個性を生かした指導を
三重大学の脳神経外科学講座は1978年に開設。脳や脊髄の血管障害、腫瘍など疾患の予防から診断、治療まで、積極的に取り組んできた。
2012年に就任した同講座の3代目、鈴木秀謙教授に話を聞いた。
◎幅広い医療圏に医師を派遣
三重県には他の都道府県と異なる地理的特徴があります。多くの地方都市は県庁所在地に人口が集中する傾向がありますが、三重県は人口10万人以上の都市が、四日市市、鈴鹿市、松阪市、津市、桑名市、伊勢市と六つもあるのです。
しかも、県内には大学医学部が一つしかありません。
幅広い医療圏に、一定数の教室員を派遣する必要があるのです。
当教室では脳神経外科疾患の中でも特に脊椎・脊髄疾患に対する外科治療や脳血管障害に対する血管内治療に力を入れています。
欧米では、これらの領域はメジャーですが、日本ではまだまだマイナーな領域だと言えます。
しかし当教室では先代の滝和郎教授が、血管内治療のパイオニアだったこともあり、盛んに取り組んでいます。
◎てんかん専門医の育成を
当院にはてんかんの専門医がいません。三重県全体を見渡してみても2人しかいない状況です。
せめて1次、2次医療までは三重県内で完結させなければなりません。その上で3次の患者さんは県外にある、てんかんセンターにお送りできるようにするのが、私たちの責任だと痛感しています。人材の育成が急務ですね。
◎外科といっても手術だけではない
脳神経外科と聞くと手術のイメージが強いと思います。しかし、それ以外にもリハビリテーション、放射線治療、ペインクリニックなど多くの分野に関わることができます。
ですから必ずしも、手術が上手な人でなくてもいいのです。いろんな個性がある人に脳神経外科に来てもらいたいですね。私たちは、その個性を最大限に尊重して丁寧に指導していくつもりです。
「三重大学に行けば立派な脳神経外科医になれる」。いつの日か、世間にそう言われ、多くの若手が集まってくるようになるのが私の目標です。
◎研究マインドが臨床にも生きる
教室員には大学院に進むことを推奨しています。研究をすることで、臨床で出てきた疑問に対する解決策を模索することができ、そこから新しい診断法、治療法を見つけることも可能になる。研究マインドを持った臨床医が私の理想ですね。
私の研究テーマは、クモ膜下出血後に起こる脳血管攣(れん)縮です。
クモ膜下出血の手術が成功して元気になったものの数日後に意識障害を起こし、まひなどの後遺症が出てしまうのが脳血管攣縮です。
脳神経外科はとても魅力的な領域だと思っています。脳の機能については分からないことがいっぱいあるし、治療法も、まだまだ確立されているとは言えません。
私はそんな未知の領域が多い脳神経外科で新しい治療法を発見したいと思い、脳神経外科医を志したのです。
◎救急隊をトレーニング
高齢化に伴い、脳神経外科疾患で言うと、脳梗塞の発症数が増えています。
津市には大きな病院が少なく超急性期の脳梗塞の血管内治療ができる病院が当院と三重中央医療センターしかありません。そこで、どちらの病院でも24時間365日、対応できる体制を整えています。
当院では救急隊員を集めて定期的なトレーニングを実施しています。例えば脳卒中の患者さんに対する適切な処置の仕方などのシミュレーションをするわけです。
救急対応を誤ってしまうと重症化、後遺症のリスクが高まってしまいますので、こうしたトレーニングは大事だと思います。
◎キャリア継続のために
脳神経外科医は座って手術をします。身体的な負担は外科系の他の科よりも少ない。女性にも向いている科だと思います。
女性医師がキャリアを継続していく上で、壁になるのが結婚、出産でしょう。専門医を取得し「いよいよこれからだ」という時期が、結婚や出産時期と重なってしまうのです。
現在は病院内に託児所があります。当教室でも産休・育休はもちろん、復帰後もさまざまな働き方の選択が可能です。
◎オンオフの切り替え
私たちが研修医の頃は月曜日に出勤して、ずっと病院に泊まり込み、土曜日に帰宅するという生活でした。オンとオフの境目がなかったのです。
アメリカに留学して驚いたことがあります。同僚を食事に誘うために電話すると「今、2週間の休暇中なので行けません」と言うのです。
アメリカは夏休み以外でも、連続した休みが取りやすい環境です。オンとオフがハッキリわかれている。しかし日本では、なかなかまとまった休みが取りにくい状況です。
そうは言っても、今はだいぶ改善されてきました。夏休みは1週間から2週間しっかりと取れています。また土日も交代で休んでいます。
三重大学大学院 脳神経外科学
津市江戸橋2-174
TEL:059-232-1111(代表)
http://www.medic.mie-u.ac.jp/neurosurgery/