「健やかに老いるために」佐世保市の"わかばテラス"で開催
10月24日、「第135回患者塾」(主宰=小野村健太郎先生)が新設されたばかりの有料老人ホーム「わかばテラス」(長崎県佐世保市)で開かれた。患者塾は毎日新聞福岡版などに連載中の医療講座で「患者の疑問にやさしく答える」のがモットー。今回は「健やかに老いるために」をテーマに、わかば会の浜野裕理事長ら4名の医師が患者サイドからのさまざまな質問に答えた。その一部を紹介する。
患者家族を悩ます「胃ろう」
◇胃ろう
―― 85歳の父が胃ろうを作りました。「これで栄養問題は解決です」と担当の若い医師は言うのですが、私は納得がいきません。無理やり生かされているような気がしてなりません。(福岡市・55歳女性)
・伊藤 胃ろうはごく一般的な処置です。85歳という年齢で3~4日点滴もせず、胃ろうからも栄養も入れないとなると、脱水症状を起こします。また、口から食べ物を摂取しようとしても嚥下障害や脳の疾患で飲み込むことができない場合、食べ物が肺に入り肺炎を起こす危険性があります。私は十分に栄養を取れていない時には患者さんに胃ろうについて説明しています。
・浜野 年間数十例の胃ろうを処置していますが、私自身の経験も踏まえてお答えします。私の両親は2人とも、胃ろうをしました。姉は胃に穴をあけることへの抵抗感が強く、納得しませんでしたが、両親の気持ちに沿った正しい選択だったと思っています。反対していた姉も最後は納得してくれました。というのも、胃ろうで栄養を摂取したことで一時的とはいえ、元気になったからです。
・小川敏之 毎日新聞佐世保支局長 私の父も胃ろうをしましたが、結果論で言うとやらなければ良かったと悔やんでいます。87歳だった父は亡くなる2、3カ月前に食欲がなくなって肺炎になりました。少し症状が治まった時に医師から胃ろうについて説明されました。口から食事が取れなくなっていたので「仕方がない」と思ったのです。胃ろうの処置時の父の苦しみ様が尋常でなく、胃ろうとの因果関係はさだかではありませんが、その後肺炎が悪化しました。長く苦しませてしまったのではというのが後悔の一つです。
・浜野 私は胃ろうをした場合としなかった場合、どのような経過が予測されるのかを患者さんに説明しデメリットも明らかにしています。先ほど申し上げた自分の経験も踏まえて話をしますが、本当にケースバイケースだと思います。
たばこは毒ガス工場受動喫煙は深刻な問題
◇たばこと健康
―― たばこを1日60本吸っていました。肺年齢が100歳で肺気腫と言われました。今のところ、肺がんの可能性は低いけれど、近い将来に在宅酸素が必要になると主治医から何度も言われて禁煙しました。禁煙には成功しましたが、同じものを食べて同じように運動しているのに5キロ太って脂肪肝と言われ、コレステロールの値も高くなった私の場合、禁煙をしない方が良かったのでしょうか。(熊本市・71歳男性)
・浜野 喫煙者が心筋こうそくになるケースを数多く見ています。たばこは吸わないにこしたことはありません。このケースでは、既に肺気腫になっています。肺気腫は元には戻りません。体重が増えて脂肪肝になってしまったということですが、これは元に戻ります。ですから肺気腫と脂肪肝とどちらを取るかと言われれば答えは明白です。私はたばこをやめるよう指導します。
・津田 私は喫煙者ですが喫煙が良くないことは承知しています。私の住む福岡県水巻町の町長が55歳の若さで亡くなられました。死因は肺がんでした。
・小野村 芸能レポーターの梨本勝さんが肺がんでなくなられましたが非喫煙者でした。受動喫煙の問題について教えてください。
・浜野 タバコの問題では主流煙(タバコを直接吸う人に入る煙)より副流煙の方に有害物質がより多く含まれています。窒素化合物が3.6倍、一酸化炭素(CO)が4.7倍です。また、体内に入った一酸化炭素(CO)は活性酸素を大量に発生させさまざまな疾病の原因となります。
◇悪玉コレステロール
―― 悪玉コレステロール(LDL)が高いと言われ、肉を控えたらLDLは下がりましたが、主治医からはたんぱく質の「アルブミン」が低くなったと注意されました。コレステロールが高いからといって肉を控えるのは良くないのですか(北九州市・74歳男性)
・浜野 70歳を超えるとダイエットよりタンパク質をしっかり取ってアルブミン値が下がらないよう意識した方が良いというデータがあります。コレステロールの80%は肝臓で作られ、食物から入ってくるのは残り20%です。ですから、コレステロール値が高い時に肉を控えると必要な栄養分が入っていかずに老化が進むというデメリットがあります。LDLが高くなると動脈硬化が起き心筋こうそくが起こりやすくなりますが、喫煙習慣や高血圧など悪い要因を他に持っている人は下げなければいけませんが、他に悪い要因を持っていない人はLDLが高くても下げる必要はありませんし、どういう下げ方をするのかということも大事です。どうぞ、主治医に納得できるまで聞いてください。