幅広いキャリアパスで 将来を見据えた人材育成
―新専門医制度は脳神経外科の研修プログラム制度がモデルになったと言われています。
脳神経外科学会の認定制度は、1966年に麻酔科に続き2番目の専門医制度として制定されました。厳格で長い歴史のある制度です。
さらに、脳神経外科学会では6年前から新専門医制度で採用となった「プログラム制」による教育を始めていました。新制度に合致した制度を早くから取り入れていたこともあり、開始にあたって特に大きな混乱はなかったと思います。
―専攻医の登録結果をうけてどう感じますか。
日本専門医機構は、東京・神奈川・愛知・大阪・福岡の5都府県において、外科、産婦人科など14の基本領域では原則として過去5年間の採用実績の平均値を超えないよう制限をかけています。脳神経外科は均てん化がすすんでいるとは言え、都市部への集中を避けるということで調整の対象となりました。
九州大学は福岡ですから制限されていますが、これが都市部以外への専攻医流入につながるのかは疑問です。九州地方でも本年の一次登録の結果を見ると、専攻医がゼロの県も多い。九州大学などの都市部の大学はこれらの地域の関連病院に医師を派遣しています。都市部ということで一様に制限がかけられると、派遣先の地域にも影響が出ますし、九州全体の人材が枯渇する結果を招きかねないと危惧しています。
「外科医の目を持った神経系総合医」というのが、日本脳神経外科学会による脳神経外科医の定義です。高齢化社会では脳卒中や認知症が増えていきますから、脳神経外科医は今後ますます必要とされるでしょう。社会の変化に呼応して、神経系の病気に対応し、その医療をリードする。そんな医師を持続的に育成していきたいですね。
―九州大学のプログラムの特徴は。
まず言えるのは、症例の豊富さとバラエティーです。サブスペシャルティの専門研修や地域医療も、関連・連携病院で幅広く受けられる。各領域のスペシャリストが熱心に指導していますから、このプログラムを完遂すればかなりの臨床力が身につくはずです。
さらに大学院に進んで基礎研究に携われば、臨床だけでは養われない科学的思考を身につけることもできる。論文執筆の機会も多く、留学のチャンスもあります。学問的裏付けがある臨床は強い。臨床力と研究力を兼ね備えた「アカデミックサージョン」を輩出するのがわれわれの使命だと思っています。
―全国的に女性医師の割合が高くなっています。脳神経外科ではどうですか。
女性医師は増加傾向にありますが、脳神経外科ではその割合は5%程度とかなり少ない。「手術や緊急対応でハード」という印象があるのかもしれないですね。
ただ、脳神経外科の範囲は顕微鏡手術だけでなく、血管内治療やガンマナイフのような定位放射線治療など、実に広い。さまざまなキャリアパスがあることをもっとPRし、女性医師の割合を高めていく必要があると思っています。
男女問わず、さまざまな事情、考え方があります。緊急手術も担当し、「バリバリ仕事をしたい」という人、育児や介護などがあり「外来勤務だけならできる」という人など、それぞれに対応した勤務形態も導入していきたいと思っています。
今年、久しぶりの女性入局者となった専攻医は、大学生の時に見た覚醒下手術で、脳が人間を人間たらしめているのだと感動してこの科を志したそうです。家族には過酷なイメージがあるからと反対されたそうですが、一番興味の持てる科を選んだと聞きました。
これから専門医を目指す人たちが、目標に向かって進み、活躍できるよう、より一層環境を整え、指導していきたいですね。
九州大学大学院医学研究院 脳神経外科
福岡市東区馬出3-1-1
TEL:092-641-1151(代表)
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