南部中央病院理事長/院長 坂本 憲史
■日本整形外科学会専門医 日本整形外科学会認定スポーツ医 日本整形外科学会認定リウマチ医 日本リハビリテーション医学会認定臨床医 日本リウマチ学会専門医 厚生省義肢装具等適合判定医 日本医師会認定産業医 身体障害者等級判定指定医趣味はゴルフ。カートを使わず歩くという。
熊本交通センターから南部中央病院までおよそ6.5km。インタビュー相手がひざ関節の専門だからというわけではなく、バスで20分ならいっそ歩いてみようと思った。 そして到着したのは2時間半後。そのことを坂本憲史理事長に話したら、「交通センターからここまで歩いた人を初めて見た」とずいぶん驚かれた。
―どうして医者になろうと。
祖父が熊本県北部の玉名市で産婦人科医をやっていて、それを父が引き継ぎ、今は兄が継いでいます。私は次男で自由でしたが、やはり医者になろうと思っていました。また、祖母がリウマチで、足が曲がってほぼ寝たきりでした。それを見て、歩けないのはこんなに不便なのだと子供心に思いました。78歳で亡くなりましたが、どこにも行けないのは老後にとって不幸なことです。当時は人工関節などありませんでしたからね。整形外科医になったのはそれがいくらか影響しているかもしれません。
さらには手先が器用でしたから、整形外科や形成に生かせるんじゃないかと思ったんです。そこでおのずと内科系より外科系を選ぶことになり、そしてそれは正しかったと思っています。
―他科との大きな違いは。
整形は機能、ファンクショナルの外科ですから、希望があれば何歳になっても手術が可能で、90歳で手術された方も少なくありません。QOLで考えますと、残りの寿命が3年だとしても、その3年を足が痛くてベッドで過ごすのと、手術の苦労はあるにしても、自由に歩ける3年間とどちらが幸せかということです。
最近は健康寿命が延びて入院患者さんも高齢の方が増え、かといってみんな寝たきりになるかといえばそうでもない。多くの方が元気に帰っていかれます。そして「旅行に行って来ました」と手みやげをもって来られ、こちらがびっくりすることがあります。
―記憶に残る患者さんもいるでしょう。
足がすごいO脚で、40度くらい曲がっておられて、レントゲンを見た時に、これはちょっと手術はむつかしいかなと思ったんですけど、骨を移植したり特殊な人工関節を使ったりして、その方を手術したのが15年前くらいですが、とても元気に歩けるようになって、今でも定期的なチェックのため年に1回来られています。
―もう1つの人生をもらったようなものでしょうね。
そんな表現をされるとうれしいですね。生死に関わることではないけど、この患者さんが豊かな人生をおくるためにどう治療するか、ということになります。自分の足で歩けるということは、循環器や骨にも大きく影響します。そこが整形外科の使命だと思っています。
―車社会の中でどのような生活が健康にいいですか。
和食をもう少し見直したほうがいいと思います。それとやはり、できるだけ歩くことです。30分や1時間は歩くことが大事です。自分の足でここまで移動したということが自信につながりますし、限界もわかります。だからといって交通センターからここまではちょっと極端ですが(笑)、タクシーの基本料金で行ける距離なら歩いたほうがいいでしょうね。
私たち整形外科医にはスポーツの愛好者が多く、60歳を過ぎても熊本城マラソンを完走する人が多いんですよ。私はゴルフが趣味で、カートを使わずに歩きます。週に一度、小雨くらいなら平気です。
いっしょにゴルフをする仲間が年上の医師で、その先生たちが歩いているのに自分だけカートというわけにもいきませんからね。
―南部中央病院が地域から求められている役割は。
ここは昭和55年に、外科医だった義父が開業し、病院としては成り立っていました。今は当時とは時代が違い、「ここだったら間違いなく治してくれる」という得意分野が必要です。そのイメージが口コミで広がっていく。さいわい当院は現在そうなっています
連携もとても大事で、1つの病院だけでやっていける状況ではありません。この地域は済生会熊本病院を核とした病診連携があり、当院もそのうちの1つでありながら、この地域で必要とされているわけです。
最近の患者さんは大きな病院への指向が強いようです。でも実際にはドクターが誰かで決まるんです。医療の根本は、患者さんと医師との信頼関係だと思います。そこができていなければどんな診療もうまくいきません。まったく知らない医者にメスを入れられるのは誰でもいやです。そこの絆を築くまでが大変で、でも大切なことなので、患者さんとじっくり向き合うようにしています。