長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 展開医療科学講座(第一内科) 教授 川上 純
―広瀬淡窓の名言「鋭きも鈍きも共に捨て難し。錐と鎚とに使いわけなば」の書があります。
先代の江口勝美先生が、平成9年に教授に就任された時に、第一内科の同門会常任幹事の小路先生が江口先生に贈った言葉です。先生もたいへんこの言葉を気に入って、私が4年前、教授に就任した際、書道が得意な江口先生直筆のこの書を贈っていただきました。
―医局の特色は。
臨床、研究とみなさん希望が多様です。若い人から上の人の意見まで柔軟に吸収し、できるだけ希望に沿って運営をすることが、私たちの方針です。留学したいという意見があれば、快く送り出すようにしています。
―留学で得られるものは。
近年、日本人の留学者数は減っていて、内向き志向になっています。要因として日本の医学研究、技術が進歩したことが挙げられるでしょう。ハード面だけを見ると世界と遜色のないレベルなので、あえて留学をするメリットはないかもしれません。
しかし海外に出るとグローバルな考え方が身に付きます。
日本の常識と海外の常識は違います。海外の常識のすべてが正しいとは限りませんが、国際化の方向性は正しいと思っています。そのためには海外で生活しないと分からないことがあります。私はアメリカに2年7ケ月ほどいましたが、日本人の考え方とは明らかに違います。結果を求められ、それに応えなければなりません。結果がすべての世界です。
アメリカ人はプレゼンテーション能力が高いです。幼いころからディベートをして育ち、言いたいことをコンパクトに伝える能力があります。まず結論を言い、その後に理由を述べます。
日本人は先に理由を述べ、最後に結論を言うので、何を言っているのか分からないことが多々あります。それがプレゼンテーション能力の差だと思います。
日本で臨床医が研究に専念するのはむつかしいですが、海外では研究だけに専念できる環境が手に入ります。医学界の著名人はまだまだ外国人が多いです。日本人が留学する時は有名な施設が多いので医学界におけるメジャーな人と知り合えます。メールでの人間関係に比べ、直接会って顔を見て話した人間関係は、100倍、1千倍太いものになります。世界の公用語としての英語も生活の中で使用することで上達します。数値で示すことができない経験を得られるのが留学の最大のメリットだと思います。
―今後力を入れる取り組みは。
私たち第一内科は、リウマチ・膠原病内科、神経内科、内分泌・代謝内科を診ていますが、近年、女性医師の割合が増加しています。長崎大学は女性の労働環境の整備に関して、先進的な取り組みを行なっていますが、これまで以上に女性が働きやすい環境を整備していきたいと思っています。
日本社会は女性が子育てをするものだとの考え方があるので、医局からも積極的にサポートをしてあげることが重要だと考えています。安心して働ける環境があれば、能力をより発揮することができ、結果的に臨床・研究の成果も伸びると考えています。
ワークライフバランスは人によって異なるので、それぞれに合うように留意していかなければなりません。
―3月に九州リウマチ学会の会長を務めますね。
日本リウマチ学会の九州・沖縄支部集会ですが、全国的にみても演題も参加者も多い活発な学会です。教授になって初めて主催するので、会を盛り上げていきたいと思っております。
―昨年発売された関節リウマチ治療薬のJAK阻害剤
リウマチ治療薬のスタンダードは現在、メトトレキサートと生物学的製剤ですが、JAK阻害剤トファシチニブは、関節リウマチの低分子化合物の抗リウマチ薬として、初めて世に出た治療薬です。しかしながら価格は高く、また私も含め、みなさんは有害事象に留意しながら慎重に処方しており症例の伸びは緩やかです。
治験の結果では、生物学的製剤と効果に遜色ないと示されていますが、治験と実地臨床は患者さんの背景も違うので、後3年ほど経たないと、詳細は分からないと思いますが、大変期待しております。
―医学部校是のポンぺの言葉(※)について。
医療も高度化し、医師と患者の関係も多様化したので、すべて校是の通りにはいかないかもしれませんが、損得を抜きにして患者さんの声にしっかり耳を傾け、ピュアな気持ちで診療するという意味で正しいと思います。ポンぺの言葉は、医師としての哲学であり、根幹をなすものだと思います。医師を目指す人には、彼の言葉を胸に刻んでがんばってほしいと思います。
※ポンぺの言葉「医師は自らの天職をよく承知していなければならぬ。ひとたびこの職務を選んだ以上、もはや医師は自分自身のものではなく病める人のものである。もしそれを好まぬなら他の職業を選ぶがよい」