「より良い治療」を 手術+αで追い求める
手術と放射線治療、化学 療法などを組み合わせたシームレスな治療を強みとする福岡大学医学部消化器外科学教室。長谷川傑教授の着任からまもなく3年。 長谷川教授、吉田陽一郎准教授を中心に「次世代がん治療研究所」を設立するなど積極的な取り組みが進む。
―3年弱、力を注いできたことは。
長谷川傑教授(以下、教授) 患者さんに良い治療を提供することを第一に考えてきました。
手術で言えば、がんをしっかりと切除した上で、合併症や再発が少なく、なおかつ患者さんに与える負担が少ないのが良い治療。乱暴な言い方かもしれませんが、外科医は治療のためとはいえ、メスで患者さんに傷をつける。できるだけ犠牲を少なく、得られるものを大きくしたいと思っていますし、そのことは教室員にも、常に伝えてきたつもりです。
2018年には、より良い治療を求め、この教室内に「次世代がん治療研究所」を設立しました。私が所長、吉田陽一郎准教授が副所長を務めています。まだまだ研究の段階ですが、がん診療に遺伝子情報を活用する「プレシジョン・メディシン」を一層前に進めていけたらと考えています。
―研究所設置の背景や研究内容を。
吉田陽一郎准教授(同、准教授) 今、再発や転移があるがんの患者さんに対しては化学療法や放射線治療を施していますが、完全にがんが消失する可能性は低い。抗がん剤を投与して最初は効いていても、しばらく続けると効果がなくなってしまう。血液中のがんの遺伝子変異を調べることで、もっと効果的な治療ができるようになればと考えたのが きっかけです。
研究所内には「がんバイオバンク」を立ち上げ、消化器がんの患者さんの治療前、治療中、治療後の血液 サンプルを経時的に採取して保管。すでに1万を超す血液のサンプルが集まっています。
採取した血液の遺伝子変 異を見ていくこの研究の先にあるもの、目指していることは、根本的な治療法の変更です。その結果、効かなくなった治療を続けなくてすむようになるかもしれない。がんの根治ができるかもしれない。そんな希望を抱きながら、日々、向き合っています。
教授 手術以外の治療法、例えば免疫治療や放射線治療の重要性は今後、さらに増していくと思います。胃がんでは免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブが保険収載されていますが、大腸がんはまだ。肝胆膵では集学的治療の件数が増え、術前に化学療法を施した上で、手術に移行するケースも出ています。
准教授 消化器外科では、境目のない医療を目指してい ま す。手術、化学療法、免疫療法、放射線療法、すべてをハイブリッドさせるのが目標の一つです。
―外科医不足の中で、描く未来は。
教授 外科医を目指す人が少なくなっています。臨床研修の必修科目から、外科が外れ、経験する機会が減ったことが一因だと思います。 ただ、2020年度には再び必修科目に戻る予定です。外科の魅力を知る人が増え、外科医が増えて、働く環境も上向く...良い循環になることを期待しています。
これからも新しい技術と機器が次々と開発され、治療法も変わるでしょう。ロボット支援手術にしても、新製品が出てコストも下がり、ますます広がると思います。常にさまざまな治療手段に対応すること、新しい治療を見いだしていくこと。それが、患者さんに良い治療を提供していくことになると思います。
福岡大学医学部 消化器外科学教室
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