生活習慣病の増加に伴い、2009年に新設された福岡大学医学部内分泌糖尿病内科。開設以来、教室を運営している初代の柳瀬敏彦教授に、6年間の歩みと現状をたずねた。
◆間口は広く、専門性は深い内科医の育成を
新設で初代教授。真っ白なキャンパスに自分の好きなように描けばいい。当初、何となく「こうしたい」と言っていたことが、振り返ってみるとけっこうちゃんとできているというのが実感です。
例えば就任2年目に作った医局紹介ビデオの中で私は「心血管病、脳血管病、特に合併症を起こす重要な臓器については直に学べる研修システムをつくりたい」と話しています。実際、これまでに福岡徳洲会病院の循環器内科や当院神経内科などで、何人もが一定期間、研修してきています。このように内科全般の研修を意識したプログラムを組めるのが、新設ならではの強みではないでしょうか。
われわれのころは、総合内科の時代でしたから、同じ医局に内科のさまざまな分野の専門家がいて、意識せずとも内科全般を学ぶことができました。今は、そのような機会をあえて作っていく必要があると思いますし、専門医制度もその方向に移り変わってきています。
福岡大学医学部を卒業した人は開業する人が多く、臨床志向が強いのが一つの特徴です。内分泌、糖尿病の専門性の前に、内科医としての基本的な力をつける。間口は広く、専門性は深い、そんな医師を育てていきたいと思っていますし、それを患者さんも望んでいると思います。
◆医局スタッフは5倍に
スペースない、お金ない、人いない、そんな状態からのスタートでした。当初のスタッフは7〜8人でしたね。
今は、現役で動いている人が院内外含めて37人で平均年齢は29歳。女性が6割を占め、産休育休中の人が6人います。
糖尿病を診る医師の需要が高まっていることが一番の理由でしょうが、医局が働きやすいところだということも理解してもらえているのだと思います。
入局の条件は3つしかありません。①思いやり②向上心③ユーモア精神。そういう気持ちを持って、働いてほしいということです。
特に3番目のユーモア精神を持つためには心の余裕が必要ですし、コミュニケーション能力を高めるひとつの要素にもなると思っています。コミュニケーション能力は患者さんと接するときにも重要ですし、医局内で働く上でもやはり必要になります。
入局前には面接をするのですが、中には、このユーモア精神があるかについて悩む人もいて、目の前でうーんと考え込む。その姿がおかしくて、もう合格!と。存在そのものがユーモアであればいいんです。
◆研究も徐々に充実
教授着任後に、私自身が厚生労働省「副腎ホルモン産生異常に関する調査研究班」の主任研究者になりました。全国疫学調査や臨床研究により疾患の診断基準や診療指針、重症度分類を提示していくことが一つの役割で、患者さんが国から難病指定を受ける際の基準となるとても重要な仕事、社会貢献です。教室の先生方と協力して出した臨床研究が役立ち、貢献してもらっています。
再生医療、創薬、「がんと糖尿病」の研究にも取り組んでいます。大学院生も10人になり、一緒にサイエンスができる環境が整ってきました。今の一番の楽しみは、ラボミーティングで若い人の研究の進展を聞くこと。発展していくさまを見られることは、本当に楽しいことです。
今、医学部の教務委員をしています。仕事上、学業不振の学生との面談が多いのですが、同じ学生と何度も面談しているうちに情が移っていきます。
今の学生は、学ぶ知識が膨大で大変だな、気の毒だなと思ったりもしますが、国家試験を通過できず医師になれないことの方がもっと気の毒です。国家試験はただの通過点。通ればきっと温かみのあるいい医師になると感じさせる学生も多く、頑張ってほしいと思っています。
◆全力で今を乗り越える
若い人へのアドバイスは「今を一生懸命に」ということに尽きます。学生時代や卒業直後は、人生経験が乏しすぎて、自分が何者であるのか、何に向いているのか、何が好きなのか、よく分からない。具体的な目標を立てても、あまり意味をなさないと、自分を振り返っても思います。
今を乗り越えない限り先はない。日々、全力を尽くしているうちに長所も短所も目標も見えてきますが、手を抜いていては、絶対にわからないんです。5年、10年たつとアウトラインが見えてきますから、そこからはその道を真剣に歩めばいいと思います。私は研修医が終わり、明確な意思を持って内分泌・代謝の道に進んだわけではないのですが、これまで一生懸命やってきて、非常におもしろかった。選んだ道に悔いなしです。