予後不良"悪性脳腫瘍"の新治療 放射線増感性遊走阻害剤の開発
切除が難しいがんの一つ、悪性脳腫瘍。2年生存率は5割に満たない。「現行の標準治療では患者を救えない」と治療法開発に積極的に取り組む石内勝吾教授に話を聞いた。
―脳腫瘍、特に悪性脳腫瘍について、治療の現状を。
安全な範囲でなるべく切除することが基本です。多くの場合、良性腫瘍は手術で取り除くことができれば問題ありませんが、脳の内側に入り込み、大事な機能をつかさどる部分にまで広がるケースが多い悪性脳腫瘍は、切除が難しいのが現状です。
切除できない悪性脳腫傷の治療手段の一つに放射線があります。エックス線、陽子線のほかに、最近では重粒子線、中性子捕捉療法(BNCT)も積極的に取り入れられています。
ただ悪性度の高い膠芽腫(グリオブラストーマ)の場合、照射だけだと予後は半年〜1年程度です。単独の治療は、重粒子線という新しい治療手段も含めて行き詰まっている。それが私たちの感触です。
化学療法と放射線療法を併用するケモラジオテラピーが広く行われ、アルキル化剤のテモゾロミドや血管内皮増殖因子中和剤の併用もなされていますが、全生存期間は延びていません。患者さんの予後を改善するには、放射線療法に対する感受性を高め、かつ腫瘍細胞の移動を食い止め、浸潤性増殖を制御する必要があるのです。
私たちは独自の長い研究開発により、膠芽腫の浸潤性増殖を抑制できる治療、すなわち放射線のがん細胞に対する感受性を高めて、さらに細胞移動を抑制する放射線増感性遊走阻害剤を生み出しました。この治療を受けた患者さんは従来の治療と比較して良好な経過を示す傾向にあり、ランダム化試験を計画しています。
―悪性グリオーマに対する「高気圧酸素治療法」とは。
琉球大学では私が赴任する以前から高気圧酸素療法(HB0)をがん治療に取り入れています。腫瘍組織の酸素化を促し放射線の感受性を高めようとする試みです。
沖縄はマリンスポーツが盛んで、潜水病など年間8000件以上の高気圧酸素治療を行っており、日常的な立ち位置に高気圧酸素療法があります。これをがんに応用しました。
悪性化し、低酸素状態になっている腫瘍は、放射線や抗がん剤に抵抗性を示します。酸素化することで放射線療法の効果が改善し、抗がん剤も血流が増えることで病変に届きやすくなります。予想外なことに脳の機能が良くなるのです。
この治療法については琉球大学が、世界の最先端を走っています。脳神経外科だけではなく、泌尿器科、消化器科などでもがんの治療に取り入れています。
薬剤やその他の治療を応用し腫瘍に対する殺細胞効果を3倍高められれば重粒子と同じ効果を発揮できることになりますし、高額で取り扱いの難しい装置を導入しなくても対応できるのもメリットです。
―沖縄県のがん治療の今後は。
当大学で受け入れる患者の場合、腫瘍自体が来院時にかなり大きくなっている症例が多いのが特徴です。従来は関連性を指摘されていなかった肥満や糖尿病、高脂血症、高尿酸血症が複合的にがんを増殖させ、予後を悪くさせている可能性があることが、最近、判明してきました。
基本的に腫瘍細胞は増殖する時に、糖や脂質をエネルギー代謝に利用しています。それらを多量に取り込むと、腫瘍増殖を促進することになるのです。がん患者に対して、生活習慣病と同じように体重コントロール、食事、運動の指導をすることは、実はがん治療の根本であると改めて感じています。
女性では甘い物、男性では毎日の間食や飲酒の習慣を改めるなど、自己管理や生活改善が成し遂げられた人は、予後も良い傾向にあります。
琉球大学大学院医学研究科 脳神経外科
沖縄県中頭郡西原町上原207
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