笑いのむこうに見えるもの

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一般財団法人 新居浜精神衛生研究所 附属 豊岡台病院 枝廣 篤昌 病院長

えだひろ・あつまさ 神奈川県立厚木高校卒 1989 愛媛大学医学部医学科卒 1989 愛媛大学附属病院精神科神経科研修医 1991 医療法人誓生会山内病院入職 1993 愛媛大学附属病院精神科神経科助手 1994 財団新居浜病院入職 2006 同副院長 2010 豊岡台病院院長

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「感謝」と書かれた掛け軸の前で。社会人落語日本一(2010年)を受賞した際に、娘さんの書道の先生から寄贈された。

【病院の特徴】

 元々は新居浜にある財団新居浜病院の、精神科の分院として開設した病院です。

 移転に際しては地域の方々と話し合う場を設け、その中で高齢化医療へのニーズがあることがわかりました。それで整形外科や眼科など、地域の住民が通える病院にしてほしいという希望に沿った形で、リハビリや内科を含めた利用しやすい病院になりました。カバーしているのは主に、合併して四国中央市になった宇摩地域です。

 ここには112床の精神科病床があります。四国は全国の中でも総病床数が多いほうで、精神科の病院としては本院が400くらいあります。でも特に多いほうではないですね。

 私は神奈川の出身ですが広島で生まれ、親も広島なので瀬戸内海に戻ってきた感じです。

 精神科を選んだのは、心と身体のつながりに興味があったからで、人間の身体が精神・心の影響を受けるのはとても面白と思いまです。愛媛大学時代に落語研究会にいたのも人間に興味があったからじゃないでしょうか。

【笑いヨガについて】

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「落語とジャズの夕べ」での枝廣院長。

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落語家としての芸名「芸乃虎や志」。

 私は現在、日本笑い学会四国支部の支部長です。

 笑いのエクササイズと呼吸法をミックスさせたのが笑いヨガで、わかりやすく説明すると、たとえ作り笑いだとしても本当に笑ったのと同じような効果が得られる一つの方法論といえるでしょう。病院を中心に地域で落語会を企画したり、笑いと健康に関する講演会を開催して、地元のケーブルテレビで放されたりすることもあります。

【笑いヨガの手法】

 患者さんが笑いやすくするために手拍子でリズムをとることから始めます。笑う準備をすることで、横隔膜を上下動させて「笑いの筋肉」が動き、笑いやすい状態になります。そこから先は理屈で説明するよりも、右脳を使って集団で動くことで、目を合わせて笑いあったりするんです。

 人間は他者の笑顔を見ることで、その人のやることを真似しようとするミラーニューロンのようなものが備わっています。赤ちゃんが親の言葉や表情をそのまま真似しようとするように、「真似る技術」が本能的に備わっているんですね。だから、他者が笑うことで自分も笑いやすい状態になり、笑いが伝染してしまうような現象が起きるんです。

 笑いヨガを実施するに当たっては、笑いヨガ(ラフターヨガ)リーダー養成講座でリーダー認定を受けたうえで行うとよいでしょう。

【笑いを治療に】

 2010年の秋に看護師が笑いヨガについて研究し、当院で発表しました。定期的に笑いヨガを実施したら患者さんがどう変化するかを見てみたいということで、そのとき私が条件につけたのは、「やるのならずっと続けてほしい」ということでした。それ以降、現在でも続いています。臨床心理士や看護師を中心に昼休みのラジオ体操のあとに土日以外は毎日やっています。笑うことで自律神経のバランスが整い、便秘が解消したり、よりぐっすり眠れる患者さんが増えたりしました。

【家族会で落語を披露】

 新居浜で、精神保健の啓蒙活動の一環としてチャリティー寄席「落語&ジャズの夕べ」を開催したら結構たくさん来ていただいたんです。そのうわさをきいた家族会からも「聞いてみたい」という要望があり、落語会を開きました。家族会の皆さんは日ごろ悶々と悩んでいることが多く、笑うことも不謹慎という先入観があるため、「久しぶりに笑った」、「前向きになれた」という声をいただきました。

【地域に笑いを届ける】

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気候の穏やかな海辺に建つ、一般財団法人新居浜精神衛生研究所豊岡台病院。許可病床数、療養病床82 床、精神病床112 床。

えるにはどうしたらよいか、すぐに答えが出る問題ではありませんが、悩むよりも、笑いが前に進んでいくきっかけになるようです。

 それを聞きつけた保健師さんが面白がって開いたのが落語とストレス発散の講演会です。最近はいろんなところから声がかかって、年に20回〜30回は講演しているでしょう。認知症を支える会やうつの患者会、難治性の疾患の患者会などによばれたり、職場のストレスが問題になっているので管理職を前に講演するようにもなりました。

 落語の世界にはいろんな人間が出てきます。偉いやつだけじゃない、個性豊かな人間が落語の国ではいきいきと生きている。真正面から生きるだけではなく、つらい状況を笑いとばして目線を変えるために落語や川柳などにたしなみ、ユーモアを身につけるとストレス耐性が強くなると思います。

【体操としての笑い】

 当院にはうつ病や認知症の入院患者もいます。もの忘れが激しかったりして、ユーモアや落語を理解するのが難しいのですが、笑いは体操だというスタンスで笑いを再現すると、納得して笑ってくれるようになります。

 笑いヨガは障害のある方でも参加できるのが大きいと思います。笑っている時間を1日に10分でも共有できると、認知症患者さんは感情を覚えているんですね。この人たちと笑いを共有したということを覚えていることで、入院生活が格段に充実したものになると思います。

【経験の不足とうつ病】

 うつ病でいうと、昔は職場に無理に適応しようとして調子を崩した人が多かったんです。能力がある人が、それ以上にやろうとすることがうつの原因になりました。

 最近は、会社が期待している生活技能を十分に獲得できずに社会に出たためにうまくいかず、うつ病になることが多くなりました。休養したらうつ症状は改善するのですが、技能が追いついていないため復帰すると症状再燃する。

 そういった現代のうつ病の背景にあるものとして、情報が手に入りやすくなったことがあると思います。インターネットなどでノウハウがすぐ手に入るので、他者と関わって知識を習得するという経験が不足するんです。やりにくい人や怖い上司と関わって、情報を入手しながらうまくやっていく能力が落ちています。

 経験を積む場が少なくなって、自己完結で進んでいくことが多いのが現代です。社会が成長していた時代は企業にも余裕があり、みんな正社員になって冗談を言い合える余裕や新入社員を育てる時間がありました。

【安心して住める町に】

 院長になって、当院の理念として行動指針に加えたのは、「当院に来られた患者さんはもとより、ご家族や関係者や働く人が病院に関わることで、素敵な笑顔を持って帰ってもらう」ということでした。

 精神科医として統合失調症やうつ病を診てきましたが、認知症やその家族を支えることも増えています。地域は高齢化が進んでおり、歳をとっても安心して住める町になれるようにフォローしていきたいです。


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