臨床力、人間力、発信力
この4月、福岡大学医学部消化器外科教室に新教授が就任した。前・京都大学大学院医学研究科消化管外科講師の長谷川傑教授。医師としての多くの期間を、近畿で過ごしてきた長谷川教授から見た、福岡大学医学部消化器外科教室の特徴などを聞いた。
幅広さを強みに
―この教室にきて3カ月。感じている特徴、強みは。
長年いた京都やその周辺を含めた近畿地方と、ここ九州では、さまざまな面でだいぶ違うと感じています。
私が以前所属していたのは、「消化管」外科です。今、外科の中での細分化が進み、大学病院やがんセンターなどの先進施設では、食道と胃の上部消化管、大腸などの下部消化管、さらには肝胆膵と科が分かれているところが増えてきていると思います。
でも、この教室は「消化器外科」というくくりで、上部下部消化管から肝胆膵外科まで広い範囲をカバーしている。それが特徴の一つだと思っています。
さらにいうと、診療の内容が広い、と感じています。
手術だけでなく、抗がん剤治療、内視鏡や胃カメラ、大腸カメラを使った外科的処置も当科ではやっています。これまで、私の周りの環境では内視鏡の処置などは内科の先生がやっていることが多かったので、とても新鮮に感じました。
特に、ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)や、胆石や総胆管結石に対する治療「EST(内視鏡的十二指腸乳頭括約筋切開術)」を外科でしているのは驚きました。
福岡大学の消化器外科では先々代の池田靖洋教授のご専門が肝胆膵で、ERCPなどの胆道系の内視鏡処置に大事に取り9 福 岡福 岡大腸疾患の低侵襲治療大腸がんの患者さんをご紹介ください組んできたという歴史的背景があるようです。その流れが脈々と受け継がれているのが、良いところだと思いますし、外科としての強みでもあると感じます。
同じ科の中にさまざまな選択肢があることは良いことだと思いますし、風通しよく、さまざまなディスカッションができるのも強みだと感じます。
最近、診療科の細分化が進んだことで、一人の患者さんに対して、一部分でしか関わることができない、ということも増えています。患者さんの経過を連続して診ていけるというのはいろいろな意味で強いのではないかなと、それがここに来て感じた大きなところです。
個別化治療がキーワード
―今後の方向性は。
これまで挙げてきた良い点はずっと残していきたいと思っています。
でも、この対象となる臓器の多さや診療範囲の広さは、一つ一つが手薄になるということにもつながりかねません。時代の流れに、最先端のところでキャッチアップしていくことも、大事になると思います。
特に手術の技術、機器、ロボットやナビゲーション手術の導入など、外科の治療も変化してきています。それらにも、しっかりと対応していかなければならないと思っています。
私たちが診る患者さんの大部分が、がんの患者さんです。がん治療では遺伝子治療が始まり、抗がん剤にも分子標的治療薬が入り、選択肢が増えています。一人一人に合わせた「個別化治療」の時代になってきているのです。
この個別化治療は、今後さらに重視されてくるでしょう。臨床でも、研究でも、そのことを念頭に置いて進めていく必要があると思います。
人材育成の3本柱
―就任の抱負を聞かせてください。
就任時、こういう力を持った人材を育てたい、という「三つの柱」を掲げました。
一つ目は「臨床力」。私は、手術を一生懸命やってきた人間です。手術の力、さらには診断から術後管理に至るまでの臨床力を身に着けてほしいと思っています。
二つ目は、「人間力」。責任感がしっかりとあって、みんなから信頼されるような医師を育成したいと思います。
三つ目としては、「発信力」。学会での発表、論文での発表ができる人材を育てたいと思います。そのためには、広くグローバルなところに目を置き、普段からリサーチマインドを持って研究していけるような、土壌づくりをしていきたい。それが、私の役目だと考えています。
現在、医局の人数は14人。範囲が広いので、一人一人にかかる負担は大きくなってしまっているかもしれませんね。外科医になる人が減ってきていますので、外科の魅力を伝え、増やしていけるよう努力したいと思っています。
外科は責任も大きくて〝しんどい〟でも、それ以上にやりがいがある
―外科医の魅力は何でしょう。
疾患、治療が多岐にわたること。興味を持てる範囲が広いというのは、魅力の一つであるかなと思います。
さらには、やはり、自分の技術で直接患者さんに貢献できるということ。そういう意味で責任も大きくて〝しんどい〞んですけれど、やりがいがある仕事かなと思っています。
外科というと、チーム医療が必須です。そういった面でいうと、この医局はアットホームで、面倒見のいい人たちがそろっていると思います。
―なぜ、消化器外科医になったのですか。
外科の、患者さんに直接手を施して、治療をしていくという点に大きな魅力を感じました。
大学時代、ボート部だったので、整形外科とも迷いましたが、当時は「外科=消化器」というイメージが頭にあったのでしょうね。
自分が手術した患者さんが、合併症を起こしたり、がんが再発したり、うまくいかない経過をたどることも、もちろんあります。そういう経験をすると、すごく落ち込むというか、責任を感じます。それは外科医のつらい点だと思います。
でも逆に、難しい手術でがんがきれいに取れ、元気になって帰っていただける姿を見ると、その喜びはひとしおです。
人材育成に思いを巡らせる
―最後に読者に伝えたいことを。
この教室は、臨床の力を大切に運営していくということが大きな柱です。
合併症や、再発が少ないよう、治療方法を選択し、実際の治療にあたっていきます。
また、患者さんとのコミュニケーションをしっかりととっていくことも重要視しています。
患者さんには、「医師に言われたら、その通りにしなければ」という気持ちが少なからずあると思います。しかし、それぞれの患者さんによって、身体的、社会的状況は異なります。医療の「押しつけ」にならないように、ということは常に思っています。
私はずっと、大腸の低侵襲治療を専門にしてきました。こちらに来させていただくことになったのも、その部分を評価いただいた面もあったと思います。大腸がんなどの治療に関して、お悩みの症例などがありましたら、ぜひご紹介いただければと思います。
大腸疾患の低侵襲治療大腸がんの患者さんをご紹介ください
①直腸がんで、
肛門を残せるかどうかの判断が微妙...
排尿機能や性機能を維持したい...
②早期がんから進行がんまで
お悩みの症例があればぜひご相談ください
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