聴覚異常感に強み 患者目線の医療を提供
聴覚異常感治療を特色とする福岡大学医学部耳鼻咽喉科学教室。坂田俊文教授に、現在の取り組みと今後の展望を聞いた。
―「聴覚異常感外来」が特徴的です。
「聴覚異常感」は耳鳴りや聴覚過敏、自声強聴といった症状を指します。
耳鳴りと聴覚過敏については、耳鳴り再訓練法(TRT療法)などを行います。
実は耳鳴りは人が元来持っているもの。日本の70代の約4割は耳鳴りがありますが、その中で病院を訪れる人は20%にとどまります。つまり、物理的には同音量でも「ひどく大きい」と判断してしまう「認知の歪み」が、耳鳴りを苦痛に感じさせているというわけです。
TRT療法は歪んだ認知を是正し、症状の改善を目指すことが治療の根幹です。普段の生活における音環境を指導し、雑音を発生させるサウンドジェネレーターや補聴器を治療に取り込みながら、耳鳴りと共存できるよう、脳を鍛えていきます。
認知の問題点を是正させるスキルは、耳鳴りにかかわらずいろいろな慢性疾患の症状で悩んでいる方に応用できるため、多くの医師に身につけてほしいですね。
―難聴に関して傾向やトピックは。
難聴には、中耳炎などを原因とした「伝音性難聴」、神経系統の疾患により発生する「感音性難聴」、これら二つを合併した「混合性難聴」があります。老人性難聴は、感音性難聴に含まれます。超高齢社会になり、難聴が増えていくのは必然でしょう。
手術が適応でない難聴患者さんに対しては、補聴器専門外来の出番です。
補聴器には課題も多く、耳鼻科医を介さずに購入することで、治療で治る可能性の高い難聴の方が補聴器をつけ続けたまま過ごしていたり、必要以上に価格の高い補聴器を買ってしまったりする例もあります。
聴覚は脳の音処理が複雑なため、聴力は同じでも、人によって同性能の補聴器では合わないこともあるのですが、今のところ情報を提供できる仕組みがありません。
そこで、聴覚分野を強みとするわれわれが目指しているのが「補聴器のソムリエ」的存在。メーカーごとに異なる性能や特色、価格面などを考慮し、より患者さんにフィットした補聴器をお勧めできる役割を担えればと考えています。
現在「聴覚異常感外来」と「補聴器外来」を同日に設置し、患者さんの症状に合わせて対応しています。
今後はこれをステップアップさせ、聴覚に困難や特性を持った方に、いろいろな情報や治療を提供できる場を充実させていきたいと考えています。
―そのほかの取り組みや研究を教えてください。
研究では、聴力の違いによる人と人との壁、人と社会との壁を克服するため、難聴者に聞き取りやすい音声の共同研究に力を入れています。
また当科は「パパレラ・コレクション」というヒト側頭骨病理標本を所有・管理しており、すべて詳細な病歴まで閲覧可能です。日本の中でもこれだけ数がそろっているのは非常にまれ。今は学生へのレクチャーを中心に活用していますが、病理をひも解く研究材料としての価値も高く、次世代の医師を育てるにあたっても、大いに活用していければと思います。
臨床では手術も積極的に行っています。鼻科手術では「鼻腔形態改善」を重視。手術時に鼻の中の形を整えることで鼻呼吸を維持、鼻づまりを改善させ、病気の再発を予防する手術です。アレルギーの方も多い今、ますます需要が増えていくでしょう。
今後も他病院とも密に連携を取り、本校ならではという強みを生かしながら、患者さんにとって真に価値ある情報発信と治療を行っていきたいと思います。
福岡大学医学部耳鼻咽喉科学
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