今、医療は街づくりに貢献しなければならない
1948年4月。戦後の八代地域の医療を担う目的で、「健康保険八代総合病院」が開設された。それから70年。熊本総合病院へと名を変えた同院の、島田信也病院長は「医療をもって、公に一肌脱ぐ」を掲げ、地域の未来を見据えている。
―次々と、新たな取り組みをされている印象です。
8月、手術支援ロボット「ダビンチ」の最新型「Xi」を導入しました。県内でダビンチがあるのは、熊本市内の2医療機関。県南地域では、当院が初です。
現在は、スタッフが研修を受けている段階です。今後、デモンストレーションなどを経て、12月には治療を開始できる見込みです。
昨年には、九州で唯一となる「中耳・内耳手術センター」を開設しました。フルハイビジョンカメラを搭載した高性能内視鏡を使う「経外耳道的内視鏡下耳科手術法」を実施している点が大きな強みです。
顕微鏡手術の場合、耳の後ろの皮膚を切り、骨を大きく削りますが、この方法は耳の中を小さく切開するだけで済みます。痛みやはれが少なく、回復も早いので、患者さんの負担軽減につながっています。
世界でこの手術をけん引する「インターナショナル・ワーキンググループ・オン・エンドスコピック・イヤー・サージャリー」には94人のメンバーが所属しており、当院中耳・内耳手術センターの蓑田涼生センター長もその一人。日本人はわずか11人しかいませんので、九州でこの手術ができる医師は本当に少ないと思います。
そのほか、2019年3月の廃止が決まっている八代市立病院の病床66床のうち65床を、当院と八代北部地域医療センターで引き継ぐことが決まりました。
当院の病床は56床増えて、400床に。増床後は、地域包括ケア病棟を開設する予定です。市立病院の外来機能も当院が担う方向で、協議が進んでいるところです。
―開院から70年です。
公益事務組合会館を買い取り、改築して開院した100床の病院は、増床と移転、病院名変更などを経て今に至ります。
私が病院長に就いて12年。赤字が続いていた2006年秋に就任し、直後から全職員へのヒアリング、医師のリクルーティング、地域の医療機関巡りを実施。整形外科など休診していた診療科の再開、黒字達成、電子カルテ稼働、新病院建設...と、とにかく必死でしたね。
特に新病院建設事業は、土地取得から開院まで5年をかけました。
コンセプトは「最新の機器を有する進化する病院」「美しく重厚な100年長寿建築であり、八代の美しい街創りの主役となること」。御影石の外装、患者さんが雨にぬれない50mに及ぶひさし、マホガニーの壁面など、設計から材料にまで、力を注ぎました。2年半前の大きな地震にも耐え、被災した地域の方を受け入れることができました。
現在、病床稼働率は99%を超えています。手術件数、救急車搬入台数、救急患者数も右肩上がりで、紹介率は約85%、逆紹介率は75%ほどです。高度急性期病院として、今後も発展していきたいと思います。
八代港には、中国からの大きな客船が来ます。突然の病気やけがで、これまでに当院にも中国の方が何人か入院しました。しかし、観光をしていく外国人はほとんどいません。街づくりが十分ではないからだと思います。
美しい街ができれば、観光だけでなく、医療を受けるために訪れる外国の方も増えるでしょう。「病院は医療だけやればいい」というのは、もう古い。街づくりができなければ、人口がどんどん減り、医療も衰退します。
病院が街づくりの一翼を担う。それが、これから求められる役割の一つであり、トレンドだと私は考えています。
独立行政法人 地域医療機能推進機構 熊本総合病院
熊本県八代市通町10-10
TEL:0965-32-7111(代表)
https://kumamoto.jcho.go.jp/