広がるがん治療の選択肢
「患者さんの希望と状態をよく把握して治療法を選択していきます」と九州大学泌尿器科の江藤正俊教授は、何度も繰り返す。手術、化学療法、放射線治療、さらには免疫療法。さまざまな選択肢を提示し、患者にとって、より良い治療法を模索し続ける。
―泌尿器のがんの現状や新たな治療は。
前立腺、腎臓、膀胱...泌尿器のがんは増えています。前立腺がんに関して言えば、PSA(前立腺ガン特異抗原)による検診の普及が発見率向上を大きく後押ししています。これには「過剰診断」などといった批判的な意見もありますが、早期発見が死亡率を減らすことにつながる。普及させていくべきだと思います。
腎がんは、ほかの臓器の検査をしていて偶然見つかることが多く、そのようながんを総称して「偶発がん」と呼んでいます。発見率アップに、CTやエコーの普及が力になってますね。
前立腺がんで非常におとなしい一部のがんでは経過観察で様子を見ます。前立腺がんに対する治療では、手術支援ロボット「ダビンチ」での手術が注目を集めていますが、当然、すべてのケースでロボットを活用するわけではありません。
治療には外科的手術、化学療法、放射線治療、それに免疫療法があります。何が適応するのか生検で判断したり、PSAの値をみたり、悪性度を判断するグリソンスコアを確認したり。これらと患者さんの希望を組み合わせて、治療法を決めていきます。
必ずしも手術が良いというわけではありません。経過観察にするのか、治療を始めるのか。放射線治療にしても、放射性同位元素を閉じ込めたカプセルを体内に入れて中から照射する「密封小線源治療」にするのか、外からの照射が良いのか。さまざまな選択肢の中で、どの方法だったら患者さんに合うのかを検討し、最終的には患者さんに選んでいただいています。
免疫療法については、画期的な薬が開発され、多くのがん治療を変えてきています。
免疫の働きにブレーキがかからないようにする免疫チェックポイント阻害薬「ニボルマブ(オプジーボ)」や「ペムブロリズマブ(キイトルーダ)」などが注目を集めています。肺がん、膀胱がん、腎臓がんに有効とされ、適応も広がっています。
これまでのがん治療は外科的手術、化学療法、放射線治療の3本柱でした。これから、4本目の柱として一層、研究開発が進んでいくと思います。
―九州大学泌尿器科の特色である治療は。
九州大学には先端医工診療部と先端医療イノベーションセンターがあり、今は私が部長・センター長を務めています。
われわれは、この春退官された前任の橋爪誠先生と共同で、ダビンチを使った手術を安全に進めるための自動追尾型ナビゲーションシステムの開発を行ってきました。このシステムを使えば患部の位置を見失うことがありません。
自動追尾のナビシステムは、脳神経外科や耳鼻咽喉科といった患部が骨によって固定されている領域で活用が進んでいます。腎臓もお腹の中ですが、ある程度固定されているため、ナビゲーションが適応できるのです。これは、九州大学オリジナルの方法。強みだと言えると思います。
通常の前立腺全摘術の場合、手術後に性機能が損なわれることが高い頻度で起こります。そこで、片側または両側の勃起神経を残す「神経温存前立腺全摘術」も実施しています。性機能の温存は、術後の生活の質にも密接にかかわります。希望する方が日本でも増えてきているという印象です。「ダビンチ」の登場も、希望者増加に影響しているかもしれませんね。
ただ、機能温存と根治性は相反する部分もある。患者さんとよく話をして決定していくことが、どのような治療においても大事だと考えています。
九州大学大学院医学研究院 泌尿器科学分野
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