佐世保市立総合病院院長 長崎大学名誉教授 江口勝美
Profile
1970 長崎大学医学部卒業
1973 東京大学医学研究所研究生
1982~84 Harvard Medical School 留学
1993~97 長崎大学医学部
内科学第一講座助教授
1997~2005 同教授
2005~2009 同大学病院病院長
2010 佐世保市立総合病院院長
佐世保市病院事業管理者
「学会の準備で忙しくて、ついさっきこれが届いたところですよ」と、抄録集を手に入室してきた江口勝美院長。「患者は、医師にとってかけがえのない医学研究の師である」を信念として、蘭学発祥の地から世界を目指し、永らくリウマチ・膠原病の研究に従事した後、佐世保市立総合病院の院長に就任して3年目を迎えた。「新たに設置した救命救急センターを以て患者に高度な医療を提供し、救命率を上げることが責務」と語る江口院長の想いとは。
―佐世保市立総合病院の特長を教えてください―
佐世保と県北エリアを医療圏に、およそ34万人の健康を支える中核病院です。少子高齢化が進み、65歳以上が25%を占めるという状況で、県北の松浦、西海地域で医師の不足が顕著です。また、原因は不明ですが、特に県北は健康寿命が短くなっており、高血圧による心疾患、脳血管疾患も多い。入院患者の35%ががん患者で、大腸がんの手術件数は九州で最も多いです。
このような現状で、地域医療支援病院として、今年の7月からあじさいネットによる地域医療連携を情報化し、かかりつけ医の診療所や病院からカルテの利用ができるようにしています。がん患者が多いことから、地域がん診療連携拠点病院としての機能も果たさねばなりません。
当院の使命は「安全・安心かつ高度先進医療の提供」と「地域医療の質の向上への貢献」です。地域全体の医療の底上げをし、医療人の不足解消のために「優れた医療人の育成、最高の人材が広く集まる病院」となって、「経営基盤の安定した病院」とすることです。
経営的には平成18年から黒字を続けていて、全国自治体病院開設者協議会と公益社団法人全国自治体病院協議会の両会長から、平成24年度の自治体立優良病院の会長表彰を受けました。
地域完結型の救急医療のために脳卒中、急性心筋梗塞、重篤な救急患者や重症外傷患者に対して24時間365日救急医療を提供する第3次救急医療機関として、今年の4月1日に救命救急センターを開設し、初期・二次救急医療機関および救急搬送機関からの救急患者を受け入れるため、救急専任医師を配置し、救急病床としてICU、HCUを設置しましたが、建物も建築から22年経っているし手狭なので、平成26年春に、長崎県では3番目の救命救急センターが竣工の予定です=イメージ画像。
救命救急センターの開設は、救命救急はもとより、医療レベルそのものを向上させ、研修医らの救命救急に対する知識を高めて、人材を育成することにもあります。当院の病床数は594床と、数多くの症例に恵まれており、診療科の壁もないため、若い医師や研修医には環境が整っていると言えます。研修医、看護師、薬剤師、放射線技師や事務職員にいたるまで、すべての職員教育は永く医学部教授を務めてきた私の強みであり、役割であると考えています。
写真上=今年の秋に着工し、平成26年3月に竣工予定の新救命救急センター。同年春からの本格的稼働を見込んでいる。写真下=10月12、13日に佐世保市で開催された第14回日本医療マネジメント学会学術総会の大会ポスター。江口院長が大会長を務めた。
― 10月の日本医療マネジメント学会で会長を務められるとのことですが―
本学会は医師だけでなく、看護師やコメディカル、事務職が集まって、地域医療をどうするのかをディスカッションし、クリティカルパスを中心に、医療安全、医療連携、医療の質の向上など幅広い分野で情報発信を行なうものです。本来は岩手県の盛岡市で開催予定でしたが、震災の影響で佐世保市で開催されることになりました。
地域医療の抱える諸問題、震災によってあらわになった災害医療への対応、医療人不足の解消と育成などが問題となっています。今後高騰するであろう医療・介護・年金をまかなうため、社会保障と税の一体改革が行われようとしています。これらの医療の抱える多くの問題を踏まえて、学会のメインテーマは「地域医療の復興と絆=チーム医療と地域連携をさらに進めるヒューマンネットワーク作りを目指して=」としました。市民公開講座ではジャパネットたかたの高田明社長に講演をお願いし、多くの市民の参加を期待しています。
―なぜ医師になられたのですか―
父親が患っていたことが大きな動機かもしれません。大学3年の時に亡くなりましたが、父も私が地元で開業すると思って準備をしてくれていたようです。教授に就任した際に頭に浮かんだ言葉は、人間万事塞翁が馬、災い転じて福と成すというものでした。もしも父が存命であれば、地元に帰っていたかもしれませんから、人生どうなるのか本当にわからないなとしみじみ感じました。どんなにつらい時があっても、必ず良い時が来ると信じて、精神が落ち込まないように心がけることが大切です。
―趣味は何でしょう―
昔は山登りが好きでしたが、今は片道40分ぐらいかけて歩いて通勤しています。あとは歴史ですね。県北の歴史も好きで、この病院の歴史も調べました。家族性地中海熱という病気があるのですが、ここらの住民に患者が多い理由を歴史の観点から研究しています。もともとユダヤの人たちの病気なので、シルクロードを伝わって日本に来たはずですが、それだけでは説明できず、徐福伝説や元寇、倭冦なども絡まってくることを調べています。
―若い医師に伝えたい言葉があるとすれば―
「因果倶時」という釈迦の言葉があります。現在の自分はこれまでの積み重ねの中にあり、将来の自分は現在の積み重ねの中にある、つまり原因と結果は必ず一致するのです。一日一つ、必ず何かを終わらせて帰ることが達成感や充実感を与え、明日へのエネルギーとなります。自分を信じて夢に向かってほしいですね。