久留米大学医学部 整形外科学講座 志波 直人 主任教授

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地域から宇宙まで特徴ある講座づくりを

【しば・なおと】 長崎県立諫早高校卒業 1982 久留米大学医学部卒業 同整形外科入局 1991 米メイヨークリニック整形外科バイオメカニクス研究室留学 1998 久留米大学助教授 2004 同病院リハビリテーション部教授・部長 2012 久留米大学医学部整形外科学講座主任教授

 1932年に開講し86年の歴史を持つ整形外科学講座。講座を率いる志波直人主任教授は、福岡県内初となる「日本宇宙航空環境医学会大会」を2017年11月、久留米市で開催、学会長を務めた。宇宙を見据えた研究から地域医療まで幅広い領域に活動を広げる講座への思いとは。

宇宙での研究を臨床に生かすために

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―「第63回日本宇宙航空環境医学会大会」の成果について。

 今大会のメインテーマは「宇宙医学と臨床医学

 同時進行と相互フィードバック―宙陸両用を目指して―」としました。

 1955年発足の歴史ある学会ですが、臨床医が会長となることは珍しいので、できるだけ臨床現場の視点を取り入れたいとも考えました。

 3日間にわたり筋骨格、睡眠、栄養、内耳・平行機能、放射線、大規模災害の六つのテーマについて宇宙医学、臨床医学の専門の先生がシンポジウム、講演、一般演題で発表や討論をしました。

 そのうちの二つのシンポジウムでは、久留米市にある学会会場と宇宙航空研究開発機構(JAXA)の筑波宇宙センター(茨城県)と東京事務所(東京都)の3カ所をインターネットでつなぎ、それぞれの会場の演者の映像を見ながら討議する新しい試みにも挑戦しました。

 宇宙医学と臨床医学がどう結びついていくのかは、われわれ研究者にとっても、まだまだ未知の部分があります。宇宙で得た技術と、臨床の技術をどう連携させるのかということをみんなで考えたいというのが今回の大きな狙いでした。

 例えば「栄養」というテーマでの討議では、JAXAの担当者から宇宙飛行士の宇宙での食事や栄養管理についての話。帝京大学の駅伝チームの管理栄養士からは、栄養が偏りがちな男子大学生の体質を改善した話などを聞くことができました。

 臨床医からは高齢者や高齢者のリハビリテーション時の栄養の話をしてもらいました。それぞれ異なる分野ではありますが、バランスの良い栄養を、効率よく取り入れるためのさまざまな情報を共有できました。

 また、「放射線」のテーマの討議では被ばくの問題に焦点を当てた議論が進みました。宇宙では大変強い宇宙放射線が飛んでいます。そこで宇宙飛行士は被ばくを避けるためにフィルムバッジを付けて線量を計測。ある一定の線量を超えた場合は、その日の任務を終了して、宇宙での放射線の被ばくをコントロールしているという話などをJAXAの担当者から聞くことができました。

 臨床側からは本学放射線治療センターの淡河悦代教授から被ばくの問題や、がん治療に用いられる放射線の有用性についてご発表いただきました。

 地元の高校生や、九州以外の大学の学生たちも聴講に訪れていたのが印象的でしたね。宇宙をテーマにした学会を開くことで、若い世代にも本学の存在を知ってもらうことができたと思います。

―ご自身の研究と宇宙のつながりのきっかけは。

 脳卒中や脊髄損傷などによってまひした手足に、電気刺激で負荷を与えながらリハビリや機能を再建するという研究に取り組んでいました。

 人間は寝たきりになってしまうと体に負荷がかからず、筋力や骨が急速に衰えます。同じように、宇宙では重力がないため、放っておくと骨や筋力に負荷がかからないため急速に衰えます。

 これに対して、電気刺激を運動抵抗にできれば、重しのない宇宙でのトレーニングや臨床で体の不自由な人へのリハビリに活用できるのでは。そうひらめいたのがきっかけになりました。

 まず上肢や下肢にサポーター型の機器を巻きます。そのサポーターを通じて電気刺激を与えながら上肢や下肢を動かして運動。電気刺激によってより負荷をかけて運動ができるというメカニズムです。

 宇宙で使用された「ハイブリッドトレーニング装置」も、同じように電気刺激で負荷をかけながら運動できるというものです。

 「ハイブリッドトレーニング装置」は2013年に国際宇宙ステーション(ISS)に搭載されました。2014年にはJAXAと共同でISS内で宇宙実験を実施。宇宙飛行士の1人が4週間の実験をしました。

 上肢にサポーターを装着して運動をした場合と、装着せずに運動をした場合とを比較。サポーターを装着した場合の腕は筋肉量、骨密度ともに増加していましたが、そうでない場合は減少。トレーニング装置によって、宇宙滞在時の筋肉の衰えを予防できるという可能性を示しました。

 宇宙とのつながりが深まり始めてもう18年経ちますね。

 ハイブリッドトレーニングの考え方を取り入れて、歩きながら効率よく筋力アップトレーニングができるサポーター型の機器「ひざトレーナー」をパナソニックと共同で開発し、実用化することができました。

