正しいと考える治療を正しい時に行える環境に
埼玉県へのドクターヘリの導入に尽力し、救急功労者として国や県に表彰されるなど、長年にわたり救急医療に貢献してきた埼玉医科大学総合医療センターの堤晴彦病院長。トップの立場となって6年。理想の医療への取り組みはー。
―貴院の救命救急センターの運営に20年以上携わってきました。
埼玉県の人口10万人当たりの医師数(2017年12月厚生労働省発表)は160・1人で全国最下位です。さらに看護師数、病床数も同じく最下位と、厳しい医療供給体制が続いているのが特徴です。私が当院の救命救急センターに着任したのが1995年。当時から現在まで、状況に大きな変化はありません。
救命救急センターは1987年に開設しました。当初、1次、2次の救急患者数は夜間、休日も含めて年間約1万人と、決して多くはありませんでした。そこで私は病院長に相談し、「病院全体の取り組みとして断らない救急医療を目指していく」という方向性を打ち出してもらいました。
病床稼働率に伸び悩んでいたこともあり、救急医療に力を入れることで当院の資源を最大限に活用したいと考えたのです。また、それは病院の運営面にとっても、基盤づくりにつながるはずだと思いました。
夜間の体制をより組織化し、スムーズな受け入れ判断を可能にするために一定の権限を付与する「夜間院長制度」などもスタートさせました。
その結果、当院が「断らない救急」を掲げて数カ月がたつ頃には患者数が増加傾向となりました。1次、2次の救急患者数は、2004年には、およそ4万6千人でした。「断らない医療機関」として、着実に救急隊の信頼を得ることができたと思います。
―ドクターヘリの導入については。
私が医師になりたての1970年代、救急医療は内科医、外科医が「個々の日常診療の合間に行うもの」というのが一般的なイメージでした。
しかし、先輩から「これからの時代はもっと組織化した救急医療が必要になるだろう」との言葉を聞いた私は、すでに先行しているという医療機関の取り組みを学ぶために、半ば「押しかける」ように大阪の病院へと移りました。
そうして経験を積み重ねたのち、母校である東京大学医学部附属病院をはじめ、公立病院の救命救急センターや救急部門の立ち上げに関わりました。
その後、当院の一員となったわけですが、「医療過疎」に直面している埼玉県で高度な救急医療を確立するには、「医療機関や人材を補わなければならない」という従来の発想から脱却する必要がありました。
ドイツには「すべての国民は15分以内に医療を受ける権利がある」という、いわゆる「15分ルール」があります。医師が迅速に派遣されるシステムが根付いているのです。
埼玉県でもドクターヘリであれば、15分程度で全域に到達できるだろうー。1997年、当院、市や県の連携により、秩父地区で防災ヘリを活用した患者の搬送が始まりました。この事業を原型に2007年、専用の医療機器などを搭載したドクターヘリの運用が本格的にスタート。当院が基地病院となり、今年2月末時点で通算3372回の出動実績があります。
―病院長としての思いを。
救急分野を中心に新しい取り組みに挑み続けてきました。そこには「患者にとって何が正しいのか」という思いが常にありました。
医療は理屈だけでは成立しません。ときには意見がぶつかり合い、議論になることもあります。
だからこそ大事にしたいのは現場の意見をしっかりと聞くこと、そして職員を守ることです。「自らが正しいと考える治療を、正しい時に、正しく行う」。一人ひとりが力を尽くせる環境を追い求めます。
埼玉医科大学総合医療センター
埼玉県川越市鴨田1981
TEL:049-228-3411(診療案内)
http://www.kawagoe.saitama-med.ac.jp/