野崎東病院名誉院長・宮崎大学名誉教授 田島 直也
野崎東病院は内科、整形外科、泌尿器科、放射線科からなる96床の病院で、ソフトバンクホークスの前身であるダイエー時代から宮崎キャンプのサポート病院となっている。今回は宮崎のスポーツドクターの基礎を築いた田島直也名誉院長に現状と、専門である脊椎外科について聞いた。
Q.スポーツドクターの道に進むきっかけを教えてください。
私はまず1970年に、英国のアリスバーリーにある公共病院ストークマンデヴィルホスピタルに留学しました。この地で開催された「ストーク・マンデビル競技大会」は、のちのパラリンピックのルーツとなった大会です。
この病院は麻痺である脊椎損傷をおもに扱う病院で、車椅子スポーツの発祥の地として知られています。その留学で脊髄損傷を学び、その後ロイヤルナショナル病院では脊椎外科を研鑽いたしました。
一年後に帰国し、その後勤めた長崎大学では車椅子バスケットの監督もしました。
私自身も若いころからバスケットボールや野球などスポーツに慣れ親しんできたこともあり、1979年に宮崎に来てからは整形外科とスポーツ医学に関わりたくて、スポーツドクターの認定を受けて活動し始めました。
Q.とても大きな体育館があるんですね。
この病院は運動器疾患、特にスポーツ外傷のアスレティックリハビリテーションに力を入れています。一般的なリハビリ室に加えて、トレーニング室と体育館を備えていますので、さまざまな競技選手の早期復帰に役だっています。理学療法士は現在14名で、病院内のリハビリテーションにとどまらず、学校の部活動ほか、地域のいろんなチームにトレーナーとして帯同し、けがの予防や応急処置、試合でのサポートをしています。
また毎週水曜日に「ロコモティブシンドローム予防教室」と名付けて、地域のお年寄りを対象に、運動器の健康啓発を目的とした体操教室を開いています。現在30名ほどの参加者がおられます。
あまり知られていないことですが、近年よく言われる骨粗鬆症は若い時期の運動が鍵なのです。長寿社会では子供のころからよく運動しておくことがとても大切です。
Q.専門の脊椎外科について聞かせてください。
例えば高齢者に多く見られる腰部脊柱管狭窄症や頚椎症の治療では背骨、椎間板、関節、黄色靱帯、筋肉などをできるかぎり傷つけないで手術をすることが、その後の生活のために重要です。診察まではどの病院でもしますが、脊椎外科の手術となると、どこでもできるものではありません。顕微鏡を使って手術をしますから設備と訓練が必要です。私達の病院は脊椎外科、泌尿器科ともに顕微鏡や内視鏡を駆使した最少侵襲の技術が特徴です。外科系は以上の2科のみですが、安全性、低侵襲性、先進性を目標に掲げています。
Q.日本医療機能評価機構の認定を取得しています。
2007年と2013年に認定を受けました。
病院機能評価は、患者さんの目に触れない部分も含めた病院の全ての部門の対応や状態を評価されます。ですから私たちの病院の課題や優れているところがはっきりします。
脊椎外科手術と術後のリハビリに関しては、スタッフ、施設とも自信をもって臨んでいますから、それ以外の部門をさらに向上させ、患者さんの満足ために専門家による中立の立場から評価をいただこうと思いました。また、目標を設定することでスタッフの結束も強まります。
実際には看護手順などコメディカルスタッフのマニュアルは長年ありましたが、それ以外の部署全てのマニュアルづくり、さらにそれを審査のために見なおして改訂しつづけるなど、対応にあたる職員は大変だったようです。認定を取得するだけでなく、5年ごとの更新をクリアしていかなければならない苦労もありますが、次回更新の2018年の認定を目標にがんばってくれています。
Q.スポーツ医学を目指す若い人へメッセージを。
私が大会メディカル委員長をしている昨年の青島太平洋マラソンでは1名心肺停止がありましたが、AEDでの素早い対応で救命し、感謝状をいただきました。先ほども言いましたように骨粗鬆症をはじめ、とくに若い時期のスポーツが老後の健康増進に果たす役割は大きいのですが、けがをしたり、死んでしまっては意味がありません。
野崎東病院では理学療法士がボランティアでトレーナーとして県下の部活動などにも帯同し、練習中と試合での傷害予防、またその啓発とトレーニング支援をしています。最近の子どもは二極化が激しく、スポーツをしない子は全くしないと聞きます。スポーツドクターや理学療法士はスポーツによる外傷の予防、治療、アスレティックリハビリテーション、メディカルチェックなどの働きだけでなく、スポーツを苦手としている人たちにもスポーツ本来の楽しさ、喜び、また大切さを広く知らせる者でもあるのです。