アウトリーチで心房細動予備軍を発見 大阪発「住吉モデル」の可能性
大阪府立5病院の年間の入院患者数はのべ92.1万人。政策医療を担う公立病院は赤字体質になりがちだが、府立急性期・総合医療センターは、大阪市立3院を含む他7つの公立病院と比較し、運営の効率化に成功している(上山信一・慶応義塾大学総合政策学部教授の試算による)。研修医を多く受け入れてきた実績もあり、2006 年の独法化後はますます存在感が増している。
福並新病院長が描く病院像とは。
新病院長として
長年自分が思い描いていた病院像を実現できることは、重責ではありますが非常にやりがいがあります。
独立行政法人化する前と比べると、患者さんの数が3倍近くまで増えました。病院建物はそのままですので、それだけの患者さんを診療するためには病床を可能な限り有効活用して、在院日数を減らす必要があります。実際、以前は30日を超えていた在院日数が約10日にまで減っています。
そのうえで、病院理念にもありますが、急性期から高度医療まで、持てる知識と技術を総動員して良質な医療を提供するということを目指します。この病院の持ち味である、総合病院としての「総合力」を最大限発揮することが重要になるでしょう。
総合病院はたくさんありますが、そこでいう「総合」とは得てして複数の診療科を置いているという意味になりがちです。われわれの持ち味は診療科の壁を取り払った総合力であって、診療科単独で動くよりもより患者さんの側に立った医療を提供することができます。
また、当院の伝統でもありますが、医療人の育成にはかなり力を割いています。医学生の研修病院先として、府内でベスト3に入るほど人気のある病院になりました。
人気の理由はやはり、「医師としての総合力」を養えることでしょう。自分が受け持つ患者さんが他の病気になったとしても、当院には必ずその病気の専門家がいますから、すぐに指導することができます。かなり忙しいことは確かですが、幅広い症例を診ることができて、診療科横断的な力を持った医師になれるので、研修医にとっては理想的な環境でしょう。ERもあるため、救急患者さんにどうやって診断を下すかという技術も身に付きます。
ますます重要になる病・病間、病・診間の連携については、医科系で500人、歯科系で300人の登録医の方向けに、2011年からインターネットによる診療予約システム「C@RNA」を導入しています。このシステムを使えば、患者さんの目の前でディスプレー上で予約を取ることができます。
2015年からは、患者さんの同意を前提に、登録医とセンター間で電子カルテを共有できる「万代e―ネット」(診療情報地域連携システム)を運用しています。患者さんの情報を電子カルテ上にアップロードすれば、登録医は画像も含めてリアルタイムに情報に接することができますので、好評です。
「住吉モデル」を全国へ
私は循環器が専門ですが、2年前くらいから全国で初めて心房細動検診の出張無料検診を始めました。心房細動は心臓の不整脈の一種ですが、重症の脳梗塞を引き起こす可能性があります。
つまり、不整脈で心房内血液がたまって大きな血栓ができると、それが動脈を経由して脳の血管に入り、血管をふさいで脳梗塞(心原性脳塞栓症)を引き起こすわけです。元巨人軍監督の長嶋茂雄さんもこの病気になりました。死亡率が約20%、寝たきりなどの介護になる確率も約50%と非常にこわい病気です。
脳梗塞になった場合、医療費が年間200万円ほど、寝たきりになった場合の介護費も含めると約500万円になることもありますので、予防することができれば、ご家族が介護離職をする可能性も減りますし、医療経済的にも評価できます。
心房細動は75歳くらいから増え始め、加齢とともにリスクが高まりますが、早期発見できると、薬剤を使った抗凝固療法で、高い確率で脳梗塞を予防することができます。しかし、患者さんの半分は自覚症状を持たないので、なかなか検診に応じてもらえません。
2014年10月から検診を始め、7回の検診で663人の方を検診しましたが、20人の方が心房細動で、そのうち半数の方が未治療でした。
まずは地元の住吉区から心房細動検診を広めようと、住吉区長や医師会長などの関係各所と調整して始めました。
新しい形の地域医療支援病院として、この検診事業「住吉モデル」を全国に広げていきたいと考えています。
地方独立行政法人大阪府立病院機構
大阪府立急性期・総合医療センター
大阪市住吉区万代東3丁目1番56 号
☎06・6692・1201(代表)
http://www.gh.opho.jp/