疑問の解決に挑み続けるサイエンティストであれ
がん患者のニーズの多様化が進む中、医療者が「チームの一員」として心がけるべきはどのようなことか。大平雅一教授は「疑問に挑み続けること」と言う。
―講座の特徴は。
今年4月、「腫瘍外科学(第1外科)」と「第2外科・心臓血管外科」が統合。連携を深め、より大きな力を生み出すべく「外科学講座」に再編されました。私が教授を務める腫瘍外科学講座は「消化器外科学・肝胆膵外科学・乳腺内分泌外科学」に分かれました。
当講座は1948年、初代・澤田平十郎教授のもと開設されました。私は6代目の教授です。
私たちが対象とする疾患は消化器全般と乳腺、内分泌。悪性腫瘍については国内有数の患者数で、複数の多施設共同研究にも参加しています。
手術件数は年間1100〜1200件です。最近は多くの症例が胸腔鏡や腹腔鏡下に手術が行われるようになり、さらに今春の診療報酬改定で胃がん、食道がん、直腸がんなど保険適用の範囲が広がったロボット支援下手術は、そのウエートがますます大きくなっていくでしょう。
また近年、がんの治療は多様化が進んでいます。患者さんの状況に合わせて手術療法、抗がん剤などの薬物療法、放射線療法を組み合わせることが大切です。
円滑に治療を進めていく上で、診療科間の壁を越えたコミュニケーションは不可欠です。開設以来の当講座の伝統である「和」の精神を発揮して、他科、そして医局員同士の調和がとれるよう心がけています。
―力を入れているのは。
治療方針を決定する上で重要な「キャンサーボード」は、現在は臓器別に実施しています。より最適な治療法を選び取っていくためには、各治療法の有効性や副作用など、あらゆる知識と経験を集めてしっかりと検討する必要があります。
「外科学講座」となったこの機会に、6講座の専門性が強力に連携したキャンサーボードの実施を目指したいと考えています。
近年、がん治療における「栄養療法」への関心が高まっています。栄養状態が悪化すると副作用が出やすくなったり、がんの進行が促進されたりと、さまざまなマイナスの影響が及んでしまうのです。
2005年、私は「栄養サポートチーム(NST)勉強会」開催を経て、当院における多職種の協力による「NST活動」をスタートさせました。当初は消化器外科病棟のみでしたが少しずつ他の病棟にも広がり、病院全体の取り組みとして定着しました。
―若手の医師にどのようなことを期待しますか。
医師である前に、まずは「1人の社会人であってほしい」ということです。
発言したり行動したりするときに、「自分が組織の中の1人」であることをちゃんと意識できているか。診療では、患者さんを「自分の親だと思って」接しているか。私のこれまでの経験を踏まえて、いつも若い医師たちに問いかけていることです。
これからの時代、磨きをかける必要があるスキルとしては「語学力」が挙げられるでしょう。最新の治療を患者さんに届けるためには、国内外の動向を知らなければなりません。加速するグローバル化の波に乗り遅れるわけにはいかないのです。カンファレンスを英語で行うなど、当講座では以前から、グローバル化に対応できる人材育成の取り組みを進めています。
がん治療はさまざまな副作用や疼痛(とうつう)など、身体的・精神的問題を伴うもの。総合的に「ケア」、そして「キュア」できる人材を1人でも多くこの講座で育て、輩出していきたい。
そのためにも常にリサーチマインドを持ち、臨床の場で生まれた疑問を、科学的に解明しようとする姿勢を身につけてほしいと思います。「医師こそサイエンティストであれ」。そう私は思うのです。
大阪市立大学大学院医学研究科 消化器外科学・乳腺内分泌外科学
大阪市阿倍野区旭町1-5-7
TEL:06-6645-2121(代表)
http://www.med.osaka-cu.ac.jp/surgical-oncology/