今、「支える」に求められるのは
1981(昭和56)年開設の王司病院。2016(平成28)年には病院創立35周年を迎える。麻上千鳥理事長は、日本で最初の国立大学臨床教授となった経歴を持つ。広い観点から医療をどう見ているかを聞いた。麻生太郎法人統括部医療マネージャー(看護部長)が同席した。
―最近の医療をどう見ますか。
医療費がかかり過ぎるといって削る方向ばかりが打ち出されているようです。わからなくもないけど、人間が一番大切なんですよね。
この病院が開設された当時はバブル時代の右肩上がりで、患者さんも若くて治る人も多く、今のようになるとは誰も予想しなかったと思います。今は、治して家に帰ってもらうことのほかに「支える」が加わりました。生きていく上で生じるさまざまな苦痛を取り除くことです。
病気の期間が短くて元気が長い―健康寿命のことがよく持ち上がりますが、誰にも来る死をどう迎えるかは、家族にとっても大きな問題です。
30年後はみんな100歳くらいまで生きるそうですが、だからといって定年をいくら延長しても、頭をすぐに切り替えられる人でなければ時代の急激な変化には追いつけません。国際的な感覚や創造的な発想も求められるでしょう。そこはiPS細胞の時代がいずれ到来する医療の現場も同じだと思います。
―がんと認知症者が増えていることについて。
がんは早期発見早期治療の方向でいいと思います。認知症は、これまで診てきた80歳を過ぎた患者さん200人の中に、農業とゴルフをやっている人はいませんでした。2015年にノーベル賞を受賞された大村智博士も「農業をやっている人は脳科学者と同じ」と話しています。かなりの高齢でも頭のはっきりしている人に聞いてみると、新聞を読んだり家計簿をつけたりしている人が多いです。独り暮らしの人も身の回りのことを全部やりますからなりにくい。だから、生活の中で予防する方法はいくつもあるんです。便利に甘えないことでしょうね。
このことで思うのは、子供が遠方で働いている独り暮らしの人は、病気になって子供が介護のために戻ってきたら、国の働き手が1人減ります。だから私たちの施設で支えてあげたら、国の経済を支えることにもなります。その観点も今求められているのではないでしょうか。
―医師に必要なことは。
これからはiPSのような最先端に進む人と、この病院のように、積極的には見えないけれども患者さんの生活を支える医者になるかに大きく分かれると思うんですよ。そして人を相手にする場合はコミュニケーションが一番大切です。それを私が実感したのは、教授の時代に2人が入局してきたことがありました。1人は成績がずっとトップ、もう1人は二浪してようやく受かったような人で、でも二浪したほうが看護師や患者さんにすごく好かれたんです。だから職員を採用する時は話をさせてコミュニケーション力を見て、話さない人は雇わないようにと言っています。患者さんは人間ですから、言葉で触れ合えない人はこの世界では生きていけないと思います。
―今後の方向は。
当院には回復期と慢性期の病棟があり、認知症の病棟もあって、週に1回私が回診するんですが、認知症病棟以外にも多くの認知症患者が入院を余儀なくされている現状にかんがみ、今後は認知症の診断のあるなしに関わらず、認知機能が低下して、かつ肺炎やその他感染症などを併発した患者さんを治療できる病棟を新しくつくろうかと思っています。うちには精神科と内科の医者がおり、優秀な理学療法士も看護師もたくさんいて、患者さんの評判もいいですからね。
高齢化に伴って細かいことがわかりにくくなっても、日常生活ができてさえいればいいんです。それには生き方を変える必要もあるでしょうし、実際には合併症も出ますから、それをサポートする病棟があったほうがいいのではと思っているところです。
山口県下関市王司本町1丁目18-27 TEL:083-248-3631
- 王司病院
- ■診療科目:内科 循環器内科 消化器内科 神経内科 整形外科 リハビリテーション科 皮膚科泌尿器科 精神科 歯科血液内科 耳鼻咽喉科 物忘れ外来
- ■部門:看護部 検査部 薬剤部 リハビリテーション部 栄養管理部 地域連携部 通所リハビリテーション 訪問リハビリテーション
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- ●季朋会クリニック ●老人保健施設 王喜苑 ●王喜苑居宅介護支援センター ●地域密着型介護老人福祉施設 王司さざなみ荘