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2019年2月1日、2日、関西医科大学総合医療センター脳神経外科教授の岩瀬正顕氏が会長を務めた「第24回日本脳神経外科救急学会」 (会場:グランキューブ大阪)が開かれた。脳神経外科や救急科などの医師、看護師ら、およそ350人が参加した。
【パネルディスカッション】
「脳死下・心停止下における臓器・組織提供の現状と未来」
意思確認はどう行うべきか
名取 良弘 (飯塚病院脳神経外科部長)
◎脳死下臓器提供の現状と対策
飯塚病院脳神経外科部長の名取良弘氏は、海外で運用されている移植医療のシステムや飯塚病院での取り組みを報告した。
脳死下の臓器移植のプロセスで最も重要なのは、患者や家族の「提供の意思の確認」と言える。
例えばスペインの臓器提供施設は、院内に「移植コーディネーター」を置いている。また、米国では「ОPО」と呼ばれる臓器調達機関がある。こうした専門職が患者の家族に臓器移植に関する情報を提供したり、臓器提供の同意を得たりすることで、移植医療の普及を推進しているという。
日本では主治医が救命困難と判断すると臓器提供の話をするとされてきた。名取氏は「果たして、それまで懸命に治療してきた医師が話すべきことだろうか。ご家族も複雑な思いを抱えてしまうだろう」と疑問を抱く。
改善策として飯塚病院では、福岡県が作成した「意思確認用パンフレット」を活用した。
医師は口頭での説明という重圧が軽減され、さらに一定の成果が現れたという。「パンフレットを渡したのは110例ほどで、そのうち臓器提供の希望は10%ほどに達した。全国平均の3倍程度ではないか」。
名取氏は「終末期の患者の家族に寄り添い、主治医との橋渡しとなる専門職が必要だ」と訴えた。
悲しみを分かち合える空間を
荒木 尚(埼玉医科大学総合医療センター 高度救命救急センター)
◎小児からの臓器提供に必要な体制整備について
2010年7月17日、改正臓器移植法が施行。脳死下での家族の同意による臓器提供や、15歳未満の小児脳死臓器提供などが可能となった。
施行から2015年3月31日までにJOTに届いた「18歳未満」の情報は97例。そのうち、臓器提供に至ったのは14例にとどまった。主な理由は「施設の体制整備がまだできていない」(17.5%)、「家族が提供を望まず」(16.5%)のほか、「虐待の疑いが否定できず」も10.3%と高かった。
小児脳外科医の荒木尚氏は、生後数カ月から十代まで、小児の脳死判定に関わってきた。経験を踏まえ、特に18歳未満のケースでは「状況に応じた家族へのケアが必要」と強調した。
海外にはホテル並みの設備の家族室もあるとした上で、「子どもを失う親には悲しみを分かち合える環境が必要。日本でも海外の感覚を取り入れた温かい空間づくりを進めていくべき」との考えを示した。また、医療者が家族の思い、望みを共有する努力が欠かせないと述べた。
臨床心理士が家族の感情をアセスメントし、親やドナーのことを医師や看護師に伝える。それがより質の高いグリーフケアにつながり、「家族の何かし ら望みをかなえられるのではないか」と語った。
【特別講演】
「救命救急センターの現場から」
渡邊 祐一(東京都立墨東病院高度救命救急センター部長)
救急医療に必要な議論は
1999年に日本エッセイスト・クラブ賞を受賞した「救急医療センターからの手紙」などの著書がある墨東病院の濱邊祐一氏は、「超高齢社会と救急医療」が直面する課題を改めて投げかけた。
高度救命救急センターである墨東病院では、年間2200人〜2300人の救急患者を受け入れている。30年近く前の同院の救急患者は20代と50代が中心だったが、現在は主に70代。90代も珍しくない。
「高齢患者は今後も増え続ける。そうでない患者への対応が追いつくのか。医療の質をどう維持していくべきか。現場では頭を悩ませている」と訴える。
総務省消防庁の調査によると、救急出動のうち、およそ半数は入院を要しない「軽症」と診断されている。「タクシー代わり」の利用が現場を圧迫している構図が浮かび上がる。
また、濱邊氏は、在宅医療を受けている患者など「すでに医療の管理下にある高齢患者の急変も救急患者として扱われることがある」とも指摘。原則として医療の管理下になく、突発不測の状態にある傷病者を救急患者の定義だと述べた。救急医療が持続していくためには。 濱邊氏は「死生観について、みんなで 議論していくことが求められる」と呼びかけた。
次回の学会リポートは「第34回日本環境感染学会総会・学術集会」の様子をお届けします。
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