岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 消化器外科学 教授 藤原 俊義
うちは外科ですが、何が何でも手術ということではない。 手術ができなくても、やさしい治療ができますよ、というのも、売りではないでしょうか。(藤原 俊義)
―教室の特徴は。
私たちの教室は大正11年に第一外科として開講されました。以前は、心臓以外のすべての臓器に対応し、関連施設に心臓病のメッカといわれる病院もありましたから、「全身を診られる外科医をつくる」という基盤を、昔の先生がつくったということですね。今は全国的な流れもあり、ジェネラリストからスペシャリストを育てる傾向へと移行しています。消化管外科、肝胆膵外科のほか、小児外科にも力を入れて取り組んでいます。
―独自の手術、治療で知られています。
消化器外科としては、ダ・ビンチ(手術支援ロボットの一種)を使ったオリジナルの胃がん手術に力を入れています。当初は胃の下部を切り取る「幽門側胃切除」で開始しました。最初10例は病院から出る公費ででき、導入から2例は外部から指導に来てもらいました。8例は我々だけで行ない、昨年10例終えました。そのころになると、多くの他施設でも同じようなことがされ始めたので、昨年の2月、我々しかできない方法を始めました。
同門の先輩が、胃の上半分を取って食道と吻合するのに、「観音開き法」という特殊な方法を開発されています。残った胃を食道に直接つなげると、術後に胃酸が逆流し、逆 流性食道炎などが起きます。それで、胃壁の薄い皮を開いて食道につけ、皮をかぶせることで、逆流防止弁を作ります。観音開き状の弁ができて、胃酸が食道に上がらないというわけです。これまでは開腹手術や腹腔鏡でやっていましたが、縫う操作が多いので、ダ・ビンチで始めてみました。これはほかの施設はどこもやっていない方法です。
―がん細胞だけを死滅させる抗がん剤「テロメライシン」でも注目されていますね。
私が入局した時の折田薫三教授は研究に熱心に取り組まれ、私もアメリカに留学させてもらい、遺伝子治療を勉強しました。そして、10数年前に臨床試験として初めて、肺がんの遺伝子治療を開始。育ててきた若い先生が引き継ぎ、平成14年に開発されたのが、がん細胞の中でだけ増えるよう遺伝子操作した抗がんウイルス製剤「テロメライシン」です。
この技術を核に、平成16年には岡山大学発のベンチャー企業をつくり、アメリカでの臨床試験で安全性を確認。昨年11月には、手術ができない高齢の患者さんに対して、テロメライシンと放射線での治療を開始しました。これも、オリジナルな治療です。うちは外科ですが、何が何でも手術ということではない。手術ができなくても、やさしい治療ができますよ、というのも、売りではないでしょうか。
―他科との連携はどうですか。
安心、安全な治療ということで、患者の負担が小さい鏡視下手術に以前から取り組んできました。平成24年には、岡山県の地域医療再生計画の支援で補助金を受け、「低侵 襲治療センター」を開設。提案者の私がセンター長をしています。
消化管、肝胆膵、呼吸器、泌尿器と、鏡視下手術に興味があるメンバーでスタートし、そのあとに取り組み始めた小児外科とも協力しながらやっています。
臓器に関しては専門化していますが、使用する機器は共通のものが多い。センターでは複数のメーカーの内視鏡を入れて、メリットデメリットを考えて使ったりもしています。一つの科で導入してしまうと、ほかの科が使えないということもおきてしまう。一緒に使うことが、補助金の使い道としても運営的にもいいと思います。
―人材育成の方法、コツは。
外科医は、最初は手術のトレーニングを一生懸命しなければなりません。今は鏡視下手術で、みんながモニターを見られるので、教育的には良いと思います。開腹だと、術者がいて、前立ちがいて、若い助手はなかなか見られなかった。
低侵襲治療センターには、シミュレーターを使ってトレーニングできる環境もできてきていますし、これからもっとブラッシュアップしていきたいと思っています。
初めのうちは専門医に向かって頑張ると思いますが、ある程度めどが立ったら、今度は研究に関わってほしいですね。仮説を立て、実験し、解析して、という論理的な 考え方は、手術や治療戦略の立て方にも生きてくる。研究をいかに臨床にフィードバックできるかということを伝えるようにしています。
関連病院への派遣についても、納得していってもらえるよう努力しています。気をつけていることは、期間を決めることと、派遣先で何が学べるかを明確に説明すること。そうすれば、今の若い人も理解してくれます。