 サポーター機器をひざ上部に巻いて歩くというタイプで、タイミング良く電気刺激を筋肉に与えることでより負荷がかかるようになっています。

 2015年に市販されて約1万台が販売されたそうです。腹部タイプも開発し、こちらは腹筋を鍛えたいという若い方に需要がありました。

 今年2月には、新機種も加わります。新しい機種では、歩けない患者さんや、自転車をこぐ時に使用するなど、座った状態でも使えるような形状に改良しています。介護施設などで試していただいたところ、足の不自由な方にも安全に使用してもらうことができました。

拡大する講座の役割

―講座の現在の取り組みなどを。

 「リハビリ」と「痛み」というテーマに取り組んでいます。われわれはこれまで、トレーニングをすることで筋力をつけ、骨の萎縮も予防できるという考えに基づく医療を実践してきました。

 次の段階として、リハビリと痛みの関連性の評価をきちんとできればと考えています。高齢化が進み、変形性膝関節症の患者さんが増加。多くの方がその痛みによって立つ、歩く、座るといった基本的な動作が障害されています。

 しかし「痛み」は主観的なものですので客観的な評価が非常に難しい。現在は、当講座の松瀬博夫准教授が中心になって、痛みの強弱を探知する試みを進めています。

 「どの程度の圧力で押さえたら痛みが出るか」という考え方に基づいてアメリカで開発された「痛みの圧力計(アルゴメーター)」を活用。これによって、膝の痛みが強い方の場合、痛覚の閾(いき)値が下がり、痛みを感じやすくなっていることがわかりました。

 リハビリと痛みについて、国立水俣病総合研究センター(熊本県水俣市)と共同で研究することにもなりました。水俣病によって体に障害のある患者さんのリハビリをしながら、痛みのメカニズムを知るための研究です。

 昨年12月15日には、同センターと本学による連携協定も結びました。

 週3日ほど当講座からスタッフを派遣して治療や研究を進めます。水俣病の患者さんの場合、中枢性のまひがありますので筋肉が硬くなり痛みが強い方が多くいらっしゃいます。

 もともと同センターから10年ほど前に当科にリハビリテーション専門医師の派遣を依頼されたのが始まりでした。私は初期の頃、水俣に診療に行っていました。

 今回研究を本格化することになり、患者さんの体の痛みの軽減や日常生活動作の向上につながる研究ができるかと思うと、感慨深いものがあります。

―講座ではスポーツドクターも育成しています。

 オリンピックやプロスポーツの選手を支える「スポーツドクター」も輩出してきました。

 村上秀孝講師もその一人です。現在は国際リーグ戦・スーパーラグビーの日本チーム「サンウルブズ」などのチームドクターを務めています。国際的な試合で活動するスポーツドクターの資格を得るには、専門や英語の試験をパスしなければなりません。そのような人材が育っていることもうれしい限りです。

 東京オリンピックに向け、7人制ラグビーの強化チームのドクターを務めているスタッフもいます。2019年9月には日本で「ラグビーワールドカップ日本大会」が開かれます。そこでも彼らが活躍してくれると思います。

 久留米市はラグビーワールドカップ日本大会の日本チームの公認キャンプ地に立候補しています。この春にはキャンプ地が決まるようです。

 キャンプ地選定には地域にスポーツドクターがいるかなどの医療的な環境があることも久留米誘致の強みになると思います。

 当講座にスポーツドクターがいることで国際的な活動を後押しできれば、今後地域の活性化につながるかもしれません。そんなきっかけになればうれしい限りです。

講座集大成の学会を目指す

―講座運営への思いは。

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 2012年に主任教授に着任して以来、大学病院に脊椎脊髄、高度外傷、骨軟部腫瘍、久留米大学医療センターに関節外科、スポーツ、回復期リハビリテーションと、グループ別の責任者を配置。各グループの強化を進めてきました。今、それぞれのグループが臨床、研究でレベルの高い仕事をしています。

 福岡県には、四つの大学医学部があります。北部は産業医大、福岡都市部は九州大学と福岡大学、南部は久留米大学が高度医療を担います。さらにここは日本南西部の端にある私立大学で、地方都市にあります。臨床的な技術を学び、大学院で研究もできる、より魅力的なものを発信しなければ人が集まらないと考えてきました。

 若い人たちが「久留米大学整形外科で学びたい」と思うような体制を整えることが大事だと思っています。また、高齢社会の中で、地域医療構想・地域包括ケアの構築に対しても臨床や人材育成で貢献していかなければなりません。

 当講座では各グループが切磋琢磨しながら研究などの質を高めて、講座全体として特色を出せるようになってきたと思います。

 2020年には「日本運動器科学会」を久留米市で開催する予定です。

 この学会は、整形外科の中でも、特にリハビリ関連に特化する学会です。これまでの集大成として位置づけ、学会運営に取り組んでいきたいと考えています。

久留米大学医学部 整形外科学講座
福岡県久留米市旭町67
TEL:0942-35-3311(代表)
http://www.med.kurume-u.ac.jp/med/orth/


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