少し違い、合併症が多いという特徴があります。
高血圧、循環器疾患、糖尿病を抱えている方などが多く、がんの専門医だけで対応するのは大変難しいのが実情です。
当院のような複数の診療科が横断的に患者さんを診ることができる総合病院の中に、がんセンターをつくるのは、自然な流れで、効率的な治療が期待できます。
今回特に力を入れたのが、化学療法や、放射線治療を充実させるための設備です。高齢者の場合、外科的手術は、体力的に負担が大きいものです。機能温存を中心に考えなければならないケースも出てきます。
放射線治療は機能を温存しつつ、侵襲性を低くするので、手術と比べると高齢者に優しい治療だと考えられます。
―放射線治療機器の具体的な特徴などを。
山陰地方初となる定位放射線治療装置「サイバーナイフ」を導入しました。同装置はがんに対して、多方向からピンポイントで照射ができます。身体位置の補正をしながら治療しますので、無理な体位をとることなく、精密な治療が可能です。
最新の放射線治療装置「トゥルー・ビーム」の導入も山陰地方初です。従来の放射線治療装置と違い、正常な組織を守りながら治療効果を上げられるのが特徴です。
これらの放射線機器を扱う放射線治療専門医は全国的にも数が少なく1000人程度しかいませんが、当院には、3人の専門医がいます。あわせて、医学物理士、放射線治療専門技師、がん放射線治療の認定看護師などの専門家がいることも当センターの強みです。
―他に注力した点は。
がん治療の考え方は、大きく変わりつつあり、よりQOLを重視した方法になっています。緩和ケア、リンパ浮腫、口腔ケア、スキンケアの四つの専門外来を設け、患者さんへのきめ細かなケアにあたることにしました。
がんの治療でも重要なケアの部門は、病院にとっては採算をとりにくい面もあります。しかし例えば、口腔ケアによって、患者さんの食欲が増すと、結果的に大きな効果が上がります。
採算だけを追求することなく、公立病院だからこそできる治療をと考え、力を入れています。
がんセンターにはフィットネスルームも設けました。乳がん、前立腺がんなどは、治療後に、積極的に運動をした方が、予後が良いというエビデンスもあります。同ルームには健康運動指導士の資格を持つ理学療法士がいて、指導に当たります。
外来化学療法室は、部屋が仕切られ、プライバシーを大事にした造りです。高齢者、そして働き盛りの若い世代にとっても、精神的な負担がなく治療が受けられる環境を提供したいと考えています。
抗がん剤が薬剤師に与える影響も問題としてあります。そこで9月には調剤ロボットを導入します。「今、本当に求められているがん治療は何か」を具体化し、患者さんに還元したいと思います。
松江市立病院
松江市乃白町32-1
TEL:0852-60-8000(代表)
http://www.matsue-cityhospital.jp/